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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
106/206

106 小料理屋 その二

人語を喋るハシビロコウとカピバラに驚いたマイラには、例によって『最近見つかった新種の動物です』というお決まりの説明をしておいた。

別に隠す必要もないのだけれど、余計に恐縮されると面倒だし。


「そういえばそちらの鳥ってもしかして国章のシルエットになっている鳥ですよね。勇者様のお側にいるなんて、きっと貴重な鳥なのですね」

「ええ、まあ、貴重といえば貴重ね。私の大好きな鳥なの。こっちのカピバラのサラちゃんもね」

「うむ。貴重なのじゃ」

「そうよ。讃えなさい」

「調子に乗らないの。で、マイラさんの話を聞かせてもらっていいかしら」


そんなわけで、まずはマイラの身の上話を聞くことにした。

マイラの身の上は、よくある話といえばそれまでの事なのだが、先代店主であった父親が他界したために店を引き継いだものの、先代のように美味しい料理が提供できず、経営に苦労しているのだそうだ。

なお、母親は小さい頃に病気で亡くなっており、父娘二人で暮らしていたそうだ。


「お店のお手伝いはよくしていたのですが、料理を教わる前に父は亡くなってしまいました。色々と仕込みは教わったので、料理の下ごしらえやお店秘伝の出汁スープ作りならばできるのですが」

「あ、そういえば出汁スープは美味しかったわよ。でも料理にあってないのかしら?セーラの焼き物に合わせると普通な感じだったというか・・・」

「そうなんです。出汁スープは美味しいと思うのですけども、料理に合わせた調整が難しくて。父はその日の食材や料理に合わせて出汁スープの濃さを変えたり、香辛料や薬味を加えていたのだと思います」


その味は絶品で、町の人達も父の味を目当てに、あ繁くお店に通ってくれていたらしい。

それで父娘で生活するには十分な売上になっていたそうだ。


「ですが父の他界と共に父の味も失われてしまって・・・今でも旧知の方がときどき訪れてはくれるのですが、父の味をお出しできないのが申し訳なくて・・・」

「そうですね、同情でお店に来てくれるだけでは商売とは言えないでしょう」

「ちょっとノーラ!言葉選び!」

「いえ、いいんです。ノーラさんの仰るとおりなんです」


マイラは首を横に振り、力のない笑みを浮かべた。


「ですので、もう店を畳もうと思って。ニューロックは建国して国ごと変わろうとしています。だから私も変わらなきゃって思いました。せめて今日の仕入れ分だけは誰かに召し上がってもらえたらと思っていたら、お店の前に皆さんがいらしたのです。動物を使った大道芸人か何かと思ったので、声をかけても大丈夫かなと思いまして・・・」

「気に入らないわね」

「ひっ!すみません!大道芸人なんて言って・・・」

「違うわ。その笑顔が気に入らないのよ」

「師匠、大道芸人ってところは気にしないのですね」


マイラのその顔は、諦めたくないけど仕方がないから諦める、そんな顔だと思った。


「本当はお店を続けたいのでしょう?先代の、お父様の味を受け継いで、皆に料理を提供したいのでしょう?」

「・・・」


マイラは返事をせず、目を背けた。


「マイラさん、お父様の味が途絶えてしまってもいいの?あなたがやめてしまえば、もうお父様も思い出の味も、店も、無くなってしまうのよ」

「わかってますよそんなこと!」


マイラはわたしにキッと顔を向けると、これまでのマイラの雰囲気からはまったく想像できないような声で叫んだ。


「この味は、父だけではなく、母の想いも詰まっているんです。出汁スープは母が発案して父が改良したものだと聞きました。それを途絶えさせたいと、本気で思っているとお考えですか!そんなわけないでしょう!」

「・・・だったらあがきなさいよ。父と母の思いが詰まった味を、あなたがさらに改良して作り上げるの。父の味を再現できないならば、あなたがあなたの味で『再利用』すればいいのではないかしら?」


マイラの目が点になっていた。

父の味を再現することに躍起になって、他の事は考えていなかったのかもしれない。


・・・ならば、もうひと押し。


「一品料理よ」

「いっぴん、りょうり?」

「ええ。その出汁スープを使って新しい料理を作り出すの。まずは一品だけ。それで勝負してみない?」

「え、でも、新しい料理なんてどうやって・・・」

「わたしに考えがあるわ」


あのセーラという魚の味。

わたしはあの魚を食べた時にちょっと懐かしさを感じていた。

魚だったことが盲点だったけど、日本でもよく食べたあの料理に使えるはずだ・・・

もしもその料理がこの星になければ、勝算はあると思う。

あとは、マイラさんのやる気だ。


「わたしの生まれた国・・・異世界の料理よ。この星で売れるかどうかはわからない。それでもいい?」

「異世界の料理ですか・・・はい。やってみたいです」

「・・・情報料は三百万トールよ」

「さ、三百!?」

「あなたに払えますかね?」


マイラは目を見開き、口元を手で押さえた。

それから目を瞑って少し考えた後、静かに言葉を紡ぎ出した。


「いいですよ。一生かかってもお支払いします。父と母の味と店を守るためならば」


マイラの表情には迷いのかけらも感じなかった。


「・・・それを聞きたかった」

「ユリさん・・・?」


わたしはマイラに近づくとマイラの頭に手を置き、ニコリと笑いかけた。


「そして・・・この台詞、わたしが一度は言ってみたかったものなのよ!」

「ユリよ。それはモグリの医者の話じゃな?」

「なにそれ、私まだ読んでなかったわよ。ディーネ、あとで教えてくれない?」



「さて、では新メニューについて説明します。調理道具も必要なので無ければ作らないといけないわね。近くに金物屋や金属加工の店はあるかしら?」

「師匠、この町の金属加工問屋であれば私の顔が利きます」

「さすがノーラ。伊達に領主の娘をやっていないわね」

「なんか引っかかる言われですけど、お役に立てるならば何よりです」


とりあえず食材として、セーラの切り身と出汁スープを用意してもらった。

それとこの世界にもある小麦粉と卵と油、そして生姜の代わりになりそうな根野菜の漬物や葉野菜など、使えそうなものを色々持ってきてもらった。


「食材はとりあえずこんなもんでいいかな。この食材を使って『タコ焼き』を作るわよ」


その時、皆がざわついた。


「いま、タコって言いました・・・?」

「タコを焼いて食べるのですか?ものすごいですね」

「ミライ、それは食べたくないの・・・」

「え?ええ?」


ざわつく理由がわからない。


「ノーラ、ちょっといいかしら。『タコ』ってこの世界にいるの?」

「いますよ。あの足が多いやつですよね」

「お、まさにタコっぽいね」

「たぶんそのへんの草むらを探せばいるんじゃないですかね?」

「え?草むら?」


詳しく聞いたところ、どうやらムカデのような虫だと理解した。

エンガチョといい、この星のネーミングセンスには物申したい。


「えーと・・・その『タコ』とわたしの知っている『タコ』は別物です。とりあえずどうしようかな。『タコ焼き』ってたしか『ラジオ焼き』が元になってるんだっけ。では名前は『ラジオ焼き』にするか・・・まあいいや。ネーミングは後でマイラさんが考えてくれればいいよ」


まだ作る前の段階なのに、名前ひとつで騒ぎになるとは思わなかった。


「で、次に焼くための鉄板を用意したいのだけれども、なんていうか、このぐらいの大きさの丸いくぼみが欲しいの。何か手頃なものはあるかしら?」


わたしは人差し指と親指で丸をつくって聞いてみた。


「師匠、このぐらいの大きさでしょうか?」


ノーラが取り出したのは手のひらにすっぽり収まるサイズの鉄球だった。

てか、なぜ鉄球を持ってる?


「これを二つ持って、手のひらの中でくるくると転がすと握力増強に良いのです。暇な時にやっています」

「あー、健身球ってやつ?マフィア映画で悪い人がよく持ってるやつね」

「ケンシンキュウとかマフィアエイガというのはよくわかりませんが、これを鉄板にぶつけて凹ませてみますか?」


マイラに使わなくなった古い料理用の鉄板を持ってきてもらい、それを石台の足に乗せてもらった。

そしてノーラが鉄球を鉄板に乗せると、鉄球に向けてグーパンを食らわせた。

鉄球は鉄板に半分ほどめり込み、見事なくぼみを作った。

鉄球はびくともしていなかった。


「いや、たいしたものだわね・・・」

「この鉄球は特注品ですからね。いざとなれば武器にもなります」

「いえ、そっちではなくノーラの拳の方よ。なるほど円柱を登れた訳だわ」


かつてカークに出題された試験で、高い円柱の上にある魔石を取るというものがあったが、ノーラはゲンコツで円柱を殴り飛ばして足場を作って登ったという。

その逸話は本当だと確信できた。


続けていくつか鉄板にくぼみを作ってもらったが、ノーラの手も心配なのでほどほどでやめてもらった。

くぼみの位置も深さもバラバラではあるが、練習にはちょうどよさそうなたこ焼きプレートができた。


「本当は穴の大きさも深さも均等にして、穴の並びも整然とさせて一度にたくさん作れるようにするのだけど、今回はとりあえずこれで試します」


まずは卵をボウルにいれてよく混ぜる。

そこに水と小麦粉、秘伝の出汁スープも少しいれて、さらによく混ぜる。

分量はとりあえず適当。

ベシャベシャとドロドロの中間ぐらい?

とにかく混ぜる。


生地を作っている間に、マイラには茹でたセーラの身のぶつ切りや、根野菜のみじん切りなどを作ってもらった。


熱したタコ焼きプレートに油をしっかりなじませ、準備は整った。


「では行きますよ。まずこの生地をくぼみの半分ぐらいまでいれて・・・具材を投入!」


セーラの切り身をポンポンとくぼみに落とし、その上から刻んだ野菜をまぶしていく。

そして生地をドバッと注ぎ足して、鉄串を二本持って待機する。


「注ぎ足しは生地がくぼみから鉄板に溢れちゃうぐらいにドバっとね。・・・で、裏面が焼けたぐらいになったら、鉄串で刺さないように、こうひっくり返していく!」


鉄串を使って華麗にタコ焼きをひっくり返す・・・ことができずにグチャッとなった。

なんとか体裁を取ろうと鉄串をガシガシ動かして、不格好ながらひっくり返していく。


「・・・難しそうですね」

「あはは・・・」

「ユリが不器用なんじゃないの?」

「サラちゃんよ、ユリが気にするので言うでない。ユリは頑張っているのじゃ」

「そうですよ。しっかり見守りましょう」

「うっさいわ!」


・・・別にわたしはタコ焼き名人でもなんでもないし。

さらに二回、三回とひっくり返して、表面が綺麗に焼けたところで鉄板から取り出して、お皿に盛り付けて出汁スープをかけて完成だ。


「はい。できました。食べてみて。中は熱いから気をつけてね」

「はい・・・では・・・・はふっ!!!」

「だから熱いって言ったじゃない・・・」


マイラは涙目で口をハフハフとさせていた。

マイラだけではなくノーラもだった。


「・・・わたし、ちゃんと忠告したわよ。ミライちゃんはフーフーして食べてね」

「分かったの!」


ミライがしっかりとフーフーし始めた時に、熱さで悶絶していた二人が復活した。


「・・・ユリさん。これ、とても美味しいです!このような料理は見たことがないです」

「師匠、中は熱かったですが、そこも魅力だと思います。異世界って美味しいのですね」

「あはは・・・それはなによりだわ」


この世界にはタコ焼きがなさそうなことも分かったし、美味しくいただける事も分かった。

ここからはマイラさんの仕事だ。


「マイラさん。このタコ・・・ラジオ焼きはまだ発展途上です。わたしの知っているこの料理には、魚を乾燥させて削った削り節というものや海藻を乾燥させて粉状にしたものを乗せたり、他にもいろいろな調味料を添えて味を作っています。今みたいに出汁スープで食べる食べ方もあるのですけれども、生地の分量とか何を混ぜるかとか、研究するべきことはたくさんあると思います」

「・・・そうですね。生地にもう少し食感をもたせたり、出汁スープはもう少し濃い目のほうが合うような気がします」


お、いいね。

やる気が出てきたね。


「今から七日間、マイラさんには研究をしてもらいます。研究につかう小麦粉、卵、それとタコ焼き用の鉄板はわたしからの投資ということで用意しますので、人に出せるくらい美味しいラジオ焼きを作ってください」

「・・・はい。やってみます」

「そして売り方ですけど、店内ではなく店の前で露店形式で、作りながら売ってください」

「露店で作りながらですか?それは構いませんけど何故ですか?」

「ラジオ焼きは、作る姿もパフォーマンス・・・お客を呼ぶ演出になるのです。見事なパフォーマンスができるよう、焼き方もしっかり練習してくださいね。それにラジオ焼きはやっぱり屋台で食べたいじゃない?」

「はあ、よくわかりませんけど指示に従いたいと思います。私、頑張ります!」


それからわたし達は店を離れると、町で材料の発注を行い、金属加工問屋ではたこ焼きプレートの製作を依頼した。

何に使うものかといぶかしがられたが、ノーラが一緒にいるおかげで詮索はされなかった。

例によって金属加工にも加工用の魔道具があるようで、その日の夕方には完成して、マイラの店に届けられた。

あとはマイラの頑張り次第だ。



七日後。


マイラの店に行くと、店の前に小さいイベント用テントのようなものができており、そこでマイラがタコ焼きを大量生産していた。

鉄板に生地を流し込む速度、具材を乗せる動き、鉄串でひっくり返す技・・・すべてが洗練されていた。


・・・ものすごい研究と練習をしたんだね。

マイラすごい!


「あ、ユリさん!ノーラさん!ミライさん!」


マイラはわたし達に気がつくと、笑顔で大きく手を振った。


「ユリさん、お待ちしてました。一応、納得のいくものができたと思います。召し上がってみてください」

「うん、いただくね!」


お皿に盛り付けられたタコ焼きには、例の出汁スープが少しだけかかっていた。

それと謎の粉末が振りかけられている。

とにかく味を確かめるため、タコ焼きを口に入れた。


「・・・おいしい!タコ・・・じゃなくて、本物のラジオ焼きみたい!すごく美味しいよマイラさん!」

「よかった!ありがとうございます!」


出汁スープが少ないのは、スープの味を濃い目にしたのだと思う。

生地にもスープがしっかり練り込まれているから、生地まで普通に美味しい。

歯ごたえも表面はカリカリで、中はフワッとしていてとても美味しい。

セーラのクニクニ感も絶妙なアクセントだ。

すごい努力をしたのだろうと思う。

かなりの完成度だった。


「ところで、この粉末は?すっごく気になるのだけれども」

「ユリさんの助言を参考に、漁港で形が悪かったり小さかったりで使えない海藻をもらってきて、それを乾燥させてすりつぶしてみました。同じく売り物にならない小魚を干物にして、それもすりつぶして海藻に混ぜてみたら、すっごく美味しい粉末になったのですよ!」


・・・グルタミン酸とイノシン酸の効果かな?

わたしは異世界でうま味調味料を生み出した瞬間に立ち会えたのかもしれない。


「マイラさん、その粉末の製法、もしも一般に知られていない事だったら当面は秘密にしたほうがいいかもしれません。それ自体もきっと売り物になります」

「そうなんですね、分かりました!・・・それにしてもこの料理はとても面白いですね。それに食べると楽しくて幸せな気分になるんです。・・・正直、まだまだ研究の余地があると思っています。私、もっと美味しくなるように研究を続けながら、この料理を世界に広めたいと思いました」

「おー。大きく出たわね」

「すべてはユリさんのおかげです。これで父の店と、両親の味を守ることができます。良かった・・・本当にありがとうございました!」


マイラの幸せそうな泣き笑いにつられて、わたし達も笑顔になった。

わたしはマイラに免許皆伝と、売出しの許可を与えた。


やっぱりタコ焼きって人を笑顔にする料理よね。

タコ焼きすごい!

たくさん売れて町の名物になるといいな!


なお、情報料については本当にお金を持ってこられても困るので、情報料の三百万トールはマイラを鼓舞するための嘘だと伝え、代わりにわたし達はマイラの店で永久無料で食べられる権利をもらった。

そっちのほうが嬉しいしね。



某日。


「なんですか、カークさん」

「呼び立てしてすまない。ユリ殿はこの料理を知っているだろうか?」

「あ、マイラさんの店の!もちろん知ってますよ。これは秘密ですけれども作り方を教えたのはわたしですから。でも商品として完成させたのはマイラさんですよ。それ美味しいですよね!」

「やはり其方が絡んでいたか・・・」


やはり?

やはりって何だろうか。

ノーラがなんか言った?


「目新しい料理だし、庶民的な料金で手軽に買えるのでコーラルの町では爆発的な人気になっている。買うために大行列になって、凄い時には半日待ちになるほどだそうだ」

「え・・・」

「行列のために他の店に迷惑がかかったり、買えなかった客が騒動を起こすこともあるので、町の警備兵も動員して店の警護と交通整理にあたることにした」

「え・・・」

「そしてこの料理の名前・・・『ユリ焼き』というそうだな。名前を聞いた時はまさかと思ったが・・・」

「ええええええ!?」


ユリ焼き?

聞いてない!

ラジオ焼きじゃないの!?


「既に『ニューロック名物ユリ焼き』という感じで広まっているぞ。知らぬは本人だけか」

「・・・そういえば名前は好きに付けていいって言いました。言いましたけどね。それじゃわたしが焼かれているみたいじゃないですかー!」



6/13に次話投稿予定です。


じわじわとですが、見てくださる方が増えてきたように思います。

レビュー、ブックマーク、評価、誤字指摘などいただけると大変励みになります。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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