表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界の予言者は、あの世界の普通女子〜最強魔法使いに溺愛されて、手放してもらえません〜  作者: 白井夢子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/38

25.初めてのお客さま


「どうぞ入って? 狭い部屋だけど」


そう言いながら、麗奈は自分の部屋の扉を開ける。

大人しくついてきたキッカは、物珍しそうにきょろきょろと部屋を見回した。


「ぬいぐるみが多くて、子供っぽい部屋でしょう? なかなか捨てられなくて」


幼いころ、眠るのが怖かった麗奈のために、両親が買ってくれたものだ。

そのまま手放せず、部屋のあちこちに置かれている。


これまで家族以外をこの部屋に通したことはない。

だからだろうか――そんなふうにまじまじと見つめられると、少しだけ気恥ずかしい。


「キッカさんが、私の部屋の初めてのお客さんね。座るところ……は、この椅子しかないの」


キッカに勉強机の椅子をすすめようとして、ふと手を止める。

彼女は、さっきまでとても怖い思いをしていたのだ。


(椅子よりも……)


枕元にぬいぐるみを置いたベッドのほうが、きっと落ち着くだろう。


「こっちの方が落ちつくと思うわ。どうぞ」


そう言ってキッカをベッドに座らせた。

「これもどうぞ」と、棚に飾っていたうさぎのぬいぐるみも手渡す。

大人しく受け取ったキッカが、じっとぬいぐるみを見つめている。

麗奈も椅子に腰かけ、そんな彼女を見つめた。



自宅へ連れて帰ってきたキッカは、よほどお腹が空いていたのだろう。

カレーを頬張り、おかわりまでしてくれた。

デザートのアイスも、おいしそうに食べていた。


そのあと、お風呂を沸かして、ゆっくり入ってもらった。

服は麗奈のものを貸し、彼女の服は今、洗濯しているところだ。


あれだけ泣いて取り乱していたキッカは、すっかり落ち着いていた。

今なら、話ができるかもしれない。


「ねえ、キッカ。向こうの世界で何があったの? 空間の歪みに落とされたって言ってたよね?――誰に、どうしてそんなことをされたの?」


麗奈の問いかけに、キッカは顔を強張らせた。

それでも、話そうとして口を開く。


けれど、言葉が出ない。

ぱく、ぱく、と唇だけが動くが、声にならないまま、空気だけが漏れていく。

もどかしそうに眉を寄せ、手が宙を掴むように揺れた。


「キッカさん。もしかして……誓約、なの?」


苛立ちを滲ませながら、キッカが頷く。


「そう……」


麗奈は頷きながら、考える。

キッカに誓約がかけられているということは、やはりよくないことがあの世界で起きているに違いない。


魔法使いたちは、国の有事に危険な仕事を担うことが多い。

争いのなかで敵に捕まった際、自白を防ぐために魔法で誓約をかけられることがある――と、聞いたことがある。


「じゃあ……私が質問するから、合っていたら教えてくれる? 答えられるだけでいいから」


そう言うと、キッカは小さく頷いた。


「キッカさんは魔法使いなの?」


こくり、と首が縦に動く。


「そう。素敵ね。ミラは知ってる?」


間を置かずに頷く。


「キッカさんも、ハミルトンの部下なのかしら?」


わずかに間を置いて、ゆっくりと頷いた。


「ハミルトンは――みんなは無事?」


キッカの動きが止まる。

わずかに考える様子に、麗奈の胸を不安がよぎった。


(まさか、ハミルトンに何か――)


ハミルトンに何かあるほどの有事なら、他の者も無事では済まないはずだ。

祈るような思いで、キッカを見つめる。


やがて。

キッカは、はっきりと頷いた。


「ハミルトンも無事なのね?」


今度は迷いなく、もう一度。

その仕草を見て、ようやく麗奈は息を吐き出した。


何があったのか、詳しいことを聞きたい。

けれど――

聞きたいことが多すぎる。


また突発的に魔獣が出たの?

それとも、また戦争が始まった?

キッカさんを空間の歪みに落としたのは、誰?

どうやって、ここまで辿り着いたの?

どれだけ、あの場所にいたの?


その歪みは、もう閉じられたの?

それとも――まだ、どこかに繋がっている?


(……一方通行の道、だったの?)


思考が、まとまらない。


(キッカさんも――私も、もうあの世界に戻れないの?)


聞きたいことは、いくらでも浮かんでくる。

けれど、麗奈が混乱しては、きっとキッカも不安になる。

彼女は大変な思いをしたのだ。せめて安心しほしい。


「キッカさん、あの公園であなたと出会えて良かったわ」


そう言って、やわらかく微笑む。


――大丈夫。

落ち着いてから、ゆっくり聞けばいい。


夕方になれば、美希も帰ってくる。

夜になれば、父と母も帰ってくるだろう。

この世界の人に会うのは、きっと緊張するはずだ。

初めて会った麗奈と話すよりも、ずっと。


それに――

目の前で、キッカの瞳が不安げに揺れていた。


(今日はもう詮索しないで、ゆっくり休んでもらおう)


「キッカさん、大丈夫よ。ここで一緒に暮らしましょう?お客さんを呼んだことがないから、今日は布団が足りないけど……」


「いえ!」


食い気味に、キッカが首を振った。


「私はどこでも寝れますから。外で大丈夫です!」


ぶんぶんと、慌てたように首を振る。


「外……なんて……」


思わず、言葉が詰まった。

この世界に来てから、キッカはあの公園でひとり夜を過ごしていたのだろうか。

ぐっと胸が締めつけられる。


(あとでネットで布団を注文しよう。明日には必ず届くようにしないと)


「外なんて、絶対にだめ。今日だけ私と一緒のベッドで我慢してね」


「本当に、いいんですか……?」


「もちろんよ」


おずおずと尋ねるキッカに、麗奈は大きく頷いた。


「家族が帰って来たら、みんなに紹介するわね。美希も――あ、4つ下の妹なんだけど、美希もきっと『可愛い妹ができたみたい』って喜ぶわ」


少しだけ笑みを深める。


「この世界には、魔法ほど素敵なものはないけど……

キッカさんが気に入るものは、きっとたくさんあると思うの。色んなところに、一緒に行きましょう?」


あの世界で一人だった麗奈に、よくしてくれる人はたくさんいた。

この世界に一人いるキッカにも、できるだけのことをしてあげたい。


麗奈の言葉に、キッカが瞳を輝かせた。


「あの――ありがとう、ございます。……はい。よろしくお願いします」


頬を染めてお礼を言うキッカが可愛らしくて、思わず頬が緩んだ。






「そうなの?魔塔はたくさんの魔法使いが暮らしてるのね」


「そうなんです。どいつもこいつも、性格に難ある奴らばっかりですけどね。自分だって目つきが悪いくせに、私に『不満そうな目をするな』って怒ってくる人もいるし……自慢話ばっかりする奴もいるし……」


ぽつり、ぽつりと零れた愚痴は、次第に止まらなくなっていく。

さっきまでの遠慮が嘘みたいに、言葉が続いた。

誰かを思い出しているのか、キッカの口がむうっととがる。


キッカは、子猫のように、少し目尻の上がった可愛らしい目元をしている。

控えめに言っても――とても可愛い。


「そうなの? そんな意地悪なことを言う人もいるのね」


「そうなんです! すっごく意地悪なんです!」


キッカが、ぎゅうっとぬいぐるみを抱きしめる。

小柄で可愛らしい彼女は、揶揄われやすいのかもしれない。


「そんな人の言葉、気にすることないわ。キッカさんは、こんなに可愛いんだから」


そう言うと、キッカが照れたように笑った。


「あ、そろそろ乾燥が終わったかも。ちょっと見てくるわね」


そう言って、部屋を出た。

キッカは、ぬいぐるみをぎゅっと抱えたまま、ベッドの上に小さく座っている。





たたんだ服を抱えて、レイナは部屋に戻った。


扉を開けると、広い背中が見えた。

見慣れたその後ろ姿は――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ロン毛鬼畜キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ !!!!!…?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ