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この世界の予言者は、あの世界の普通女子〜最強魔法使いに溺愛されて、手放してもらえません〜  作者: 白井夢子


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12.魔法使いというものは


「行ってらっしゃい」


屋敷の玄関先で、レイナはハミルトンを見上げた。

見送りの言葉に合わせて、自然に離すつもりだった手は――まだ繋がれたままだ。

……言葉が足りないのだろうか。


「あの……その、気をつけてくださいね」


「気をつけて」など、最強の魔法使いにかけるような言葉ではなかったが、見送りの言葉を重ねた。

応えるように、きゅっと軽く力を込められた手に、胸が跳ねる。


「……すぐに戻ります」


そこに向けられた、嬉しそうな微笑みが眩しい。

思わず見惚れ、言葉を返せないまま、ハミルトンはその姿を消した。


(ちょっと!そんなふうに微笑まないでよ!朝から止めてよね!)


不本意ながらどきどきと跳ねる胸を押さえ、誰もいなくなった玄関先をしばらく眺めていた。




(もしかして、だけど……)


執務室へと続く廊下を、今度はミラと歩きながら、レイナは考えた。


(ハミルトンは……本当に私のことが好きなんじゃないかしら?)


これまでも思い浮かべては、何度も否定してきた考えだった。

けれどやはり、そうとしか考えられない。


今、ハミルトンが出かけたのも、ルース王子からの急な呼び出しだった。

朝食の最中の呼び出しなら、食事を終えてすぐ、その場から転移魔法で飛んでいくこともできたはずだ。


それなのに、わざわざレイナとこの長い廊下を歩き、玄関先まで行ってから姿を消した。

どう考えても、意味のない行為だ。

そこに意味を見つけるなら――

「出かける際には手を繋いで見送る」という、いつの間にか習慣になっていた、そのためとしか思えない。


(……そうなのかしら?)


わずかに、心が揺れる。


『ハミルトンは私のことが好きなのですか?』

そう聞いてみたい気がする。


もし、そこで返ってくる言葉が――


『予言の聖女ともあろうお方が、何を言っているのですか。状況を冷静に判断してください』


そんなふうに、以前のように口うるさい王子の補佐官の顔をして、冷たい声で返すなら。


『そうですよね、すみません。つい、ハミルトンの演技力の高さに誤解するところでした』


そう答えて、笑って誤魔化せばいいだけだ。

内心、(本当に完璧すぎて嫌味な男ね)とムカつきながら。


けれど、『そうです』と認められたら。

もし、その気持ちが本物だとしたら。

――その時、自分はどうしたらいいのだろう。


ルース王子にプロポーズされた5年前、レイナは元の世界に帰れない覚悟を受け入れた。

その上で、彼の気持ちに応えたつもりだった。

けれど、応えた結果が今だ。


結局、婚約式も行われないまま、レイナは元の世界に戻り、そしてルース王子も他の女性を選んだ。

もちろん婚約式が行われた後であれば、迫る危険から逃れることもできず、レイナはこの世界どころか、この世から消えていたはずだ。

……だから、結果的にはよかったのだろう。


ハミルトンは強い。

それでも、同じことが絶対に起こらないとは言い切れない。

だから、ハミルトンの気持ちが本物だったとしても、レイナに返せる言葉など、きっとない。


先のない未来を思い、レイナはそっと息を吐いた。




「ハミルトン様はお強いですから。心配しなくても大丈夫ですよ」


少し物思いに沈み過ぎたのかもしれない。

執務室に入り、書類をぼんやりと見つめていたレイナは、ミラの言葉に顔を上げた。


「ルース王子が何を企んでいたとしても、ハミルトン様であれば、それ相応の報復を上乗せしてきてくれますよ」


慰めるようにかけられたミラの言葉が、物騒だった。

けれどレイナは、自分の身の危険を心配しているわけでもなかった。

ハミルトンに手を出そうと考える者は、まずいないだろう。

それに、ルース王子も何かを企むような人ではない。

大切に育てられたからか、時に甘さを見せることはあるが、基本的に善良な人だとレイナは思っている。


それに、これまでレイナに危害を与えようとした者は、ハミルトンに制裁を下されていたらしい。

その凄惨な末路を誰よりもよく知る王家が、ハミルトンに手を出すはずがない。そこまで愚かではないはずだ。


「もちろん、ハミルトン様のいない隙を狙われても大丈夫ですよ。ハミルトン様には及びませんが、私もそれなりに強いですから。そんな卑怯者を無事に返すつもりはありませんし、きっちり自白させますから」


慰めの言葉がやはり物騒だったが、レイナは今の自分の危険を心配しているわけでもない。



「ありがとう。ミラがすごいことは知ってるわ。

この前、訓練中の姿を見かけたんだけど……あれ、ただ走ってたってエドガーさんに聞いて、びっくりしたのよ。すごく格好よかった」


「格好いい、だなんて……」


照れるミラを見つめながら、レイナは、シュンと消えた彼女の姿を思い出す。

『瞬間移動したのね。魔法が使えると便利でいいわね……』

窓の外を見ながら思わず呟いたレイナに、側にいた執事のエドガーが、それはミラの走り込みの訓練だと教えてくれたのだ。


「魔法使いは身体能力に優れてるって聞いてたけど……魔法も使えて、スポーツ万能だなんて、本当に素敵よね」


(私とは大違いね……)

運動が苦手な自分を思い出し、レイナはひとり、しみじみと頷いた。


書類から目を上げて、エドガーが穏やかに言った。


「レイナ様は、魔法使いを恐れないのですね」


「ああ、そういえば。この世界の人は魔法使いを怖がりますよね。きっと、すごすぎて近寄りがたく感じるんでしょうね。

私の世界には存在しないものですけど……魔法って、子供から大人まで誰もが憧れるものなんですよ」


エドガーの言葉に、これまで神殿や王宮で出会ってきた人々の、魔法使いを見る目を思い出す。

これまでレイナの周りにいた者たちは皆、魔法使いを大袈裟なほどに怖がっていた。

『魔物と変わらぬ者』として、その力を恐れていた。

ルース王子と共に神殿に顔を出すハミルトンを見て、人々が顔を引き攣らせていたのを思い出す。


レイナだって、ハミルトンに小言を言われるたび、顔を引き攣らせていた。

それでも――あの魔法だけは、羨ましいと思っていた。


「私も魔法が使えたらいいのにな……」


レイナは自分の手を見て、ふうとため息をつく。

この世界では「予言の聖女」として崇められているレイナだが、その能力はただ夢を見るだけで、他に何ができるわけでもない。

元の世界と同じく、予知夢を見る以外は、ただの普通女子でしかない。


手を見つめていると、ミラとエドガーの視線を感じた。

そんな特別な才能もない自分に、魔法を羨ましいと言われても、きっと二人は返す言葉に困るのだろう。


「だからミラが、何もないところからお菓子を取り出してくれたり、誰よりも早く走れたりするのが、すごく素敵だなって思ってるのよ。ミラは本当に、私の自慢の護衛なんだから」


ふふと笑って、ミラに笑顔を向けた。

ミラは一瞬、きょとんとしたあと、少し遅れて、ほんのりと頬を染めた。



「――私は、ミラより早く走れますよ」


音もなく、いつの間にかハミルトンが執務室に立っていた。


「帰ってたんですね、お帰りなさい。もう用事は終わったんですか?」


ルース王子の呼びだしは、早くも終わったらしい。


「ええ。大した用ではありませんでしたから」

「そうなんですね」


頷くレイナに、ハミルトンは何もない空間から、魔法でお菓子を出してくれた。

可愛いパステルカラーの、色とりどりの小さなチョコレートだ。


「甘いものはいかがですか?――それと実は私は、魔法使いの中では足の速さに関しては最も速いとされています」


「……可愛いお菓子をありがとうございます。……やっぱり、ハミルトンの魔法はとても素敵ですね」


お菓子のお礼を伝えても、何かを期待するような顔に、戸惑いながら言葉を足したが――まだ足りないらしい。


「……ハミルトンは、本当に私の自慢の婚約者ですよ」



レイナの言葉に、ハミルトンの顔が、ぱっと明るくなったのは――気のせいではないだろう。


(やっぱりハミルトンは……本当に、私のことが好きなんじゃないかしら?)


これまでも何度も否定してきたその考えを、レイナはまた思い浮かべた。


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― 新着の感想 ―
夢子先生、毎日更新ありがとうございます。早起き…すごいです。尊敬します。 それにしてもレイナたん! ハミルトンは前からずーーーっと前から好きに決まってるじゃん!(なぜか唐突な‘たん’呼びお許しくださ…
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