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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
116/206

116 苦戦

「ロゼッタさん!ご主人!」


二人は宿屋の床に倒れていた。

『黒豚亭』のご主人はロゼッタを守るようにしっかりと抱きしめたまま、血溜まりの広かった床に横たわっている。

わたしは急いで二人に駆けつけようとしたが、鎧を着た男が正面に立ちふさがった。


「おっと、動くな。余計なことをされては困る」

「・・・どきなさい。今すぐ」

「動くなと言っている」


男は手に持っている剣で床をコツコツ叩いた。

剣からは血が滴っていた。


「あなたがやったの?その二人を」

「ん?ああ、そうだったかな。いちいち覚えていないな」

「なんですって・・・」


その時、宿屋の上階から声がした。


「ベルノ隊長!上の階の捜索が終わりました。こっちにもいないようです」

「そうか、分かった!念のため全員殺しておけ」

「はあ?なんですって!?そんなことして何になるの!やめなさい!」


なんなの、こいつら・・・

手当たり次第殺し回っているの!?


わたしの叫びで上階にいた兵士は足を止め、わたしとわたしの目の前にいるベルノという男を交互に見た。

ベルノは再びわたしの方を見ると、剣で床を叩いていた手を止めた。


「お前、もしかしてニューロックから来た連中の仲間か?自称勇者ってやつはどこにいる?この宿にいると聞いたんだがな」

「・・・それを聞いてどうするのよ」

「決まってる。ぶっ殺すんだよ。王にとって目障りな敵は排除する。邪魔をする奴も排除する。こいつらみたいにな」


こいつらみたいに、ですって?

わたしを探すためだけに、ロゼッタさん達に手をかけたというの?


ご主人とロゼッタは、宿に踏み込み宿泊客の情報を無理やり得ようとしたこの男達に真っ向から抵抗したらしい。

怒りで全身の血が沸騰しそうだった。

同時に、わたしのせいで殺されてしまった皆に謝りたい気持ちでいっぱいになった。


謝ってすむ事じゃないけど・・・

こいつだけは許さない・・・


「あんたが探しているのはわたしよ。表に出なさい。相手になるわ」

「ほう・・・面白え。おい、全員集まれ!」


ベルノが宿の中にいた兵士を全員呼び寄せるのも構わず、わたしは宿の外に向かって歩き出した。


「ディーネちゃん、わたし達が外に出たらロゼッタさん達をお願い」

「承知したのじゃ。こちらは任せよ。ユリよ、冷静にな」

「うん。なるべく頑張る」


ディーネに後を任せ、わたしは宿の外に出た。



宿を出て大通りで少し待つと、ベルノと兵士達がやってきた。

全部で一五人程度だろうか。

うち一人は入り口で見張りをしていた兵士で、まだ気絶しているため他の兵士に引きずられて連れてこられていた。


・・・間違って殴ったんじゃないから謝る必要なし、と。


ベルノ達と向かい合い、臨戦態勢を取る。


「私を探すのに、なぜ関係のない人達まで斬ったの?」

「あ?宿のやつらのことか?それならさっきも言っただろう。邪魔立てしたから斬ったんだよ。それがどうした」

「ロゼッタさんは妊娠していたのよ。もうすぐお子さんが生まれるところだったのよ」

「それが、どうした?」


ニヤニヤしながら答えるベルノに、わたしは怒りで全身が震えた。

怒りと悔しさで涙も滲んできた。


「なんだ、震えているじゃねえか。おまけに泣いてるのか?お前、本当に自称勇者か?」

「・・・うるさいわね。そうよ、ろくに人も守れない、惨めな勇者よ!」

「ふん。・・・おい、囲め」


兵士たちが私の周囲をぐるっと囲み、武器を構えた。


・・・こんな奴らに手加減なんてしない。まとめて風の刃で・・・


その時、ひどい金切り音というか、ピーンという耳鳴りのような音が聞こえてきた。

そして、わたしの魔力発動の兆候が消え、風の刃の発動が抑え込まれた。


・・・なにこれ、ジャミング!?

ベルノを見ると、胸に手を当てて、何かの魔道具を発動しているように見える。


「自称勇者は潤沢な魔力持ちなのだろう?悪いが魔力は抑え込ませてもらった。お前の持っている魔道具は使えんぞ」

「そんな事が・・・卑怯者!」

「勝てばいいんだよ、勝てば・・・やれ」


兵士達が剣を振りかざしてわたしに突撃してきた。

斬りかかってこない兵士も幾人かいたが、その兵士達はその場で弓を構えたのが見えた。

斬撃がわたしを襲い、激音と共に地面が抉れた。


「なんだと・・・?」


ベルノが驚愕の声を上げた。

剣を振り終えた兵士達の中心に、わたしはいなかった。


・・・魔力が外側に放出できないなら、体の中で紡げばいいじゃない。


魔力放出が出来ないならばと、すぐに身体強化を試してみたところ体内には魔力が満ちることが確認できたので、わたしはすぐさま右足を強化し、魔力を込めて地面が抉れるほどに蹴り出し、突っ込んできた一人の兵士に身体強化した体で体当たりをかまして自分ごと吹っ飛んだ。

わたしと体当たりを食らった兵士は黒豚亭と反対側の路地まで吹き飛び、兵士は衝撃で気絶していた。


「いててて・・・」


水の防御が出来ないために軽く体を打ったが、身体強化もしていたおかげで動けないほどではない。

そういえば、あのベルノの使っている魔道具に効果範囲は無いのだろうか。

そう思って今いる場所で魔力を放出してみると、問題なく魔力の放出ができた。


「勝てばいいなら、このまま距離を取って・・・」


でも、そんな事では気持ちがおさまらない。

距離を取って人質でも取られてたら面倒だし。

とりあえず戦い方は分かった。

・・・ゲンコツで黙らせることにしよう。


わたしは路地から歩み出て、ふたたび兵士達に対峙した。

ゆっくり構えを取り、体内に魔力を滾らせて・・・って、あぶなっ!


間一髪避けられたが、容赦なく弓矢で狙撃された。

そういえば弓兵もいたっけ・・・

身体強化をしていても、刺さらないとは限らない。

ゆっくり構えてもいられないとは。

うーん・・・あ。


わたしは道端に手頃なゲンコツ大の石を見つけた。

すぐにそれを拾うと、今、弓を撃ってきた弓兵に向かって力いっぱいぶん投げた。

身体強化で投擲力を増大させて投げた石はとんでもない速度で弓兵に向かって飛び・・・そして外れた。

家の外壁にぶつかった石は、ドオンという大きな音を上げ、壁に大穴を空けた。


・・・コントロールまでは良くならないわよ!


しかし、今の石の飛ぶ勢いを見た弓兵は呆然としている。

倒すなら今!


わたしは再び強く踏み込んで、大通りの中央に集まっている兵士を回り込むようにして高速移動し、弓兵に肉薄して鎧の上からボディーブローを叩き込んだ。

鎧ごとひしゃげて体をくの字に折った弓兵は嘔吐し、くぐもった悲鳴と共に崩れ落ちた。

わたしはそのまま高速移動を繰り返し、とりあえず弓を持っている兵士を優先的にのしてまわり、残すは数名の兵士とベルノだけとなった。

とはいえわたしも無傷とは行かず、弓矢を一本、左肩に受けてしまった。

刺さった弓矢はそのままに、三度、兵士達に対峙する。


「なんなのだ、お前は・・・勇者とやらは実は格闘家だったのか?」

「・・・わたしは単なる先生よ。そろばんのね」

「・・・何を言っているか分からん」


・・・わたしが本当にやりたいことは、そろばんの普及なのよ!


その時、周りがざわざわし始めた。

さすがに騒ぎすぎたようで、夜中であるにも関わらず、大通り沿いに住む人達が家の窓からこちらを覗いたり様子を見に出てきたりしていた。


「誰だあの子は」

「兵士に襲われてるの?」

「あれ、ベルノ様だよな?」


ベルノはその様子を見ると、町の人達に向かって大きな声を上げた。


「聞け、お前ら!この小娘はニューロックから来た自称勇者だ!この領地を貶め、太守を唆すために来た、国王の敵だ!オレはこれからこの娘を倒す!しかと見るがいい!」

「・・・ニューロックの勇者?」

「この領地に来ていたの?」


ベルノの声を受けた住人達の騒ぎはさらに大きくなり、やがて住人からの声は歓声に変わった。


「ニューロックの勇者様!本物!?すごいわ!」

「ライオット領も勇者様が守ってください!」

「バルゴ王なんて俺達になにもしてくれないじゃないか!」

「ベルノなんてやっちまえ!」


住人の反応はベルノの意図と全く真逆だった。

やはりバルゴの評判はこの領地でもすこぶる悪いようだ。

現王に与している勢力はバルゴ同様に力でねじ伏せるような施策を行っているため、市民は嫌でも我慢して生きているのだろう。

そのためか、町の人の歓声に混じってベルノの悪口も聞こえてくる。


「・・・あなた、ものすごく評判悪いわよ」

「ふん、くだらん。お前を殺してしまえばいいだけよ」


ベルノがわたしに剣を向けた。

サシでの勝負を望んでいるかのようだ。


「いいか!力こそが正義だ。力なきものは従え!従わぬものは死ね!」

「それは違うわ!力があるものは力の無いものを守るために力を使うのよ!」


わたしはベルノに拳を向けた。

町の人達の歓声はわたしへの応援で最高潮になっていた。


「リップサービスのつもりではなかったけど、わたしはそう思っている。力でどうにかできると思うのは傲慢だわ。わたしの信条のひとつよ」

「ふん・・・後悔するがいい」


ベルノは剣を構え直し、その場で剣に力を込め始めた。

そして無造作にわたしにめがけて剣を振った。


・・・あっこれ、やばいやつだ!


しかし思った時には遅かった。

町の人達からは悲鳴が上がった。


わたしはなんとか体をそらすことは出来たが、剣から飛んできた見えない剣戟によって、わたしの左腕はひじの先から切り落とされた。


「ぐっ・・・その剣・・・」

「これが俺の剣、飛ぶ剣先の魔道具よ。見えない剣先がお前を切り刻む。そしてお前は魔力での攻撃ができない。俺に近づいた時点でお前は終わりだ」


ベルノは未だに別の魔道具でわたしの魔力の放出を妨害している。

この男、能力だけは高いようだ。

その力をもっと別のことに有意義に使えないものだろうか・・・


腕を押さえてしゃがみ込んでいるわたしに、ベルノは余裕の笑顔を浮かべている。


「どうだ?痛いか?痛いだろう?この剣、刃がガタガタに歪んでいるだろう?だからこの剣で斬った部位は綺麗に接合できず、元通りに治癒する事が難しいのだよ。どのみちここで死ぬお前には関係ない話だがな」


・・・まずいな。

飛ばされた腕の傷はどうにでもなる。

しかし、迂闊に近づけない。

どうするか・・・


考えている間にも、ベルノは再び剣に力を込め始めている。

もうあまり時間はない。


「次は足だ。動けなくして、なぶり殺してくれるわ」

「え?足?」


今、足って言ったよね?

足を狙ってくるんだよね?

それなら手はある!

足だけど!


「足を狙って、足止めできるならやってみなさい!」


そう叫ぶと、わたしは普通に走ってベルノに接近を試みた。


「ふん、望みどおりにしてやるわ!」


ベルノは低く、水平に剣を振った。

足を、足を、と連呼して誘導したのも功を奏したか、ベルノは予告どおりにわたしの足を切り飛ばした。


若干つんのめったが、しかし、わたしは止まらない。


「復元、そして加速!」

「なっ!?どうやって!?」


斬り飛ばしたはずのわたしの足はすぐさま復元し、ついでに刺さった弓矢を引き抜き、切り落とされた左腕も復元させると、続けざまに身体強化で地面を強烈に踏み込む。

想定外の現象に驚き、動きが鈍っているベルノが剣を戻す前にわたしはベルノに最接近した。


「うおおおおお!」


気合の雄叫びと共に、渾身の力で右の掌底をベルノの鎧の上からみぞおち付近に叩き込み、ベルノを吹き飛ばした。

同時に、パンッという音が聞こえた。


「あ、キーンって音が消えたような・・・うん、魔力が放出できるようになったわ」


どうやら今の掌底でベルノが隠し持っていた魔道具を破壊したらしい。


「おおおおおお!」

「お姉ちゃんすげえ!」

「勇者様、結婚してくれ!」

「怪我はないのですか?大丈夫ですか!?」

「ベルノを倒すなんて凄い!さすが勇者様だ!」


どの領地でも変な声は紛れ込むものだと思いながら、町の人の歓声に応えて、軽く手を振った。

だけど、ベルノからは目を離さなかった。

ベルノはまだ動いているからだ。

腹を押さえ、体を震わせながら起き上がりつつあった。


・・・あれで気絶しないなんて、本当にすごい身体能力だわね。


「がはっ・・・ぎ、貴様・・・なぜ・・・」

「黙りなさい」


わたしは風の刃で軽くベルノの耳を切った。


「ひっ・・・!」


ベルノは耳を押さえて、後ずさりし始めた。


・・・なんかすっかり怯え始めちゃったんだけど。

手足を復元させたからかな?


そりゃ、不死身みたいな真似をされたらびっくりするかもしれない。

でもそのネタばらしはしてやらない。

どうせ言っても理解できないだろうし。


あの時わたしは、相手の狙いがわからないまま飛び込んでいって、わたしの中の魔力の核を破壊されたり傷つけられるような事態が一番怖かった。

仮に核を破壊されても死にはしないのだけれども、後々面倒なので足を狙ってくれるならばその誘いに全力で乗ろうと思った。

そして賭けに勝った。

この男が傲慢な性格だったおかげだと思う。


・・・というわけで、ここからはおしおきタイムだ。


わたしはベルノを睨みつけた。


「さっきわたしは『力だけでどうにかできると思うのは傲慢だ』って言ったわね。そしてそれはわたしの信条のひとつだと。そう言ったのは覚えているかしら」

「・・・それが、どうした」

「わたしには別の信条もあるのよ。『やられたらやり返す。同じ目に合わせるべし』って。さっきはよくもわたしの腕と足を吹き飛ばしてくれたわよね」

「ひっ!?」


わたしは正直、『やられたら同じことをやり返してやればいい』と思う事が多々ある。

肉体的な事に限らず、精神的にも不当に貶められたら、相手には同じことを返してやりたい。

日本にいた頃も、ニュースで幼児や児童を酷く虐待死させたなんて事件を聞けば、加害者を同じ目に合わせて死なせてやればいいとさえ思っていた。

倍返しの必要はない。

等倍返しでいい。

もちろん、日本であれば法律にも、倫理的にも反する事はあるだろうから、そう思うだけしかできないけれども、やられた側の苦痛や無念を考えれば、そのぐらい当然とすら思うことがある。


加害者は忘れる。

でも被害者は忘れない。

だったら加害者にも一生忘れられないよう体に、心に、しっかりと刻んでやればいい。

・・・と思う。あくまで思うだけね。


でも、ここは日本でも地球でもない。

平気で人を斬る奴らがいる世界だ。

わたしは法の番人ではないし、わたしの自己満足かもしれないけれども、この地でできる裁きをくれてやりたいと思う。


「・・・わたしへの被害だけじゃないわ。あんたはあんたが斬った宿の人達の事なんて覚えていないのでしょう?だったら思い出せるように、忘れられないように、体に刻んであげるわ」

「ひっ・・・ひっ・・・!」


わたしはベルノに拳を向けた。

すると、ベルノはクルッと踵を返して、一目散に逃げ出した。

残っていた兵士達もベルノに続く。


「逃がすと思・・・」

「ユリよ!!!」

「え?何?ディーネちゃん!?」


ベルノ達を追いかけようと思ったところで、突然ディーネに声をかけられ、足が止まった。


「ディーネちゃん、わたし今からあいつらを捕まえに・・・」

「大変なのじゃ!早く来てほしいのじゃ!」

「ええ?んー!あー!もう、分かったわよ!、あ、すみません町の人、そこらへんで気絶している兵士を縛っておいてください!」


体を二つに引き裂きたい衝動に駆られながらも、わたしはディーネの悲鳴に応えて『黒豚亭』に入った。



「ユリよ・・・妾はどうすればよいのか分からんのじゃ・・・」

「まあ、そりゃそうよね。正直、わたしもどうすればいいか分からないわ」

「おぎゃああああああ」


そこには、元気な・・・男の子の赤ちゃんがいた。

ディーネが優しく、そっと赤子を羽で包んでいる。

ちょっと顔の怖いコウノトリのように見えなくもない。

いや、むしろこれから捕食するんじゃないかと思えるほどだが、ディーネに失礼なので言わないでおく。


「えーと、だいたい想像はつくけど、産まれちゃったのね」

「そうなのじゃ・・・どうすればいいのじゃ・・・」


わたしとベルノ達が宿から出るやいなや、ディーネは急いで治癒魔術を施して『黒豚亭』の主人とロゼッタをギリギリ死の淵から救ったという。


「本当にギリギリだったのじゃ。ユリの即断のお陰じゃ」

「ううん、ディーネちゃんのお陰だよ。ディーネちゃんがいてくれて本当に良かった!」

「で、その後なんじゃがな・・・」


まだ意識が戻らないロゼッタだったが、突然大きなうなり声を上げ始めたので、ディーネは治癒魔術を再びかけたという。

しかし治癒をかけても一向に収まらない。

かと言って手を止めるわけにもいかないのでそのまま治癒を続けたところ、ロゼッタがひときわ大きな声を上げ・・・子供が産まれたという。


「凄いよディーネちゃん、本当にコウノトリさんみたいだね!」

「コウノトリが何かは知らぬが、人の子が産まれる瞬間に立ち会うというのはこれが初めてなのじゃ。なかなか感動的なものじゃな」


ディーネは懐で泣いている赤子をあやすように、ゆっくりユラユラと体を動かしている。


その時、入り口で物音がした。

わたしは背にディーネ達をかばい、警戒した。

入ってきたのは町の人達だった。


「あのう、外の兵士は縛ったのですが・・・あれ、その赤ちゃん、もしかしてロゼッタさんのお子さん?」

「はい、そうなんです!この騒ぎで産まれちゃって・・・あ、そういえば近くに産婆さんがいると聞きました。急いで呼んできてくださいませんか!?」

「産まれちゃってから呼んでも遅いだろうけど・・・そうですね。医者と、町のみんなにも声をかけて来るので待っててください。それにあなたの腕も切り落とされましたよね。ご一緒に診察を・・・あれ、腕が・・・」


はい、わたしは腕も足も健在です。


「腕は切り落とされたふりをしたのです」

「え、でも実際に腕が飛・・・」

「ふりです」

「あ、ハイ、そうですか・・・とりあえず皆を呼んできますね」

「お願いします!」


ロゼッタを知っている近所の人達に任せれば大丈夫だろう。

やっと一息ついたわたしは、脱力して床にへたり込んだ。

すると、か細い声が聞こえてきた。


「あんた・・・」

「ロゼッタさん!?よかった、気がついたのですね。でもまだ喋らなくていいですよ。今、町の人達が来てくれます。産婆さんとお医者さんも来てくれます!あ、でももう赤ちゃんは産まれていまして・・・元気な男の子ですよ。おめでとうございます!」

「うん・・・ありがとうね」

「それと・・・ごめんなさい。わたしのせいで、ロゼッタさん達にひどい目を・・・もしも手当が遅かったら赤ちゃんも・・・そう思うと・・・本当に、本当にごめんなさい・・・」


安堵と喜びと申し訳無さで気持ちがぐちゃぐちゃに入り交ざり、わたしは涙がとめどなく溢れ、号泣した。

わたしにつられて赤子もひどく泣き出し、二人でぎゃあぎゃあ泣いてしまった。


「あはは・・・あんた、いいんだよ。私は無事、赤ちゃんも無事。それでいいじゃないか。あんた達が助けてくれたんだろう?本当にありがとうね」

「うわあーん!ごめんなさーい!」

「もう、謝らないでってば。あはは・・・」


申し訳無さそうに微笑むロゼッタだったが、わたしは町の人達が手伝いに来てくれた後もまだしばらく泣き止むことはなかった。




7/18に次話投稿予定です。


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