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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
105/206

105 小料理屋 その一

路地裏にいた子供達との戯れを終え、大通りに戻った。

ディーネとサラも動物とのガンの飛ばし合いを終えたようで、路地の手前で待っていてくれた。


「うむ。やりきったのじゃ」

「ちゃんと分からせてきたわよ」


大精霊に目をつけられた動物の方が気の毒だ。

いや、もしやあの大型犬もどきも精霊の依代だったり・・・なわけないか。

尻尾を丸めて小さくなってるし。


遠目で動物屋を見てみると、ケージの隅で小さく震えている大型犬もどきを店主が心配そうに見ていた。


・・・帰りに店主にも謝っておこうかな。


小さくため息をついたところで、ミライに手を引っ張られた。


「ユリお姉ちゃん、ミライお腹すいたの」

「ああ、そうね。もうお昼だもんね。何か食べようか。ノーラ、おすすめの料理かお店はある?」

「そうですね、肉料理もいいですが、今の時期はフグやターキスが旬ですね」


フグ?

フグって言った?


「フグってお魚?」

「ええ、魚ですよ」

「それって見た目は膨らんでて、身は白っぽくて、部位によっては食べたら命を落とすほどの毒があったりする?」

「いえ、全然違いますね。それに毒なんてあったら食べられませんよ。師匠は猛毒の魚を食べられるのですか?胃袋まで最強なのですか?」

「いやいや、わたしの世界のフグは調理するまでにちゃんとした決まりがあってね・・・」


毒を持つフグは素人が捌いて食べて良いものではない。

フグを捌く免許を持った職人が、所定の調理場所で捌かなければならない。

そして毒の部位の捨て方も決まっており、素人がお手軽に手を出せるものではない。


「なるほど、そうしてまでも毒のある魚を食べるのですか。師匠は食いしん坊なのですね」

「わたしがそうさせているわけじゃないから!」


・・・まあ、美味しいけど。

フグ刺し、てっちり、土瓶蒸し。

久しぶりに食べたいなあ・・・


「あの、そこのお方・・・」

「あ、はい!うるさくしてすみません!」


道端で騒いでいたらお店の若い女性に怒られたでござる。

わたしたちが騒いでいた場所はお店の入り口の前だったらしい。

そんなところで騒がれては営業妨害に違いない。

そそくさと離れようとしたが、お店の人に腕をガシッと掴まれた。

その様子を見たノーラがものすごい勢いで私とお店の人の間に割り込み、わたしを掴んでいる手を振りほどくとすぐさまファイティングポーズを取った。


「師匠、反応が遅くすみません・・・そこの者、騒がせた事は謝る。だが女性とはいえ、師匠に手を出すのは許しません」

「ひいいいいいい!」


脳筋だけどちゃんと護衛の役目を果たしているノーラ、偉い。

ノーラに凄まれた店員さんはビビって震え上がっていた。


「違います!そんなつもりではなかったんです!手を挙げるなんて滅相もない!違うんでしゅ!」


・・・かんだね。


「・・・違うんです。その・・・皆さん、なにか食べようかとお話をされていたようでしたので、よろしければわたしの店でお食事をどうかと思いまして・・・」


ふとお店を見てみれば、『言われてみれば』お食事処のように見えなくもない雰囲気の佇まいだった。

扉の横には小さな看板も出ていた。


「『小料理屋・ミュラー』っていうのね。ノーラ、ミライちゃん、せっかくだし、ここで食べようか?こっちも迷惑かけちゃったし」

「いいですよ。私もご迷惑をおかけしてしまいましたし」

「食べる!」

「はい、ありがとうございます!では店内へどうぞ!」


まだ少しビビりながらも、わたしたちを店内へと案内してくれた。

それほど広くはない店内だが、茶系統で落ち着いた雰囲気のお店だった。

小料理屋というより、喫茶店、あるいはバーという雰囲気だ。

カウンター席は八席、それと四人がけのテーブル席が三つ置かれていた。

昼からやっているのはランチ営業だろうか。


「えーと、入ってから聞くのもアレなんですけど、どんな料理を出してくれるお店なんですか?」

「基本的には港で仕入れた新鮮な魚介類を使ったお料理をお出しするのですが、今日、港から仕入れられたものはセーラだけで・・・。それを焼いた定食風のものをお出しできます。というかそれしか無いですけど、いいでしょうか・・・」


選択肢は特に無いようだ。

セーラ?

初めて聞く名前だ。

富豪だった父親を亡くして不幸な孤児になってしまう少女の話を思い出した。

ちなみにわたしの一推しは学院長の妹さんだ。


「セーラってなんですか?」

「え、セーラをご存知ない?他領からいらっしゃった方ですか?」

「えーっと・・・」


正体は一応誤魔化しておきたいんだけど・・・

いや、別にバレてもいいんだけどわざわざ自分から言う必要なんてないし。


助け舟を出すためにノーラに視線を送った。

ノーラはしっかり頷き、わたしの意図を察してくれたようだ。


そう思ったのは一瞬だった。


「こちらはユリ殿。この国の救世主で、異世界からの勇者です。セーラをご存知ないのはそのためです」

「えええええええええええええええ!?」


あっけなくバラされてしまった。

仕方なく普通に自己紹介をすることにした。

なお、お店の女性の名前は『マイラ』さんと言うらしい。

ミュラーでは無かった。

わたしの身バレでキョドったマイラだったが、程なく落ち着きを取り戻すと、マジマジとわたし達の顔を見た。


「そうでしたか、お髪の色も髪型も違いますので全然わかりませんでした」

「ええ、そうでしょうとも、わたしの本体は髪型らしいですからね」

「あ、あの、私なにか気に触ることでも・・・」

「いえ、気になさらないでください。もう慣れましたので」


いっそ自虐的ないじりネタにしようと思っているぐらいだよ。

B型の性格、なめんなよ。


「ミライさんも髪型を変えているのですね。そういえば先日のそろばんの放映授業、町の集会所で見ましたよ。わたしもやってみようと思いました」

「本当ですか!嬉しい!ぜひ練習してみてください!」


わたしの機嫌は一瞬で直った。


「ノーラさんはカーク領主の娘さんでしたか。お顔を存じ上げず、申し訳ございません」

「いえ、私は別に有名人では無いですから。マイラさんが気にする必要はありません」

「ところでノーラさん・・・勇者様にセーラなんてお出しして失礼になりませんか?お誘いしておいて何ですが、やっぱり他の店に行かれたほうが良いのでは・・・」


そんなに失礼なものなの?

ゲテモノ系?


「ねえノーラ。セーラってお魚・・・いえ、お魚かどうかも分からないけど、そんな変わったものなの?」

「いえ、そんな事はないと思います。セーラは魚ですよ。大衆魚といいますか、普通に食べられるものです。食感は少し変わってますし値段的にも安いですので、師匠にお出ししてよいか躊躇しているのだと思います」

「なんだ、そんなこと気にしなくていいのに。ところでセーラとノーラってちょっと名前が似ているわね」

「雑魚と一緒にしないでください!」

「雑魚扱いなんだね・・・」


とりあえずノーラ・・・じゃなくてセーラが大衆魚という事は分かった。

セーラで魚・・・コウナゴ?

それは小公子や!

ってボケても誰もこの世界では突っ込んでくれないだろう。


「マイラさん。わたしはそういうの全然気にしないし、むしろ食べたことが無いものだから食べてみたいわ。お料理、お願いします」

「は、はい!かしこまりましゅた!」


またかんだね。

そんな緊張しなくていいのに。


十数分後。

わたし達に料理が提供された。

メインディッシュはセーラの半身を焼いたもの。

見た目は鯖焼きのようにも見える。

付け合せに葉野菜と、パンとスープが添えられていた。

早速いただいてみる。


「・・・なるほど、焼き魚とは思えない食感ね」

「師匠がセーラを初めて食べるのは、我が家では出ないからですね。実は父上はあまりセーラが得意ではないのです」


ミライも初めて食べたのか、不思議そうな顔をしてモキュモキュと食べている。

セーラそのものの味は割と淡白だ。

味付けに、野菜やキノコなどの出汁スープがかかっているが、それも家庭料理のような感じで、いわゆる普通だった。

子供にはウケない味かもしれない。


でもなんか覚えがある食感なのよね・・・


「やっぱりあまりお口に合いませんかね・・・」

「いや、マイラさん、美味しいわよ。ただ初めて食べたものだし、食べつけていなくて・・・」

「いえ、いいんです。無理なさらないでください。私もこんな腕で商売を続けるのはどうかと思っていましたので・・・でもこれでお店を畳む決心がつきました。最後のお客様として勇者様においでいただけて、とても光栄でした」


マイラは力無く、ニコッと笑った。

仕方ないから諦める、そんな表情だ。


馴染みの店でも知り合いの店でもない。

気まぐれで、初めて入った店。

『そうですか、残念だけど頑張ってね』と言って帰ってしまえばそれで済む話だ。

だけど・・・気に入らない。


「・・・本当に?」

「え、なんですか?」

「本当に、お店をやめる決心をしたのかと聞いているの。やめて後悔はないの?本当はお店を続けたいんじゃないの?」

「それは・・・」


マイラは口ごもり、顔を背けた。


・・・やっぱり未練があるんじゃない。

道でこの子に声をかけられなければこの店には来なかった。

きっとこれもご縁だろう。


その時、ディーネが私の傍に寄ってきて、羽根でポンとわたしの肩を叩いた。


「ユリよ、其方は本当におせっかい者じゃの。じゃが分かっておるよ。知恵を貸してやると良い」

「さすがディーネちゃん。わたしの一番の理解者だね」

「私だって分かってるし!」

「はいはいサラちゃん。サラちゃんもわたしの理解者だよ」

「雑じゃない?本当にそう思ってる?」


サラに笑顔で頷くと、わたしはディーネ達との会話を聞いてニコニコしているミライとノーラに顔を向けた。

二人もわたしの意図を察しているのだろう。


「ミライちゃん、ノーラ。そんなわけだから協力してくれる?」

「分かったの!」

「お任せください。廃業するこの店を更地にすればよろしいのですね」

「違うわよ!逆よ!お店の立て直しに協力するんだよ!」


あらためてノーラに私の意図を説明して理解してもらったところで、マイラに向き直った。

マイラは口を押さえてふるふると震えていた。


「そんな・・・でも・・・」

「いいのよ。わたしの生まれ故郷では『袖すり合うも多生の縁』って言ってね。おせっかいかもしれないけど、協力させてくれないかしら?」

「そんな・・・鳥と獣が人の言葉をお話しするなんて!」

「そこかよ!」


わたしはマイラの天然な反応に突っ込むと同時に脱力した。




6/9に次話投稿予定です。


じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。

レビュー、ブックマーク、評価、誤字指摘などいただけると大変励みになります。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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