104 コーラルの休日
「おっかいものー!おっかいものー!」
「ふふっ。ミライちゃん、ご機嫌だね」
わたしもご機嫌だけどね。
久しぶりのオフだし!
休日の今日、わたしとミライはコーラルの町へ買い物に繰り出していた。
護衛とついでにノーラも一緒だ。
ディーネとサラも同行していて、女子だけで遊びに出ているノリではあるが、ハタから見れば動物のお散歩のように見えている気もする。
デカい鳥とデカい哺乳類を連れているしね・・・
なお、特に買いたいものが決まっていたわけではない。
ウィンドウショッピングというやつだ。
コーラルの町の南東側には多くのお店が集まっている地域があり、ちょっとした繁華街のような感じだと聞いていた。
まだ行ったことのなかったわたしとミライの希望で、遊びに行くことになったわけだ。
「だんだん人が増えてきたわね」
「ミライが生まれた町のお店屋さんみたいなの!」
「ここはコーラルで一番賑やかな商店街です。師匠とミライちゃんに似合う服もたくさん売ってると思いますよ」
店の雰囲気は違えども、ミライが住んでいたナーズの町の商店街のような賑やかさだった。
食事処の看板にはコーラルの生活で馴染んだ料理のラインナップが書かれている。
八百屋のおばちゃんは威勢の良い声をあげて今日のおすすめ野菜を宣伝している。
食用かペット用か分からないが動物を扱っている店もあり、店前に置かれたケージに入っている大型犬のような動物に・・・ディーネとサラがガンを飛ばしていた。
「こら、ディーネちゃん、サラちゃん。動物をいじめないの」
「なかなか良い面構えで睨みをきかせてきたのでな。目を逸らした方が負けなのじゃ」
「どちらが上か教えてやろうと思っただけよ」
・・・二人とも、動物の見てくれだけではなく、本能にも目覚めたの?
「上も何も、本物の動物相手に・・・二人とも圧倒的に上でしょうよ」
「それはそれ、これはこれなのじゃ」
「同じ四足歩行になめられるわけにはいかないわ」
「はいはい、先に行きますよー」
どうせすぐに飽きてついて来るだろう。
わたし達は二匹を置いて商店街をスタスタ進んだ。
「それにしても、全然バレないものだわね」
商店街には多くの人がいる。
しかし、今のところ、誰もわたしに声をかけて来なかった。
建国宣言、先日のオンラインそろばん授業、そして王都軍との戦いでわたしはニューロックの人達によく顔が知られている。
王都軍との戦いではそれほど人との絡みは無かったが、放映の魔道具を使った国内放送ではしっかり顔を晒していたので、町の人達に囲まれてしまうこともちょっと覚悟していた。
有名人気取りではないが、ここまで反応が無いとは思っていなかった。
「ですが師匠。やはり少しずつ視線が増えてきています。まだ本人かどうかの確証がないようにも思えますけど、私の存在やディーネ様のような目立つ動物を連れている以上、師匠の変装がばれるのも時間の問題でしょう」
ノーラの言う通り、わたしとミライは変装をしていた。
ただ、変装と言ってもわたしは髪の毛の色と髪型を変えているだけだ。
髪の色はエスカ謹製の魔道具のイヤリングで金髪にした。
髪は結ばず、軽い外はねとウェーブを作っておろしている。
そしてつばが大きめの帽子をかぶっている。
ミライはつばが大きい帽子をかぶり、金髪をきれいにまとめて帽子の中にすっぽり収納している。
たったそれだけだが、気が付かれにくいということは・・・
どうやらわたしの本体はやっぱりポニーテールのようだ。
そんなどうでもいいことを考えていると、商店街の路地の方から子供の喧嘩のような声が聞こえてきた。
「だから違うって!8が置けないんだよ。いくつ引けばいいかちゃんと考えろよ!」
「・・・こう?」
「それじゃ全部引いてるだろ!違うよ!なんでわかんねーんだよ!」
もしやこれは・・・
「ノーラ、ミライちゃん、ちょっと待ってて。わたし、声がする方を見てくる!」
「私も行きます!」
「ミライも!」
三人で路地に入り声の主の元に向かうと案の定、子供らがそろばんと問題集を持って集まっていた。
店の裏口のそばに置かれた古そうな机と椅子に二人の子供が座り、小さい男の子が半べそをかいてそろばんを見つめている。
その向かいには体が大きめの男の子が座っていた。
泣いてそろばんを見てる・・・
ふふっ、懐かしいなあ。
わたしも幼少の頃はよく泣きながらそろばんをやっていた。
父親の期待も乗っていたのだろうけど、結構スパルタな教育だった気がする。
幼稚園に通っている頃は、朝、幼稚園に行く前に問題集をやり、できるまで幼稚園に行かせないぐらいの勢いでそろばんの練習をやらされた。
小学校に入ってからも、学校から帰ったらまずは暗算の練習。
少し休憩してから三時間の集中練習。
そして点数が悪ければ居残り延長戦。
自宅がそろばん塾だから、授業の終了時間なんて関係ない。
できるまでやらされ、見たいテレビも見れず、泣きながらそろばんをはじいた。
今となってはいい思い出だ。
とはいえ、目の前の子供達とわたしの幼少期とでは泣いている事情が少し違うだろう。
『うまく出来ないから泣いている』という点では同じかもしれないけれども、とにかく事情を聞いてみることにした。
「ねえ、君たちどうしたの?そろばんの練習をしているんだと思うけど、何があったのかお姉さん達におしえてくれないかな?」
「おばさんには関係ないだろ!」
「おばさんね、そろばん得意なんだよー。良かったら手伝ってあげるよ」
わたしはおばさん呼ばわりには耐性があるので問題ない。
つまらない事で時間を食いたくもないし。
「・・・弟に繰り上がりを教えているんだ」
「繰り上がりだね。その問題集に繰り上がりをまとめたページがあるよね。それを見てごらん」
「見たら練習にならないだろ!」
「ううん、覚えるまでは見ていいんだよ。見ながら覚えるんだよ」
見た感じ、弟さんは五歳ぐらいだろうか。
お兄さんは十歳ぐらいかな?
まだ小さい弟に、繰り上がりをいきなり全部暗記しろと言っても無理だ。
「わからない時は何回でも見ていいんだよ。できれば声を出して読むといいかも」
わたしがそう言うと弟さんは、問題集の繰り上がり表を見ながら音読した。
「んと・・・『足せない8は、2をとって10』、『足せない8は、2をとって10』・・・」
「そう。その調子よ」
そして弟さんは、まだおぼつかない指でそろばんをはじき、2を引いて10を足した。
「よくできました。今のは例えば『お兄ちゃんのくだらない荷物がお部屋にたくさん置いてあって、そこに君の荷物を八個入れようとしても入らないから、お兄ちゃんの荷物を二つどけて、かわりに隣の部屋に十をポイッと入れてあげる』って思うと、ちょっと楽しくない?」
「うん・・・楽しい」
「なんだよそれ!」
弟さんは笑顔を見せたが、代わりにお兄さんはほっぺたを膨らませた。
そしてわたしの例えにミライが乗っかった。
「ミライもよくユリお姉ちゃんの荷物を片付けてあげるよ。前なんか、ユリお姉ちゃんがゲーしたのを掃除してあげたもん」
「ミライちゃん・・・それは言わないで」
あれはまあ、色々と悲しい事件だったよ・・・
「とにかく、最初のうちは楽しく無理なく練習するのが一番よ。お兄さんもあんまり強く叱らないであげてね」
「兄ちゃん、僕がうまくできないとそろばんで殴るんだよ」
「なんですと?おい、兄、それは許さないわよ。そろばんは武器じゃないのよ。わ・か・る?」
「おばっ・・・お姉さん、急に怖いよ!わかったよ。もうそろばんで殴ったりしないよ」
わかればよろしい。
物わかりの良い子だ。
とりあえず一件落着したので立ち去ろうとしたその時だった。
弟さんがわたしとミライちゃんの顔をまじまじと交互に見て、目を見開いた。
「お姉ちゃん・・・もしかして勇者のお姉ちゃん?そろばんの先生のお姉ちゃんなの?」
「ふふっ。そうよ。そろばんの先生です!」
「じゃあ、こっちはお手伝いの女の子?」
「そうです。ミライはミライです!」
「うわあ、すごい、すごいよ兄ちゃん!本物だよ!」
お兄さんはというと・・・わたしを見て固まっていた。
突然目の前に有名人が現れた時のリアクションとしてはなかなかベタな感じだ。
だが、理由はそれだけではなかった事を弟が大暴露した。
「このお姉ちゃん、兄ちゃんの憧れの人だよ!この人とケッコンするんだって、国で一番そろばんがうまくなって、そうしたらお嫁さんにもらうんだって。兄ちゃん言ってたじゃん!」
「う、うう、うわああああああああああ!」
お兄さんは後ずさると、顔を真っ赤にして涙を浮かべ、一目散に走って行ってしまった。
「兄ちゃん、変なの。どうしたのかな?」
「弟さん・・・見事な反撃だったわよ。お兄さん、しばらく立ち直れないかも」
年上のお兄さんお姉さんに憧れる気持ちは分かるけど、当人の前で暴露されるのは多感な男の子には耐えられなかったのだろう。
・・・頑張って生きて!
将来、この男の子が暗算のチャンピオンになるのはまた別のお話である。
6/6に次話投稿予定です。
じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。
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