28話 産まれてたの!
『クスッ……』
この声。
白かった視界が急に開け、青空に変わった。
続いて。心なしか温かい風が頬を撫で、太陽の光に包まれているような不思議な感覚に襲われた。光の眩しさに、普通なら目を閉じるところだけど……
「ん……んんっ……」
目を開けると、金髪の少年二人がキラッキラした瞳で、私の顔を覗き込んでいた。
一人は、中性的な感じのふわふわカールのショートヘアのなごみ系男子。もう一人は、ボブヘアを一つに結んだ、顔中傷だらけの目つきの悪い強面男子。
ん!?
「あ、気が付かれましたか?」(なごみ系)
「良かった~。じゃ俺、アスモデウス殿を呼んできます」(強面)
「サミュエル、あと、ルイーズ様にも」(なごみ系)
「はい!」(強面)
「サミュエル!?」(ヴィティ)
ってことは……この子は。
なごみ系男子を凝視した。
「あ、僕、エリック・キングと申します。悪魔族のべリアス様に『貴方からご指名を受けた』と聞きまして伺いました。そこで、貴方が海神を封印し御倒れになったと聞いて。僭越ながら『癒しの光』での治癒を行った次第です」
エリック君は、緊張した面持ちで早口で説明した。
「ミ……じゃない、エリック君。ありがとう」
「ぼ、僕のみならず、サミュエル・ヒューゴ・シンベリーの力があってこそです。彼が戻りましたら、直接労っていただけましたら大変喜びます!」
パタパタパタ……
「ヴィー!!!」
鮮烈に輝く真っ赤な長髪を振り乱し、白いネグリジェ姿の長身の美女が、部屋へ駆け込んできた。
「ルイーズ!」
「ごめんなさい。メルヴィルが……あなたに酷いことを」
ベッド前の床に倒れ込むようにして頭を下げた。
私は飛び起き、ルイーズへ駆け寄った。
「ルイーズ。頭をあげて。メルヴィルは無事?」
「氷の中で生きているようだと、ジュード様から説明を……ごめんなさい、あなたには助けられてばかりいるのに……」
「メルヴィルは、操られていたのよ」
「操られて……って、誰に?」
私を見上げたルイーズは、青ざめ憔悴しきった表情で聞き返した。
「恐らく、ノール帝国の皇帝アレクサンドル」
「ぁぁっ……やっぱり、そうなのね」
「やっぱりって?」
「私、1か月前までノール帝国の帝都バレーヌに軟禁されていたの」
「軟禁?(声が裏がえる)え……じゃ、どうやってカース城に!? 詳しく聞かせて」
ルイーズをベッドへ座らせ、冷やさないように肩と膝に毛布を被せた。
『癒しの光』の使い手の男子二人は事情を察し、神妙な顔で退室した。
「ヴィ―、9月の末にメルヴィルが熱病に罹って、療養のため『海の神殿』に行ってしまったの。その間に、皇帝アリスタルフ陛下が崩御なさって。その葬儀に参列した際。新たな皇帝アレクサンドル様に”メルヴィルが戻ってくる間、帝都バレーヌに留まるよう”促されて。しばらくそこで、メルヴィルをずっと待っていたの。1か月後に再会したメルヴィルはもう……おかしくなっていて。それに、いま、ルーシーも行方が分からなくて、私、もう、どうしていいのか分からなくて」
「ルーシー!? う、産まれてたの!」
「(泣)ぅああああっ。ヴィー。……ルーシーは、皆が避難するときカース城のカリンさんに預けたの。でもその避難場所へ行ったら、密かに上陸していたノール軍に襲われたって聞いて……みんな塵尻になって、あとから、大怪我をしたカリンさんが運ばれてきて……私が、一緒に行って戦っていれば……」
*** ***
12月某日。
フロライト王国滅亡と時を同じくして、カース城はノール帝国軍に包囲された。
その2日前。
未来の王国の勇者『ルーシー』は、誕生していた。
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