表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死者君が世界を渡って色んな人を曇らせる話  作者: 椿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/16

似た者同士

 あれから、数ヶ月が経った。依然として、俺はこの暗闇の中でクロエに殺して貰っていた。


 彼女の力は素晴らしい。というのも、俺の不死は即時発動、即時復活が基本だ。


 更に、俺はこれまで本当に死ぬかもしれないと思ったことはあまりない。塵の一欠片すら残さず燃やされた時でさえ、生き返ったからな。


 だというのに、彼女の力は何度も俺を、「お、死ねそう」と思わせるのだ。その感覚を味わった後、俺は決まって昏倒し、そして数時間後に目を覚ます。これは画期的なことだ。


 俺は死ぬ度、体調や身体の性能を全盛期に戻される。


 だから、死に続けている今、眠る必要などあるはず無いのだ。だが、俺は意識を失う。それほど重いダメージを受けているということだ。


 「クロエ、君は素晴らしいな。この調子で俺を殺してくれ」


 「……なぁ、お前様。少し、やり方を変えてみんか?」


 「やり方を? どうするんだ?」


 「今、儂はお前様と抱き合って、ただそうしているだけじゃ。そしてもう何ヶ月も、お前様は死んで、眠って、また死ぬを繰り返しておる。だからこそ──」


 クロエはそう言って、周囲の暗闇を操り、それを俺の口へ殺到させた。空気は無くなり、ただ影だけが満ちる。俺はもがく暇も無く、そのまま死んだ。


 「おぉ……♡ これがお前様の中か♡ なんとも温いなぁ♡」


 昏倒する男を抱きしめ、その身体に頬ずりをする。その顔は恍惚に歪み、息は甘く蕩けていた。


 「ほら、お前様。次は心臓じゃ。儂が食べてやろう♡」


 それからの記憶は、所々が欠落している。覚えてるのは、彼女の妖艶な笑みと、甘ったるい媚びるような声。そして何度も突き落とされる、死の感覚だった。


 「お前様、次は血を啜ってやろう」


 「お前様、次は丸呑みしてやろう」


 「お前様、次は──」


 「お前様」


 「お前様」


 「お前様♡」


 「お前様♡♡♡」


 …………何年経っただろうか。もう、時間の感覚が無い。目覚めると暗闇で、隣にはクロエが居て、そして殺される。


 だが、狂うことは無い。俺の精神もまた、死ぬ度に正常へと戻される。だから、俺はこの狂気の空間を正気で彷徨っている。


 「お目覚めか? お前様♡」


 「クロエ……今回も、駄目だったのか……?」


 「そうじゃ。脳を弄れば死ぬかと思うたが……お前様が従順になっただけで、死ぬ気配は微塵も無かったなぁ」


 「ちょっと待て。今聞き捨てならない事を言わなかったか?」


 ここは時間を示す指標が無いせいで、たとえ数時間も、数年も、眠っていると分からなくなるのだ。俺は一体、どれほどの期間、彼女に遊ばれた?


 「お耳をくちゅくちゅしてやっただけじゃ。お主はボーッとしたまま、白目を向いておったからな。そのまま囁いてやると、それはそれは……♡ 情熱的じゃったぞ♡」


 「おい、あんま俺で遊ぶなよ」


 「だってお前様、普段は儂に殺せ殺せ言うばかりで、全く構ってくれぬではないか。少しくらい、役得があっても良いじゃろ?」


 「…………まぁ、一理あるか」


 クロエの姿がリリスそっくりなせいだろうか。俺は、彼女からのワガママに対して、あまり強く言い返せなかった。性根までアイツに毒されているようで、少し嫌だ。


 「おい、お前様。今、儂以外の女を想うたな?」


 「ごほっ……! おぉ、影をこんな風にも、使え、るのか」


 「……本気で喰ろうてしまおうか? なぁ、お前様」


 「…………」


 「あぁ、もう死んでしまったのか。お前様は本当にねぼすけさんじゃのう……♡」


           5


 「ねぇ、従僕。暇よ、何か芸でもなさい」


 「……では、とある国に伝わる、魔法をお見せしましょう」


 「へぇ……あんた、意外と芸達者ね。名前を覚えてあげるわ。言いなさい」


 「私に、名などありません」


 それはいつかの男の記憶じゃった。儂の姿に似た女に、お前様が傅く風景だ。何故かソレを見ると、酷く不愉快になった。


 「はぁ? 私の命令が聞けないの?」


 「事実です。無いものを答えることは出来ません」


 「はぁ……良いわ。従僕、あんた死になさい」


 「はい。リリス様の命であれば」


 女が命令を下すと、男は自らの身を窓から投げた。破裂音がしたのを聞いて、女はその姿を自分の部屋から酷く冷めた目で見ていた。儂の中の怒りがどんどん膨れ上がるのが分かる。


 なんじゃ、この女は? 傲慢で怠惰、人の事をまるでおもちゃのように扱い、壊れると汚いものを見る眼で見下す。その容姿以外、最悪な女じゃった。


 そして男は生き返る。何事も無かったかのように、また立ち上がった。


 「……は? なんで、動いて……」


 「ん……? 俺、なんでこんなとこで死んでんだ?」


 「そこの従僕っ! 今すぐこっちに来なさい!!!」


 「へ……? 急に何言──」


 男は女の姿を見ると、また粛々と命令に従う奴隷になってしまった。女はそんな男を、興奮冷めやらぬといった様子で、ひたすら質問攻めにしていた。


 「ねぇ! あんたも私と同じ、悪魔なの!?」

 

 「いえ、違います。ただの不死です」


 「不死っ!? 凄い! ほんとに死なないの!?」


 「えぇ、先ほどのように、死ぬと全て元通りになります」


 イライラする。男がこの女に対して、屈服しているのも。女が喚き、男の身体をベタベタと触れているのも。その全てに、腹が立つ。


 「ふーん……だからさっき、アタシの魅了も解けちゃったんだ……それなら、死なないよう、だーいじに、しないとねっ♡」


 女が男の顔に近付き、その唇が合わさりそうになった瞬間、儂の中の何かが弾けた。


 「っぅ! 儂のお前様に、触れるなぁ!!!」


 「ぅぁ…………」


 あぁ、やってしまった。これはただの記憶じゃ。既に起こったことに対して、儂が出来ることは何も無い。だというのに、儂は一体何をしておる?


 儂はゆっくりと男の頭から影を引き抜き、その怒りを落ち着けるために彼の胸に飛び込んだ。


 「お前様、儂を抱きしめろ」


 「……は、い」


 その温もりが、儂を包み込む。なんと暖かく、熱いのだろう。儂も身体の全てを使って、男の熱を全て感じ取ろうとする。


 「お前様。お前様は、儂とずっと一緒に居てくれるよな?」


 「……は、い」


 「そうかそうか……! なら、もっと強く抱きしめろ。頭も撫でろ。キスもしろ」


 「…………は、い」


 分からぬ。この感情は、一体なんなのじゃ? この男を見ていると、何故心が満たされる? そもそも、儂にそんなものは無かったはずなのに。


 分からぬ。分からぬのじゃ。この男に抱きしめられると、何故安心する? この男に撫でられると、何故幸せな気分になる? この男と口づけを交わすと……何故、顔が熱くなるのじゃ?


 「お前様。お前様は……儂のことが、好きか?」


 「……は、い」


 「~~~!!! そうじゃろうそうじゃろう! やはり、儂とお前様は相思相愛なのじゃな! くふっ、くふふ……♡」


 分からぬが……ただ、心地よかった。この男を抱きしめ、儂もこの男を抱きしめる。ただ、それだけのことが、堪らぬほど幸せなのじゃ。


 もっともっと、お前様を儂の虜にしたい。もっともっと、儂だけを見て欲しい。もっともっともっともっと……! 儂を、愛して欲しい。


 「──愛、じゃと?」


 愛、愛、アイ? 愛とは、一体何じゃ? 分からぬ。分からぬはずじゃ。


 だが、儂は願った。儂を、愛して欲しいと。つまりは……儂は、愛を知っておる。


 「あぁ……! そういう、ことか……!!!」


 そうじゃ、知っておる。儂は、愛を知っておる!


 この感情じゃ。この身体から溢れ出るこの想いこそ、愛じゃ。儂はお前様を、愛しておる。


 「お前様ぁ……♡ 愛しておる、愛しておるぞ……♡」


 お前様の全てを愛そう。だから、お前様も儂を愛しておくれ。それだけが、儂の望みじゃ。誰にも、お前様を渡しはしない。お前様の全てを、残らず喰ろうてやる。


 そして永遠に儂と生きるのじゃ。絶対に逃がさぬぞ、お前様♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ