小堀純【10】
(1)
カタンがシセツに残ることを決めた後、次の任務が待っていたかのように入ってきた。ここからは、3班の司令塔としてカタンも携わることになる。いよいよ日陰の世界から逃れられなくなる日が来たのだ。
今回は前回からの流れで、例の半グレに薬をばら撒いていた暴力団の抹消が任務の内容になる。ヤクザの中でも薬物売買や闇金融に手を染めていて、払えなくなった人間は容赦なく解体して臓器として売りに出してしまうそうだ。その解体を任せられていたのが、以前抹殺した半グレの変態ロリコンボスだったらしい。死んでもなお気持ち悪い男だ。
任務の流れは、田島班長とカタンで概ね決めてくれている。私たち隊員は織子に敵の挙動を見て貰いつつ、司令塔の指示通りに動くだけで済むから気が軽い。
「…この可能性も…ああ、こういう事もあり得るか…」
移動のトラックに揺られながら、カタンは一人ボソボソと呟いている。どうやら今なおシミュレーションを繰り返しているようだ。カタンの特性上、一度覚えたことは忘れない。繰り返し状況を確認して頭の中に情報を積み重ねているのだろう。私とさして変わらない造形をしているだろうに、膨大な記憶を格納できてしまう彼女の脳のつくりがよく分からない。
「ねえ、純。今日、武井さん居ないね?」
隣に座っていた織子が声をかけてきた。見渡すと、確かに彼の姿が見えない。
「また怪我かな?」
織子は小首を傾げた。彼女は結構武井さんに懐いている。武井さんも無鉄砲なところがあるから、怪我をしがちではあるんだけど。
「武井は、5班に異動になった。」
私たちの会話を聞いていた田島さんが織子に言う。
え、異動?聞いてないんだけど。隣を見ると、織子も目を丸くしている。
「5班は若手が多い。一人ベテランが入るだけでも、生存率が上がるだろう。小堀もいつまでも武井に頼っているようでは困るしな。」
ベテラン。彼はまだ17歳。しかし、シセツの子供たちのほとんどが10歳から現場に出ている。7年も任務をこなしていれば、ベテラン扱いになるのか。私は4年目。もうそろそろベテランに片足突っ込みそうだな。
そんなことを考えていると、トラックが止まった。目的地に着いたようだ。
「さあ、みんな。今日はまた新しい試みだ。俺と新しい司令塔カタンが考案した作戦通りに動いてもらう。事前に伝えているが、改めてカタンから説明してもらう。」
田島班長がそう言うと、カタンが前に出て紙を広げた。
「皆さん、よろしくお願いします。今回は大通り沿いのビルという事もあり、必ず対象を外に漏らさず且つ周囲の方々から気が付かれないように行動する必要があります。」
そう、実は以前田島さんがカタンをテストする意味で見せた地図、実際の標的だったんだ。
「トラックは裏側に止めてあります。裏口のドアを破ったら、狙撃犯は真っ先に正面自動ドアのセンサーを破壊してください。予め指示を与えられた方は各階の非常ドアの前に移動、銃を使う方はサイレンサーを忘れずに。」
紙にはビルの構造図が描かれている。カタンはその一つ一つを指差しながら説明した。
「正面ドアの面には、警察官の衣装を着た方に二人立ってもらいます。他所から見た時のフェイクと、万が一正面ドアを破られた時の対処としてよろしくお願いします。窓は極端に少ないですが…できる限り割らないよう気を付けて動いてください。」
怪しい組織というのは、窓を好んで作りたがらないものだ。このビルもそういう事なのだろう。2人の警察官コスプレは、必要最低限という意味で許可が取れたようだ。
「敵の動きの流れは端野がリアルタイムで伝える予定だ。インカムの情報を聞き逃さないように。」
最後の締めに田島班長がそう告げる。
「では、時間だ。開始!」
田島班長の号令を皮切りに、兵が一斉に裏口へと駆け出した。
(2)
裏口のドアノブが撃ち抜かれると、狙撃担当がワンフロアの自動ドアのセンサーを一気に破壊。ここまでは作戦通り。透明なドアの向こうには、すでに警察官姿の兵が配置されている。ナイス。
一階にたむろしていた構成員は無視し、各階の非常ドアの担当が階段を走り抜けていく。すごくスマートだ。
『1階5人、2階は手前の部屋は0、奥の部屋に3人、3階は手前の2部屋にそれぞれ4人、一番奥の部屋は1人。』
インカム越しに織子の声が聞こえてくる。とは言っても、織子は私の後ろに付いているわけだが。
「さて、順番に片付けるか。」
私はそう言うと、腰に下げたナイフを握った。私と織子の担当は一階だ。
「なんだあ?てめえらは!」
あまりに一瞬の出来事でただポカンと見ることしかできなかった敵の一人が、やっと反応した。それに合わせて、他の構成員も銃やらドスやらを構え始める。が、それと同時に背後に居た織子が発砲した。
銃を持った男達の手を次々と撃ち抜いたのだ。
「織子、ナイスコントロール。でも、頭狙えや。」
「あたしだってまだ怖いんだよ!」
なる。人を殺すのがね。
「もお、仕方ないな…」
そう言うと、私は姿勢を低くしてとりあえず織子が撃ってくれたやつの懐に潜り込んだ。素早く胸から首にかけて深くえぐる。その体を蹴飛ばして他の奴に思い切りぶつけた。ぶつかった方はドスを構えていたものだから、仲間を背中からがっつり刺していた。アホだ。
「ガキが!」
織子がビビっていると判断した他の敵が、彼女に向かって突進している。
「撃て!」
私は大声で織子に叫ぶ。
「やったるわ!」
織子は刃が届く直前に敵の眉間を撃ち抜いた。
「ヨシ!偉い!」
その間に、私は下敷きになってモタモタしている男の頸動脈を掻っ捌いた。
「あたしも一人前になるんだぁ!」
調子が出てきたのか、手を負傷しうずくまるもう一人のガンマンの側頭部も撃ってる。前見た時よりコントロール力が上がっている。練習してたんだろうな。
「あと一人!」
あまりの展開にどうしたらいいか分からない、という雰囲気のドスを構えた青年の方向へ走り込む。
この子、なんで暴力団になんか入ったんだろうな。これから他に楽しいこともあっただろうに。でも。
「ごめんね。」
怯えた表情の彼に小さく囁くと、その首にナイフを滑らせた。深く、深く。吹き出す赤色。何回も見てきた景色だ。彼が崩れ落ちるのを確認した後、織子の方を見る。
「…はあ、やった。あたしでもできた…」
織子は興奮しているのか、肩を上下させながら息をしていた。成功に喜ぶ彼女を見て、私は少し物悲しくなった。こうやって兵は育てられていくのだ。
「織子、今の敵の動きを見てもらえる?」
私が声をかけると、織子は集中するような姿勢をとった。
「2階はもう、片付いてる。…え、待って…」
急に織子は眉をひそめた。
「3階から下に人が…移動してる?どこに?」
彼女は言いながら床を見る。
「地下!地下がある!!地下に人が移動してる。」
インカムをオンにして全員に向かって織子が叫んだ。すかさず、カタンから返答がある。
『裏口の右側を見て!そこに何かある?』
「一階、何も見当たりません。」
私はすぐに確認して声を返した。
『2階、同じく何もないです』
2階の担当も応答する。それに食い込むように3階からの伝達が入った。
『3階!エレベーターがあった!ここから地下へ行ったようです!』
私と織子は顔を見合わせた。
『迂闊でした…おそらく直通の隠しエレベーターです。3階担当は直ちに追ってください。』
カタンの声に悔しさが滲む。通信はそこで途絶えた。
隣を見ると、織子がまだ床を見ている。
「ねえ…元々地下にいた奴もいるみたい。3階担当だけじゃ対応しきれないよ、これ。どうする?」
私は黙って裏口付近に戻っていく。
「純!」
慌てて織子が追いかけてきた。
「出入り口を一つに絞るなんて、そんな危ないことしないでしょ。一般的な建造物ならキッチンにあたるのはここら辺かな?」
織子を尻目に私はナイフで床のカーペットを剥ぎ取った。現れたのは、床下収納用の蓋だ。
「ビンゴ。」
私の声を聞くや否や織子が取っ手を引き上げるが、ぴくりともしない。
「織子、ちょいどき。」
多分下側から鍵が掛けられている。普段は使わないけど仕方ない。私は銃を取り出すと蓋を壊す勢いで何発か弾いた。射撃が下手でも流石にこれくらいならできる。
蓋は踊るように弾け飛んだ。
「さ、行くよ。」
織子に促して、地下へと飛び込む。
(3)
地下はかなり広い空間だった。どうやら武器庫と訓練場を兼ねているようだ。
それから…ガラス張りの部屋が見える。そこでは、濃い緑色の葉が大量に育てられていた。
「はあ、自家栽培ですか。儲かりますね。」
青々とした農業スペースに私は呆れてため息をつく。
「あれ、何?」
「知らんなら気にせんでいい。さっさと加勢に行くよ。」
私の後を追ってきた織子にそれだけ言うと、訓練場の方へと走る。
信じられないことに、3班はやや劣勢になっていた。
訓練場に居るのは真面目?なヤクザだ。それなりに場数を踏んでいるのだろう。3階から降りてきたのは、ドンとその護衛。こちらも結構強いんだろうな。
「ちょ、どうしよ!?怪我してる人いるじゃん!」
様子を見た織子はあからさまに動揺している。
「慌てない、慌てない。自分たちのやれることをやろう。」
織子をなだめると、私は一度仕舞ったナイフを再び構えた。その言葉に落ち着いたのか、織子も銃を構える。
「織子はまず逃げ道を塞いで。エレベーターを故障させちゃって。」
「分かった!」
私の指示に従って彼女は走った。
私は…できるだけ多くの敵を殺す、それだけ。
体勢を整えると戦いの渦の中へと飛び込んでいった。
作戦は、成功した。
しかし、今回はこちらに負傷者と…死者が出てしまった。
攻撃を受けた場所が良くなかった。出血が多すぎて助からなかったんだ。
トラックに戻ってきた隊員とついさっきまで生きていた者の亡骸を見て、カタンは絶句した。
皆、多くを語ろうとしなかった。敵が想像以上に手練れだったこと、建物の構造を完璧に把握できていなかったこと。敗因はいくらでも思いつく。でも、誰が誰を責めることができるだろうか。
トラックがシセツへと帰るために動き始めると、亡くなった隊員の体に白いシーツがかけられた。
「…いい奴だったのにな…」
誰かがボソリと呟く。
「ごめんなさい!」
途端にそれまで黙っていたカタンが声を上げる。
「私があの建物の出っ張りを気に留めなかったから…!物置か何かだとたかを括っていたから…!謝って許されるとは思っていないけれど、ごめんなさい!」
カタンは床に頭を擦り付ける勢いで謝罪を繰り返す。
初めての任務で、これはキツイだろうな…
「見取り図だけであれがエレベーターだと気付くのは難しいよ。君のせいじゃない。」
他の隊員がフォローした。
「でも…でも…」
カタンは涙を流している。この子は責任感が強すぎるかもしれない。
確かにここ最近隊員に死者が出ることは無かった。しかし、それは運が良かっただけだ。私はこの仕事を任されてから4年間で何度も仲間が死ぬのを見ている。ひどい時はほぼ壊滅状態になったこともある。
でも、すぐに隊員は補充される。私たちは使い捨ての兵器でしかないんだ。
「カタン、落ち込むな、と言うのは無理だろうが…今回お前がこの作戦を立てていたから被害は最小限に抑えられた。お前の指示なしではもっと被害が出ていたと思う。」
田島班長がカタンの頭に手を置いた。
「自分の失敗を嘆くより、亡くなったその子のために泣いてやってはくれないか。」
カタンは泣き顔のまま田島さんを見上げると、立ち上がってシーツによろよろと歩み寄った。それからシーツを軽くめくり、彼の手を両手で握って額に当てる。
「…ご冥福を…」
祈るように囁いて涙を流すカタンの横顔は、女神のように美しく見えた。
(4)
寮に戻っても、カタンの表情は重かった。それはそうだろう。自分の指示で動いた人が亡くなってしまったのだから。その事の重さに、自分の作戦で敵も全滅したという事実が薄れているのは少しだけ助かる。心配したのか、織子も部屋について来てくれた。
「カタン、食べれそう?」
夕飯は今から。カタンを気遣って問いかける。すると、カタンの表情がパッと明るくなった。
「食べれるよ。何で?」
あ。これ、心配させまいと頑張ってるやつだ。
「ボロネーゼ作るよ。おけ?」
「わー、美味しそう!」
カタンはメニューを聞いてニコニコしている。それを織子が怪訝な表情で見ている。お前、小学生にすら無理してるのバレてんぞ。まあ、こうでもしないと居ても立ってもいられないんだろう。
「ねー、純、ファンタある?」
場の雰囲気を繋げるようにソファに座った織子が足をパタパタさせながら聞いてくる。
「ファンタ?ないよ。コーラならあるから冷蔵庫から適当に取って。こっちは料理中。」
なんかブツクサ文句を言いながら織子は自分とカタンの分のコーラをグラスに注いで戻って行った。
「織子ちゃん、今日もゲームする?」
「スト6やろうよ。」
なんか二人でゲーム始めたし。自由だなおい。
しばらくすると、料理が出来上がった。
「二人とも、ご飯できたよ。ゲーム一旦中止。」
「はーい。」
揃って声を上げ、食卓の準備を始めた。
三人揃ったら夕食の時間だ。
「いただきます。」
早速、スパゲティをフォークに巻き付ける。
ところが、パスタを一口口に入れた途端、カタンが小さくえづく。彼女は口元を抑えると慌ててトイレに駆け込んだ。
…吐いてる…
私と織子は顔を見合わせた。
「やっぱり全然大丈夫じゃないじゃん。」
織子が呆れた様子で呟いた。
「様子見てくるわ。」
私はそう言って立ち上がると、ドアが開きっぱなしのトイレへ向かった。
カタンは口にした量の数倍嘔吐していた。私はそっと彼女の背中をさする。
「ごめん…せっかく作ってくれたの、吐いちゃった…」
吐き気のせいか、カタンの目から涙が溢れていた。
「気にしなくていいから。」
私はカタンの背をさすり続けた。
もう何も吐くものが無くなったのか、カタンはポツリポツリと言葉を漏らし始めた。
「私のせいで、死んだ。」
「あんたのせいだけじゃないよ。」
「それだけじゃない、あの暴力団の人たちだって全員死んだ。本当に全員悪人なの?悪人なら殺していいの?」
カタンの言葉に、何も返すことができなかった。彼女は仲間の死だけでなく、暗殺対象の死も抱え込んでいた。仲間の死によって彼女の作戦で大量に人が死んだことが薄れている、なんて私のとんだ思い違いだった。
「私のせいで…私は安全なところに居ながら、私の指示で人が次々死ぬ。こんな恐ろしいことだったなんて…」
そこまで言って、カタンは再び吐いた。もう胃液しか出てこない。
「…カタン、ごめんね。つらい役割を押し付けて…」
私はカタンを兵の一員にしたことを後悔した。この子はシセツの仕事を分かっていない。繊細で優しいのだ。やっぱりオフィスワークに転向させるべきだったのかもしれない。
「いいの、私が望んだことだから。これくらいでくじけちゃ、ダメ。」
カタンは溢れる涙をゴシゴシと拭った。
「次は失敗しない。私は大丈夫だから。」
トイレを流すとカタンが立ち上がる。私の方を振り返った表情は、頼りない笑顔だった。
「食事中にごめんね、戻ろう。」
「…うん。」
私は自分のこれまでの判断を振り返りながら、カタンと一緒に食卓へ戻った。
その後のカタンは『いつも通り』を健気に演じていた。食事が終われば後片付けをし、また織子とゲームをして遊ぶ。私はなんだかいたたまれなくて、ゲームに加わることができなかった。二人が盛り上がっていても、本気で笑えなかった。
そんな中、不意に私の電話が鳴る。
それは、兄の婚約者からの電話だった。
(5)
「二人ともごめん、ちょっと電話出てくる。」
私はゲーム中の二人にそう声をかけると、慌てて部屋をでた。自室に入って、着信を受ける。
「はい、純です。」
私は彼女にそう告げる。
『久しぶり、純ちゃん。今、大丈夫?』
懐かしい声だった。兄が亡くなる1年くらい前から交友がある。兄が「この人と結婚するよ」と言って、紹介してくれたのが初めだ。長い黒髪が美しい優しいお姉さんだった。
「ええ、今自宅です。どうしましたか?」
『純ちゃん、まだ晴海の遺体を探しているでしょ?…見つかった?』
「…すみません、まだ…」
彼女の問いに頭をうな垂れる。
『…あのね…それ、私のためならば…もう、やめてもいいよ?』
「えっ…」
『実は、なかなか言い出せなかったんだけど…今、付き合っている人が居るの。私ももう、前に進みたくて…』
「夏美さん、そうだったんですか…その方とお付き合いすることに私は何の文句もないです。ただ、兄の遺体探しだけは続けさせて貰えませんか?兄が亡くなった、確信が欲しいんです、私が。そうじゃないと、私も前に進めません。」
私の言葉に彼女はしばらく黙り込み、
『分かった。』
と答える。
『もし晴海の遺体を見つけたら、私にも連絡して。前に進みたいって気持ちは本当だけど、晴海のこと、気にしていない訳じゃないから。』
夏美さんの言葉にホッとした。死んだ、という事象だけが語られ、本当のところ生死さえ分かっていないのだ。彼女も心残りはあるに決まっている。
「必ず連絡します。必ずに。」
私はそう強く伝えると、通話を終えた。
そのままベッドに座り、細く息を吐きながら天井を仰ぐ。視線を下げると、ドアが少し開いていることに気がついた。隙間からカタンと織子の顔が上下に並んでいるのが見えた。私は顔をしかめる。
「ちょっとぉ〜、盗み聞きは悪趣味じゃない?」
呆れ顔でドアに近寄ると、二人は「ごめんなさい」と声を揃えた。
「純ちゃん、お兄さんの遺体…ないの?」
何故か隙間越しのまま、カタンが尋ねてくる。
……。あー、もう。私はガシガシと頭を掻いた。
「…聞かれちゃったし、二人にもきちんと話すから。リビング戻ろう。」
私たちはリビングに戻ると、ソファに腰をかけた。
私は深くため息をつくと、重い口を開く。
「…シセツからは、2年前に私の育ての兄の笹原晴海は任務中に死んだ、と聞かされてる。でもね、死体が無かったんだよ。爆破されたらしいんだけど、指の一本くらい残ってるのが一般的…」
真正面の近距離から喰らえば跡形もないかもしれないが、兄は関東地方支部のトップクラスの戦士だった。そんな間抜けな死に方はしないはずだ。
「とにかく死んだ、の一点張りでね。納骨もせずに葬式したんだよ。さすがに違和感があってさ。兄には当時婚約者が居てね、もう結婚直前のタイミングだった。結婚したら、足抜けする予定だったんだ。」
「えっ、このシセツって退職して一般人に戻ることができるの?」
私の言葉にカタンが驚く。
「規則上はそういうことになってる。実際のところ、うまく出て行けたって人の話は聞いたことないけどね。」
横から織子が口を挟んだ。
「そう、出て行った人のほとんどは事故死や行方不明。そういうことなの。」
私は織子の話に補足した。
「…兄は、初めて退所後も生きる人間になってみせる、って意気込んでた。きっと、革命を起こしたかったんだろうね。でも、結果はこの有様。悔しかったろうね…」
膝の上で握った拳に力が入る。
「私は思うんだ。1%くらいの確率で兄が生きてるかもしれないって。生きていないにしても、その証拠が見つからなきゃ納得できない。」
私は二人の顔を交互に見ながら、訴えかけた。
「だから…任務をこなしながら、兄の遺体を探しているの。2年前から、ずっと。」
「純ちゃん…」
カタンの表情が曇る。もう自分の苦しさより、私への同情が優ってしまったようだ。
「純、それさ、あたしもやるよ。あたしも探す。」
急に織子が身を乗り出す。すると、カタンも私に顔を寄せた。
「私も手伝う!一人で探すより、三人の方が絶対いい!」
二人の熱烈な眼差しに、思わず吹き出した。
「えー、笑うとこ?」
織子がふてくされている。笑うとこじゃないな、確かに。
「ごめん、ちょっと勢いが、さ。…本当にそうだね、二人が協力してくれるなら助かるよ。」
笑いを止められないまま、私は二人に弁解した。
これで、兄が見つかる可能性は三倍に増えた。私や夏美さんが兄の死の呪縛から解放される日が近くなったはずだ。私は改めて二人を見つめる。
本当に、
「ありがとう。」
11話目ができました。やっとカタンが始動ですね…長かったなあ。
次回は意外な人物が主軸で動くことになります。お楽しみに^^




