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不死者君が世界を渡って色んな人を曇らせる話  作者: 椿


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11/16

誤算

 「ほらほらぁ、どぉ? お師匠様のメイド服の感想は?」


 「可愛いっすね」


 「……………………」


 「……………………」


 「少なくない?」


 いや、褒めたじゃん。何が不満だと言うのか。


 「もっと言葉を尽くしてよ! 3000字以上10000文字以内で私の完璧で荘厳で愛らしくて愛くるしくて愛おしいメイド服を着た女神様について語ってよ!」


 「なんか同じ意味混じってませんでした?」


 「口答えしない! そもそも、フシ君は──!」


 ばたばたと暴れながら、師匠は怒り始めた。また始まったか……


 この人の面倒なところだ。自分のことを褒めろと騒ぐ癖に、その褒め方が思っていたものと違うと、途端に不機嫌になるのだ。


 厄介なところは、彼女にはいくつも禁句があることだ。たとえば、彼女の能力や存在などは賞賛しても構わない。


 だが、容姿が良いと言ってしまうと、途端に機嫌が悪くなる。特に、彼女の顔を褒めると、普通に殺してくる。


 本人曰く、照れ隠しらしい。ふざけるな。


 「はいはい……師匠はちょー美人。人間国宝。ダイナマイトサキュバスボディー」


 「……最後のは褒めてなくない? ギリギリ貶してないかなぁ?」


 「サキュバスに謝ってくださいよ。彼女達だって必死に生きてるんすよ?」


 「どーせ今まで引っかけた子に、サキュバスも居るんでしょ? かぁー! これだからフシ君は! こんなにいい女が妻だってのに、いつまでも他の女にうつつを抜かしてさぁ!」


 誰が妻だ。その契約はもう終わっただろう。


 「あっ! 今もう別れたじゃんって顔した! 残念でしたー! 離婚は両者が認めないと駄目なんだよー!? これ世界の常識だからね!」


 「時空渡りの術を俺が覚えたら関係は解消。師匠もそれで納得したじゃないですか」


 「ぐぬぬ……! それはそうだけど、そうじゃないじゃん……!」


 以前、俺は師匠に手を出した。その結果として、責任を取ることになったのだ。


 最終的に二つの契約をすることになった。一つ、時空渡りの術を習得するまで、この世界から出ず、夫婦となること。そしてもう一つ、三回だけ俺をこの場所に呼び戻せる権利。


 最初は一つだけだったのだが、本当に時空渡りを覚えた俺に対して、師匠は拗ねに拗ねまくった。そして、この条件を追加してようやく、この薔薇園から出ることが叶ったのだ。


 だから、俺と師匠との間に婚姻関係は存在しない。


 「だってだってぇ……! 本当に覚えちゃうとは思わなかったんだもん! なんで諦めないかなぁ!?」


 「師匠の教え方が良かったんすよ」


 「くぅ……! 自分の優秀さが憎い……!」


 師匠は床でばたばた暴れた後、俺のことをじっと見上げた。うるうるしながらこちらを見るその姿は、恐ろしく扇情的だった。俺は師匠の色々とはみ出ている部分を見ないよう、必死で師匠の瞳を見つめた。


 藍色の瞳が、こちらをじっと見定める。師匠はそのままの姿勢で、真剣な声色で俺を誘う。


 「ねぇ……また一緒に暮らさない? フシ君を殺す術は、私が開発してあげるからさ」


 「師匠に俺は殺せませんよ。それに、殺させませんから」


 「……それは、どうして?」


 「俺殺したら師匠、死ぬつもりでしょう? そんなのは駄目です」


 「……勝手な人」


 自分でも無茶苦茶なことを言っているとは思う。だが、師匠の隣に俺は相応しくない。幸せの只中にいながら、自らの破滅を願い続ける男など、彼女の伴侶に相応しくない。


 だから、これはただのワガママだ。自分勝手なエゴだ。


 本当に嫌になる。師匠に会う度、師匠に助けて貰う度、自分のクズさ加減を突き付けられるから。一体俺は、何回この人を傷付ければ良い?


 「ふん……ほら、さっさとご飯作ってよ」


 「はいっす。出来たら呼びますね」


 汚れたベッドを綺麗にしてから、俺はその場から足早に立ち去った。


 「……フシ君の、ばか」


 師匠の独り言に、聞こえないフリをしながら。


          9


 「ほらほら……は や く♡ 誓いのキスしてよ」


 「はぁ……なんで俺はあんなことしたんだ……」


 「結婚式に溜め息吐くとか、ほんとフシ君クズだねぇ」


 「クズでごめんなさい。ということで、やっぱり結婚とか辞め──」


 「んっ……!」


 うだうだと今更日和る彼の口を、私の口で塞いだ。


 数日前まで、会話するよりキスした回数の方が多かったというのに……その口づけは私の脳髄に刻まれた。恐らく、私の人生で最も幸福に満ちあふれていた瞬間だった。


 認めなければならかった。私は、彼のことを愛していると。


 「へへ……何? その顔は」


 「……っ! いや、何でも無い……マジで何でもないからっ……! その顔辞めろ!」


 「ほらほら~。今日は私の顔、見放題だよぉ? ちょー恥ずかしいんだから、しっかり焼き付けてねぇ?」


 彼は私との結婚に、時空渡りの術を習得するまでという期間を設定した。どうしても譲らなかったので、私は仕方なくソレを受け入れた。まっ、私は懐が深いからね。それくらい許してあげるよ。


 フシ君の時空渡りは、未だ不完全だ。基礎は何とか理解したようだけど、まだまだお粗末だ。数千年経っても、彼が完全に時空渡りの深奥を理解することは難しいだろう。


 だから……彼の出した条件なんて、あって無いようなものだった。


 私も彼の時間を奪うように、これまでよりももっと濃密に関わることにする。いつまでも結果の出ない行為に、彼の精神は疲弊するはずだ。その隙間に、私は入り込む。


 フシ君は生意気で、意地っ張りだから最初は否定するかもしれない。


 でも、百年後はどうだろうか? 千年後は? 私が彼の耳元で、ずっとずっと愛を囁いてあげよう。その時、彼の心はきっと私に傾くだろう。


 「ふふ……うふふっ♡」


 顔が緩む。いけない、最近はずっとこの調子だ。こんな顔をフシ君に見せる訳にはいかない。彼が私の身体にいちいち反応するみたいに、私にとって顔を見られるとは、それくらい恥ずかしいことなのだ。


 まぁ……フシ君がど〜してもって言うなら、見せてあげても良いけどさぁ。


 そんな考えが出るくらい、もう私の心はフシ君の虜になっていた。彼とイチャイチャすると幸せで、胸が満たされる。彼が狂って私を求める時は、身体の芯が溶けるほどの悦楽を堪能出来る。


 もっと欲しい。彼をもっと、愛してあげたい。もっと……もっと!!!


 「ローズ、ここなんだが」


 「師匠って呼んでよぉ」


 「……師匠。教えてくれ」


 「ふふっ……♡ 良いよぉ、教えてあげる♡」


 数年経った。フシ君に師匠師匠と呼ばれると、嬉しくなってつい手助けしてしまう。まぁ、これくらいの助力なら問題ないだろう。


 「っぁ……! あぁ……つまり、####は……こういう仕組みで良いのか?」


 「へ……? ま、まぁ……そんな感じ、かな?」


 数十年が経った。フシ君が以前まで発狂していた部分で、狂うことが無くなった。


 「なるほどな……ってことは、####を#$#$にすると……時空が歪むのか。後は自分の身体を安全に移動させる必要が──」


 「…………えい」


 「ごはっ……!? い、いきなり何すんの!?」


 「うるさい。ばーかばーか」


 数百年が経った。フシ君の進捗は停滞することなく、ジリジリと根源へと至ろうとしていた。その段階になって、私はようやく焦りを覚えるようになった。


 フシ君が構ってくれる時間が減った。私に質問することが減った。私を求めることが減った。


 ──ジリジリと、私の心が腐っていく。


 辞めて。フシ君は私のなのに。なんで、何処かへ行こうとするの? 特別なことは要らない。ただ、傍に居て欲しいだけなのに。なのに、どうして?


 「よし……! 後はこうして、時空を歪めれば……! ──よっし!!!」


 数千年が、経った。フシ君はついに、時空渡りの術を……完成、させた。


 「師匠! ついにやっ──え?」


 「行っちゃ、だめだよ。フシ君」


 私の心は、完全に壊れてしまった。 

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