29話 何の魔道具?
―――――私が、一緒に行って戦っていれば……」
「ちょ、ちょっと戦うとか……ルイーズ、身体は大丈夫なの!?」
「もう平気。『癒しの光』ですっかり回復したわ。あの天使の男の子たちを呼んでくれたのもヴィーなんでしょ。おかげでカリンさんも一命を取り留めてくれて……何から何まで……。あなたに、ルーシーを見せたかった。……ああっ、やっぱり私も探しに行ってくる!」
ルイーズは、勢いよく立ち上がった。
恐らく―――今、ルーシーは、妖精族の魔力結界で守られた森にいる。
私が書いた小説内では、その森で養父 (テオドール)と養母 (リラ)、その息子たち (三兄弟)の末っ子として、逞しく育つ。―――という設定だ。
だからたぶん、ルーシーは無事。
そして15年後。15歳になったルーシーは、騎士見習試験を受けに王都へ来る。その途中、川で国王べリアスを助け、物語が始まる。―――
焦燥するルイーズを前に、私は迷った。
ルーシーは無事と、教えるべきか。それとも、見守るべきか。
「待って、ルイーズ!」
「心配しないでヴィ―、私強いから」
ルイーズは、泣きはらした顔でウィンクした。
「そうじゃなくて、まず落ち着いて。あ……ああ、そうだ。ルイーズ、どうやってノールから、フロライトのカース城へ来たの? 船とか?」
「泳いで」
「はい?」
「冗談。あの『オルゴール』よ。結婚式のとき、ヴィーから貰った」
「『オルゴール』……って?」
ん???
突拍子もない答えに、首を傾げた。
「イフリート殿が仰るには、『かなり高価な魔道具だろう』と聞いて驚い……って、ヴィー?」
―――そう、あの『オルゴール』は、80億JD! そのせいで横領を疑われ、ゲオルグと2か月監禁生活。処刑寸前で助けられたと思ったら、クーデターへ強制参加……
―――数か月前の騒動が、走馬灯のように駆け巡る。
「……ま、魔道具。何の魔道具?」
「ヴィ―もしかして、知らなかったの!?」
ルイーズは瞳を大きく見開き、めちゃくちゃ驚いた顔で聞き返した。
「(コクコク頷く)……どんな機能の?」
「瞬間移動。どこでも〇アみたいに」
「どこでも……え? マジ、どうやって!?」
「青い宝石をポチっと押したら。魔方陣がブワッて広がってカース城に」
(※小説内では、ルイーズは転生者。という設定。)
「ポチッとって!? ていうか『どこでも〇ア』って」
「あ」
ルイーズが、ハッとし目を泳がせたところで、部屋の外が急に騒がしくなった。
ドタドタドタ……ガチャ
「ルイーズ! 無事かーーーーっ!!!」
「イフリート殿!!!」
「イフリート殿下!?」
血相変えて部屋に駆けこんできたイフリートが、私からルイーズを遮るように立ちはだかった。
(※イフリート殿下。炎の悪魔。赤黒い肌。上裸に黒マントを羽織り、頭には、二本のねじれた長い角。『THE 魔王』って感じの容姿。『殿下』という敬称は、悪魔べリアスがアレキサンドライト国王になった際、悪魔族内での序列が上のイフリート(を含む悪魔族数名)の敬称が『殿下』と決まった。というか、私が決めた。)
「ヴィティ、貴様ルイーズを!!!」
イフリートが、今にも口から火を吹きそうな顔で私を睨んだ。なんかもう熱い。
イフリートは炎の悪魔。氷の魔女ヴィティの天敵だ。
ここで攻撃なんてされたら、今の私(=作者)じゃ逃げ絶対に切れない。
めっちゃ怖い。
「僭越ながらイフリート殿! 只今、私自らヴィティ様のお部屋を訪ね、お礼を申し上げていた次第であります」
ネグリジェ姿のルイーズが、サッと騎士の最敬礼ポーズ(左ひざを床に着き右ひざを立て頭を下げる)を取り、イフリート殿下に叫んだ。
凛々しいルイーズ。かっこ美しい。
「れ、礼だと? ……そうか……ル、ルイーズ。(顔を赤らめる)その……たっ、体調は?」
「はい。おかげさまで。お心遣いありがとうございます」
ルイーズの凛とした返事に、イフリート殿下はデレっと頬を緩ませた。
既にイフリート殿下は、人妻ルイーズにメロメロだ。
(※小説では、氷の魔女ヴィティに夫メルヴィルを殺害されたと思ったルイーズは、逃亡先のカース城で悲しみに暮れる。そんなルイーズにイフリート殿下は猛アタック。ルイーズは、ちょっと不器用なイフリート殿下の優しさに感銘を受ける。そして、ルーシーの出産を機にイフリート殿下と婚約。幸せな未来を約束したその直後、ルイーズは氷の魔女によって……)
「う……うむ。だが、出産からまだ数日。ルーシーちゃんの捜索は我らに任せ、部屋に戻り静養せよ。さあ……」
ルイーズは、先ほど私が感じた懸念(「攻撃されたら逃げられない」)を察した様子で、私を心配そうに見つめた。ルーシーのことも心配なのに、私を気遣うとか。なんて優しい子。
私はルイーズに、これ以上心労をかけないよう、精一杯微笑み返した。
「……はい」
ルイーズは歯切れの悪い返事をし、ゆっくりと立ち上がり部屋から去って行った。そして、その一挙手一投足を、熱っぽい視線で追いかけるイフリート殿下。
なんならルイーズを部屋まで送って行けばいいのに……と、言葉が出かかった直後。猛烈な熱気が私を襲った。部屋の温度は急上昇し、視界が熱でゆらりと歪んだ。
これはちょっと、マズイかもしれない。
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次回、来週水曜日頃更新予定です。




