小堀純【7】
(1)
翌朝、私は午前中に昨日買っておいた東京ばな奈を持って、敷地内にある病院へと向かっていた。武井さんが入院していると昨日あいつから聞いてる。お見舞いに行こうと思っていた。
受付で病室の番号を聞いて、部屋へと向かう。
シセツの附属病院はかなり広い。総合病院であり、シセツで働く人の多くがお世話になっている。こう言うところのケアはしっかりしているのだが、噂では人手不足で医師も看護師もかなりの激務をこなしているらしい。
さて、病室についた。ドアをノックして中に入る。
一人部屋だったので、そこには武井さんしか居なかった。ベッドの上に横たわる彼を見て私は、思わず息を呑んだ。
「武井さん…!」
私が見たのは、腕や太ももを包帯でぐるぐる巻きにされた武井さんの姿だった。
「おー、小堀か。元気?」
武井さんがこちらを見てピースをした。
「大怪我じゃん!大丈夫?」
慌てて彼に駆け寄る。
「大丈夫大丈夫、ピンピンしてるっつーの。大袈裟なんだよな、何ヶ所か撃たれたくらいでこんなに包帯巻いちゃって。」
武井さんは面倒臭そうに包帯を巻いた腕を見ている。どうやら命に関わる怪我ではなかったようだ。
「撃たれたの?武井さんなら避けられそうなもんだけど。」
武井さんは動体視力が非常に高い。何でも世の中の大半がスローモーションに見えているそうだ。その素早さが、この間の私の怪我を最小限に抑えてくれた。
「うん、オモくそ後ろからバキューンって。あー、やられたわ。ああいうやられ方すっと、端野チャンの能力羨ましくなるよな〜」
端野。正直、今は聞きたくない名前だ。あの女。何をどうしたらあんなに根性が悪くなるのか分からない。
「ん?なんかあったか?」
私が黙り込んでいたため、武井さんが尋ねる。…もういっそ、あのガキの本性を話してやろうか。いや、でもカタンと他の人には話さないって約束したし…そのカタンももう居ないのだけれど。
「どしたん?お兄さんで良ければ話聞きまっせ?」
武井さんはベッドの上に胡座をかいて私の方を向く。
「…実はさ、私が教育担当してた子いたでしょ?あの子、自分の家に帰っちゃったんだ…」
端野のことより、実際こっちの方が心にきていた。
「あー、あの金髪の可愛い女の子?けえったんか。…そっか。」
武井さんは人の心の機微を読み取るのが上手い。私の表情から喜べていないことはすぐに分かったと思う。
「…本当はめでたいことなんだけどな…お前、兄ちゃんが亡くなってから一人だったもんな。急にいなくなったら、素直に喜べないよな。」
私が言いたかったことを全て代弁してくれた。
「あの子、帰る時にさ、また会おうねって言ってたの。」
呟いた瞬間、ボロッと涙がこぼれた。
「もう会うことなんか、できないのに。」
両手で顔を覆ったが、嗚咽が漏れてしまう。おかしい。私は彼のお見舞いに来たはずなのに、何故かお悩み相談をして貰っている。
頭をポンポンと撫でる感覚がある。武井さんが撫でてくれてるようだ。余計に泣いてしまうじゃないか。
「お前はさあ、いつも我慢しすぎ。ムカついたら怒りゃいいし、悲しければ泣けばいいよ。少なくとも武井のお兄さんの前では自然体でいなさいよ。」
そう言うと、武井さんは私を不意に抱き寄せた。あったかい。そう言えば、ここ何年も誰かに抱きしめられたことなんて無かったかもしれない。照れくさいけど、今はそれ以上にありがたい。私は好きなだけ武井さんの胸を借りて泣いた。
「なんか、ごめん。お見舞いに来たのに。」
ひとしきり泣いて落ち着いた後で、武井さんに謝った。私の謝罪に武井さんは笑って返してくれた。
「あ、そうだ。これあげる。」
忘れてた。東京ばな奈あげなきゃ。
「ええ、サンキュー。俺これ好きなんだわ。」
東京ばな奈の箱を掲げて無邪気に武井さんが喜んでいる。その姿を見た瞬間、突然さっきの抱擁を思い出して、頭全体が急激に熱くなるのを感じた。よくよく考えたら武井さんと私は男女ではないか。あ、あ、あんなにギュッと…!だ、ダメじゃない?そう言うのってコイビトドウシとかじゃないと、ダメじゃない?
そんな思考がぐるぐるしている最中に、不意にドアをノックする音がした。
ドアの向こうに現れたのは、
端野織子だった。
急に熱が引いて行くのが分かる。
彼女も見舞いに来たのだろう。何せ私以外には、優しくするのが目標の女だ。
私はすっと、立ち上がると「私、戻るね。また。」とだけ武井さんに伝えて、端野には目もくれずに病室を後にした。通り過ぎる瞬間、端野が何か言った気がするが、もう関係ない。だってほら、私は一匹狼なんでしょう?
(2)
今日は学校も休みだし、仕事も今のところ無い。
一人の自宅は、やはり広すぎる。カタンが使っていた部屋には、まだ彼女の残り香のようなものがある。勝手にずっと一緒だと思っていた。これから彼女と一緒に成長していくものだとばかり思っていた。ソファに寝そべって、深くため息をつく。今日はこのまま寝て過ごそうか。明日からはまた、友達を作ってはならない学校生活が始まる。どこに行っても一人だ。端野の言う通りなのかもしれない。
そんなことを考えていると、スマホに着信が来た。園江さんからだ。
「はい、小堀です。」
『お疲れ様。今、弟くんが面会に来てるぞ。』
「本当ですか!?」
私はガバッとソファから飛び起きる。
『面会室に居るから、急いでいらっしゃい』
「分かりました、すぐ行きます。」
通話を切ると、私は急いで乱れた髪を直した。
私の大切な弟が、会いに来てくれた。急がなきゃ。
大慌てで面会室に入ると、そこには弟の姿があった。
彼は小堀久人。小学5年生の歴とした血縁の弟だ。彼がまだ赤ん坊の頃、力の加減の仕方が分からなかった私が右手の薬指と小指をもぎ取ってしまった。それでも久人は月に一度はこうして会いに来てくれる。兄弟仲は悪くないと思う。
「姉ちゃん、久しぶり!元気だった?」
「久人ー!元気だよ。またあんた身長伸びたんじゃない!?」
私たちは会って早々にハグをする。
久人の身長はちょうどカタンと同じくらいかもしれない。小5にしては大きい方じゃないかな。ひとしきり抱擁を済ませた後、私たちは離れた。
「…姉ちゃん、彼氏できた?」
唐突に久人がそんなことを聞いてきたので
「え!なんで?居ない居ないよ!」
驚いて私は両手をワタワタと振る。
「…そうなの?なんか、今服から誰か別の人の匂いがしたから。」
久人の言葉に、武井さんに抱き締められたことを思い出した。何て鼻の効く弟なんだ。
「確かに、さっき人とくっついたけど、そう言うんじゃないから。」
久人はなかなかのシスコンなので、ヤキモチを妬く。適当に誤魔化すより本当のことを伝えた方がいい。
「そっか、なら良かった。姉ちゃんをお嫁さんにするのは僕だからね。」
そう言うと、久人はにっこりと笑った。ははは、兄弟じゃ夫婦になれないんだよ久人。まあ、冗談で言ってるのも分かってるけど。
私たちは改めて面会室の対面に座って近状報告を始めた。
久人はクラス替えがあったことや、新しい友達が増えたこと、担任の先生が優しいことなどを教えてくれた。一通り彼の話を聞いた後、今度は私の方から質問をする。
「ねえ、母さんと父さんの様子はどうなの?」
「うーん、相変わらず父さんは家に居ないし、母さんが家のこと全部やってるね。」
ここで言う父さんは、私の父でも久人の父でもない。母は2回離婚をしていて、私は最初の夫との子供で、久人は2番目の夫の子供だ。その久人の父親とも離婚をして、今の夫が3人目と言うことになる。どちらの離婚も、私が原因になっているらしい。実の父は私を育てることを放棄したくて離婚したそうだ。2人目の夫は私が久人の指を欠損させたことにより、離婚。母には申し訳ない、としか言いようが無い。しかし3人目の夫ともどうやら上手くいってないようだ。こればかりは、私のせいではない気がするが。
「でも、父さんは優しくしてくれるよ。おそらく、母さんがいつもピリピリしてるから家に居づらいのかな?いつもどこにいるんだろう?」
…。小学生の久人には分からないかもしれないが、中2ともなると何となく予想はつく。もしかしたら、もう離婚も近いかもしれない。
「母さん、何か言ってた?」
「うん、いつも僕の療養費と仕送りありがとう、だってさ。」
久人はそう答えながら右手をひらひらさせた。その薬指と小指は欠損したままだ。
「…久人…右手がそれで不便でしょう?本当にごめんね。」
こんな時、私は謝ることしか出来ないのが悔しい。
「今は左手で何でもやってるよ。平気平気。でも…ちょっと野球とかやってみたかったかなあ…」
久人の言葉に私の気持ちが沈み込む。弟にこんな不便をさせている昔の私を殴ってやりたい。
「でもさ、これがあったからこそ、姉ちゃんと今も繋がれてる気がするよ。これからも、ずっとずっと一緒にいようね。」
久人はそう言って私の手を握った。ちょっと心配になるレベルのシスコンだ。久人の将来の彼女は大丈夫だろうか。まあ、その頃には脱・シスコンしてるに違いない、と思いたい。
面会の時間はあっという間に過ぎていった。
「じゃあ、またね姉ちゃん。姉ちゃんは僕のお嫁さんになるんだから、浮気しちゃダメだよ?」
「はいはい、分かってるよ。また遊びに来てね。」
久人は大袈裟なくらい大きく手を振って、元気良く帰っていった。
その姿を見届けると、もう日が傾いてきていることに気が付く。思えば、食欲が無くて朝も昼も食べていなかった。夕飯くらいは食べないとな…相変わらず作る気はしないから、食堂にでも行こう。
(3)
私の本当の父親は無責任だったとしか言えないが、久人の父親と母が離婚したのは間違いなく私のせいだ。幼少の頃、私が母の肩を叩くと「強すぎる」と嫌がられていた。公園で捕まえようとしたバッタはいつも潰してしまった。自分が力の制御ができていないなんてことは、幼い私には分からなかった。
でも、まさか生まれて間もない弟の指を千切ってしまうなんて…当然久人の父親は怒り狂っていた。今でもあの表情を鮮明に覚えている。母も同様に私のことを叱咤した。でも、母は同時に私に怒りをぶつける久人の父から庇ってくれていた…
母は本当に時々シセツに面会に来る。せいぜい半年に一度程度だ。私が彼女にもたらした不幸を考えれば、それでも会いにきてくれるだけありがたい話だ。
久人と会うと、毎度同じことを思い出してしまう。そんなことを考えているうちに、食堂にたどり着いていた。
「今日の夕飯は…何があるかな。」
メニュー表を一通り見て鮭のムニエル定食を注文すると、できるだけ奥の席を選んで腰掛けた。
ここで一人で食事をするのも、久しぶりのことだ。不思議。一人ってだけでこんなに味気ない。
なかなか食事に手をつけることができずぼんやりととしていると、突然こちらに向かって走ってくる足音が聞こえる。
目の前に現れたのは、端野織子だった。
息を切らせながら、私の前に立つ彼女を少し見てすぐに目をそらせた。
「…不愉快。」
私はぼそっと一言もらす。
「あんた、病室ですれ違ってから、どこにいたの?探してたんだから。」
息も絶え絶えに端野が問いかけてくる。
私は目をそらしたまま、何も答えなかった。いわゆる無視ってやつだ。
「…ね、ねえ、無視しないで?お願いだから…」
急に端野がしおらしく懇願してきた。気味が悪い。どう言うつもりか。私は相変わらず、端野をいない人間として対応する。
「お願い。聞いてよ。あたし、あんたにこれまでのこと謝りたいの。」
謝りたい?彼女の言葉に、やっと私はそちらを向いた。
「謝るって、何を?」
端野が謝るべきことは一つや二つじゃない。果たして、何を謝罪する気なんだろうか。
「…順を追って、話してもいい?」
端野は遠慮がちに私に尋ねる。
「…とりあえず、座ったら?」
私は端野に目の前の席に座ることをすすめた。
聞いてやろうじゃないの、何を謝るつもりか。
「…あたしがここに派遣されたの、3ヶ月前くらいだって知ってるよね?」
一呼吸おいて、端野はそう切り出した。
「来てすぐさ、私より年下の訓練中の子か、ずっと年上のお兄さんお姉さんばかりで、全然馴染めなかったんだよ。」
端野の話を聞いているだけでも芸がないので、定食の味噌汁を一口飲んだ。
「で、みんなが話してるのが聞こえて。すごい中学生女子が居るって。中学生なのに、前衛でバンバン戦う子が居るって。それが…小堀純、あなただったの。」
ふーん、私はそんな風に噂されてたんだ。おやおや。
「…勝手にあんたに憧れて…バディを組みたいと思ってた。そのために、こっちに来てからもずっと訓練してたんだ。いよいよ足手纏いにならないくらいになったって、そろそろ園江さんに相談しようと思ったら、急に『カタン』って女が現れた…」
ん?ん???
…つまり私のこと嫌いってのも嘘だったってこと?
「良く分からないヒョロヒョロのイギリス人に、急に横取りされた気持ちになっちゃって…勝手にムカついて、勝手に嫌がらせしてたの。」
端野の自白に、私はポカンと口を開いてしまった。あまりにも幼稚。いや、こいつ小学生だったか。いやいや、小学生にしても、だよ?
「ごめんなさい!!」
突然端野が勢いよく頭を下げた。
「任務中に嘘ついて怪我させて、ごめんなさい!カタンに酷いこと言って、ごめんなさい!あんたにも強く当たって、ごめんなさい!」
深く下げられた端野の頭の真下に、透明の雫が落ちているのが見えた。
泣いてるよ、この子。…アホなのか?
「…無視しないで…本当は友達になりたかっただけなの。」
これが彼女の本当の本音らしい。呆れた…。そんな理由で、今まであんなネチネチと…
「バカ!!!!」
考えるより先に、大声が出ていた。
食堂にいる他の人たちが驚いてこっちを見ているが、知ったこっちゃない。
「最初からそう言えば良かったでしょうが!人の傷口を抉るようなことをネチネチネチネチと…あ、私は実際に腕抉られてるし!」
端野は頭を下げたままだ。
「大体ね、なんでそんな二人組にこだわってるの?別に私とカタンとあんた、三人組でも問題ないでしょうよ!なのにあんたは、友達をとったとられただの…本物のクソガキだね!」
私の言葉に、彼女は小さく「ごめんなさい」と謝っている。
「なんで正面から一緒に組みたいって言えないのよ?ひねくれたことばかり言って斜に構えてさ。子供らしくあれっての!」
ひとしきり私が怒鳴り終えると、端野は自分の涙が溜まったテーブルに突っ伏して、
「…真っ直ぐに生きる方法なんて、知らないもん…」
と、呟く。
私は少しだけ聞いた彼女の境遇や能力を思い返していた。
人のオーラが見える、それ故に両親から異質なものを見る目を浴びせられていたこと。家が貧しく、家族揃って出かけたことが無いこと。時に人の心さえ読み取ることができる能力。育った環境もそうだが、彼女の能力も心を歪ませる要因になっているのかもしれない。
「…あんたさ、ヒューゴと任務に行った時にみんなの役に立ちたいって言ってたじゃん。それは立派な志だと思うよ。真っ直ぐになれないなら、それはそれ仕方ないよ。ひん曲がったままでも、役に立てたらいいんじゃない?」
私が落ち着いた声で、そう声をかけるとやっと端野が顔を上げた。うわ、涙でぐっちゃぐちゃじゃん。
「でもさ、本音を吐き出せる場所がないといつかパンクしちゃうよ。私でいいならいつでも話聞くから、捻くれるのもほどほどにしときな。」
「え…?」
私の提案に、端野は驚いた表情をしている。おいおい、鼻水出てるぞマヌケ顔だな。
「なってやろうじゃないの、この小堀純様があんたの友達第1号に。」
私が胸を張って端野織子に堂々と宣言する。
彼女はますます驚いた顔になったかと思うと、私の真横に走り込んできた。
「うえぇぇぇん、本当にごめんね!ありがとう、純!」
そして、私に思い切り抱きついてきた。おい、涙と鼻水が。涙と鼻水が…!
びええん、と大泣きしている端野をなだめながら、まさか端野織子と私の戦いがこんな形で幕を下ろすことになるとは、と苦笑いをしていた。
(4)
次の週末、私と織子はシセツの射撃場に来ていた。この間任務をこなした時は、彼女は護身するばかりでほぼ攻撃をしていなかった。これから一緒に動くとなると、せめて後方援護くらいはして欲しい。織子が言うには射撃の練習はしていた、とのことなので、実力を見たかった。
織子がシセツで支給されている銃を持ち、射撃台の前に立つ。
しっかりと構え、一つ深呼吸をすると何発か的に弾を打ち込んだ。
発砲のタイミングでの体のブレはない。安定感がある。的を見るとしっかり全て急所に当たっていた。
「ふう、こんな感じだけど…どう?」
銃を置いた織子がこちらに戻ってきた。
「完璧じゃん。余裕で後援できるよ。なんで前は撃たなかったの?」
「練習場ではちゃんとできるけど、実戦で撃つ自信がなくて。」
私の問いかけに織子はため息をつく。
「実戦では的が動いてるわけだからね。まあ、でも次はやってみなよ。」
「…分かった、頑張る。」
乗り気ではないらしく、渋い顔で私の隣に座った。
「ねえ、純も腕前見せてよ。」
わっ…と。やっぱそう来たか。困ったな。
「あはは…実は私、射撃めちゃくちゃ下手なんだよねーあはは…あんまり見せたくないかも…」
「は?あたしのは見ておいてそれはないでしょ?撃ちなさいよ!」
織子の言い分もごもっともだ。私はしぶしぶ射撃台の前に進む。
しっかり構えて…落ち着いて…きっと今日は撃てる!
意を決してトリガーを引いた。
何発か撃ったが、結果はお粗末なものであった。
後ろで見てる織子も目を丸くしてる。
「…一応、まあ…当たってはいるね…」
フォローするように織子がいう。しかし当たっているのは、急所とは程遠い場所ばかりだ。
「あは、あはは。ウケる。あんた、ヘッタクソ。まさか気鋭の前衛小堀純が、射撃ド下手なんて。」
「だから先に言ったじゃん、私ダメだって!」
「だから射撃のエキスパートの武井さんが後衛してたんだ。」
「そうだよ、文句ある?もう、笑うな!」
織子はツボに入ったらしく爆笑している。仲直りしてもムカつくガキンチョであることは変わりないわけだな。でも、こんな風に素直に笑う彼女は初めて見た。悪くない気分。
「織子さ、興味本位で聞くんだけどオーラってどんな風に見えるの?」
やっと笑いのツボから抜け出せた織子に私が問いかける。これまでは関係の悪さから聞くに聞けなかったことだ。
織子はしばらく考え込むようにうーん、と唸ってから、
「表現するのが難しいけど、色…みたいなのが見える。実際その色に見えているわけではないけど、例えば怒っている人なら赤っぽいオーラに見えたり、落ち込んでいる人なら青っぽく見えたり…だから、戦闘体制にある人のオーラも見分けられる。」
と説明してくれた。
「へえ、すごい便利じゃん。その情報も仕事に活かせたら強いね。」
「たまに見えない人もいるんだけどね…」
そこまで言って、織子は言葉を詰まらせた。
「…見えない人って、もしかしてヒューゴ?」
私が尋ねると、織子は静かにうなづいた。
「ゲラさん、本当に素敵な人だけど…底が見えない怖さがある。きっとあんな能力を持っているから、大変なことが多かったんじゃないかな。」
織子の言葉に私は思わず黙り込んでしまう。そんな私を見て慌てて
「あの、悪口じゃないよ?」
と織子が弁明した。
「うん、分かってるよ。ヒューゴのことは好きだけど、私だってあの人の苦悩までは分からない。」
私が苦笑いしたことで、織子はほっとした表情になる。
それから不意に神妙な顔付きになり、
「本当は、カタンにも謝らなくちゃいけなかったね。」
と、ポツリと呟いた。
「まあね、カタンは帰っちゃったから叶わないけど、ずっとあんたのこと気にかけてたよ。」
「えっ…」
私の言葉に織子はこちらに顔を向ける。
「あんたを叩いたことも気にしてたし、怪我をさせるつもりは無かったってあんたが言ったのを覚えていて、何か理由があるのかも?ってフォローしてた。あんたの不正を上部に報告しないよう私に持ちかけたのもカタンだよ。」
「そう…だったの…」
私の話を聞いて、織子はうつむく。
「本当にいい人だったんだね、カタンは。あたしとは大違い。」
「まあ、確かに聖女みたいな子だったね。…正直、シセツは似合わない。元の世界に帰るべき人だったんだよ。」
「あたしが最初から素直に、二人と友達になりたいって言えてたら良かった。」
「ま、口が悪いのはともかく、天邪鬼はやめた方がいいね。済んだことなんだから気にしなーい。」
カタンの聖女ぶりに織子がどんどん自己嫌悪に陥ってるようなので、私は彼女の肩を軽くポンポンと叩いた。
「これから組むとしたら、私と武井さんとあんたの三人になるかもね。武井さんはあんたのこと気に入ってるみたいだから、うまくいくよきっと。」
「武井さんはあたしじゃなくて…」
織子が何か言いかけたので、私は小首を傾げた。
「…ううん、なんでもない。次はちゃんとフォローするからね、銃下手女!」
何か言いかけてやめたと思ったら、とびきりスマイルで罵倒してきた。
…ぶつぞ?
まあ、これも織子らしさってやつなのかな。
「あ、今日純の家泊まりに行ってもいい?」
「は?自分の部屋あるでしょ?」
「一緒にマリカやろうよ。」
これまでの不仲がまるで嘘だったみたいに、織子はよく懐いている。こういう憎たらしい後輩ができるのも悪くない。
私たちは軽口を叩き合いながら、射撃場を後にした。
今回は少し更新早かったかもしれません。ちょっと体調悪い中での執筆なので、至らないところがあったらご指摘くださいませ




