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不死者君が世界を渡って色んな人を曇らせる話  作者: 椿


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10/16

気まぐれ

 「はぁ~……極楽極楽ぅ。いやぁ、豊かすぎる身体っていうのも困りものだよねえ」


 「ガチガチっすね。とんかちで叩いた方が早いんじゃないすか?」


 「それはほぐしてるんじゃなくて、壊してるなぁ」


 薔薇の園に一つ存在する、魔女の家。アホみたいにデカいキングサイズのベッドの上で、俺は師匠にマッサージをしていた。だが、これには一つ重要な問題点がある。


 「ぬぁああぁん……♡ そこっ、そこ良いよぉ♡」


 「…………」


 「お”ぉ……♡ あ”ぁ~~!」


 「っ……!」


 この女、スケベ過ぎる! なんというか、存在そのものが卑猥なのだ。


 明瞭な心地の良い声が濁り、だらしのない嬌声の漏れるそれは、まるで聞く18禁。俺が不死だったから耐えられたものの、限界ギリギリなのは変わらない。きっかけ一つあれば、容易く瓦解するような状態だ。


 「ふぃ~……いやー、身体が随分楽になったよ。じゃあはい、次はご飯作って」


 「……あの、そろそろ服を着ていただいてもよろしいでしょうか?」


 「え? なんで?」


 「なんでじゃない……! 常識を考えろ常識を!」


 そろそろ俺のフシ君がフシ君してしまうぞ。完全自立型フシ君になっても良いと言うのか? うん、良いって貴女は言いますねクソが。


 「おぉよしよし……♡ あまり興奮するなよぉ。私まで昂ぶっちゃうだろ?」


 「ばっ……! 当たってるから!」


 「当・て・て・る・の♡」


 「────っ!」


 もう限界。俺は腰から短刀を引き抜き、そのまま喉に突き刺した。熟練の技が為せる完璧な自害だ。苦しむ暇もなく俺は死んだ。


 そして生き返るということは、俺の全てが元に戻される。先ほどまで燻っていた情欲はどこへやら。まるで賢者のような明瞭な思考だった。


 鮮血がベッドを汚すが、彼女はそんなことに見向きもせず、ただ俺の行動に腹を立てていた。


 「あっ、ずるぅ~。そうやって逃げるのは無しでしょーよ」


 「逃げてない。ちょっと自殺したい気分だっただけです」


 「はぁ~つまんなぁ。せっかく、久々に酒池肉林ぱーちー出来ると思ったのにさぁ」


 うっ……その話は辞めてくださいお願いします。あれは精神がいかれていた時期の過ちなのだ。もう許してください。


 ……それは、時空を渡る術を学んでいる時だった。人知を超えた英智に、俺は耐えられなかったのだ。


 脳細胞が爆発したような、そんな衝撃。後にも先にも、知恵熱で死んだのはあの時くらいだろう。


 理解できずに発狂し、錯乱し、そして死んで、また脳をバグらせる。そういう生活を、俺は過ごしていた。正気ではなくなった俺の行動指針は、原始的な欲求だけが残る。つまり、三大欲求を満たすことだ。


 それから先は……言わなくても分かるだろう。俺はあの師匠に手を出し、あの人もノリノリでそれを受け入れた。ちなみに、その後俺は腹上死した。何度も何度も何度も搾られ、めっちゃ死んだ。


 という訳で、師匠に手を出すのは無しだ。俺が死なないからと、彼女はどうせ手加減してくれない。


 あの死に方はマジで嫌なのだ。何が嫌って、天国と地獄を何度も体験させられるところだ。最初は心地良い分、死ぬときがマジで苦しい。


 「……服を着ないと、その顔の布剥ぎ取りますよ」


 「えぇ~!? なんでそんなことすんのぉ!? ほんとえっちなんだけど!」


 俺がその顔に手を伸ばすと、彼女は赤面しながら後退った。えっちなのはお前だ。本当にふざけないで欲しい。


 「しょーがないなぁ。なら、フシ君が着せてよね。ちなみに、私は手伝わないからねぇ」


 「それで良いです。……って、なんで普通の服が無いんですか?」


 「だってここ寝室だし。そういうプレイ用のやつしかないに決まってんじゃん」

 

 俺は内心キレながら、一番露出の少ないメイド服を彼女に着せた。もはや服として機能していない紐だけのナニカとか、一体どこから持ってきたんだよ。

 

 「フシ君、こういうフリフリの服好きだもんねぇ。絶対ソレ選ぶと思ったよ」


 その後……彼女を着替えさせる間、実に7回も自害することとなった。もう、にやにや笑う師匠の軽口に答える元気も、無くなっていた。


           8


 「だ・か・ら……! なんでこんな初歩的なことも分かんないのかなぁ!? 馬鹿なのかい!?」


 「だぁああぁああ!!! 分かんねぇもんは分かんねぇだよ! 脳が理解を拒んでんの!」


 「####が$#$#で#&#%になるの! ほら、分かり易い!」


 「──は!? また死んでた!? マジで何なんだよ、その言語は!」


 ぎゃあぎゃあと、私達は取っ組み合って喧嘩をする。身体も最強な私に勝てるはずもなく、男はまた鼻血を吹き出して死んだ。でも、また生き返って騒ぎ始める。


 彼を弟子に取ってから、私の薔薇園は少し騒がしくなった。出来の悪いこの子は、いつまで経っても時空渡りの初歩すらも理解出来ない。けれど、彼は諦めなかった。


 不死であり、自分を殺す術を探す憐れな男。名前が無いというので、フシ君というあだ名を付けてあげた。


 フシ君は毎日毎日発狂し、暴れ回り、時には私に喧嘩を売り、そしてボコボコにされている。脆弱で、愚かで、そして無知だ。だが、その不死性だけは目を見張るものがある。


 彼の不死は素晴らしい。私でもソレがどういう仕組みで発動しているのか、分からないのだ。


 彼を弟子にした一番の理由は、彼の不死を解き明かしたいという知的好奇心によるものである。だから、彼が一生時空渡りを理解せずとも、それで良かった。


 「なぁ、ここって食いもん無いのか?」


 「君も私も食事せずとも生きていけるじゃないか」


 「いや、俺は腹減っても死ねば戻るだけで、空腹は普通に辛いんだが」


 ワガママばかりで、叡智の結晶たる私を敬わない彼自体は、どうでも良かった。


 「……これは?」


 「飯だよ飯。ほら、そっちがあんたの分」


 「はぁ~? こんなの、私が食べるわけないだろ?」


 「良いから食えって。冷めるぞー」


 どうでも良い。フシ君なんて、なんとも思ってない。ただ出来の悪い馬鹿弟子だ。


 「……ふん。まぁまぁだね」


 「マズイとは言わないんだな」


 「私は優しいからねぇ。しょうがないから全部食べてあげるよ」


 「あ、コラッ! 俺の分まで持ってくなよ!」


 彼は私に人並みの生活を思い出させた。眠って、食事をして、着替えて、学びを深める。そんな当たり前の生活が、少し楽しかった。


 フシ君と喧嘩して、フシ君と口論して、フシ君をボコボコにして……そんな毎日でずっと、彼を見ていた。無謀な挑戦を続ける彼を、私は見ていた。


 死んで、死んで、死に続けて……時には理性を無くして、私を求めてきたこともあった。今まで受けたお誘いで、間違いなく最低なもの。なのに、私は彼を受け入れていた。


 「……間抜けな顔。散々人の身体ですっきりしておいて、よくもまぁ先に寝られるね」


 なんで、あげちゃったんだろ。誰にも捧げるつもりなんて、毛頭無かったのに。


 「ろーず……ろー、ず」


 「はいはい。貴女の師匠はここにいますよー」


 まるで、子供のように私を求める彼を抱きしめながら、私は数え切れないほどの罵倒を心の中で唱えた。


 「ありがとう……ローズ」


 「んふふ……♡ どういたしまして♡」


 なのに……そんなたった一言だけで、私の中の全ては霧散してしまった。彼の頭を撫でながら、柄にもなくキスまでしてしまう。


 別に、フシ君のことが好きだとか、愛してるとか、依存している訳じゃ無い。むしろ、フシ君の方が私の虜で、私を求めて止まないだけだ。


 私は別に何とも思ってない。だから、だらしなく緩むこの顔も、未だ冷めぬ火照りも……全部全部、ただの気まぐれだ。


 別に私は、フシ君のことなんて好きじゃない。好きなんかじゃ、ない。

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