22話 行く行く!
私はまだ「夢の中」にいる。
***
星空の下。
氷の魔女による『冬の女神降臨イベント(仮)』を終えた私は、ひとり山を下っていた。
雪崩を起こしそうな場所がないか等、周囲の安全確認をしていると、巨木の下に立つアスモデウス殿下の後ろ姿が見えた。
―――さっきから姿が見えないと思っていたら、こんなところにいたのね。
そーっと近づくと、
「(高い声)よちよ~ち~」
「ふんぎゃーーー、ふんぎゃぁーーー、ふぎゃーーーーー」
「(高い声)おお~よちよち、……(素の太い声)こりゃ困ったな」
「ぎゃーーーー!!!」
「(焦)ああっ、♪な~かな~いで~、おねがい~だから~」
「うぎゃーーーーーーーー!!!」
アスモデウス殿下が、ガン泣きする赤ん坊を必死にあやしていた。
どういう組み合わせ?
「アスモデウス殿下?」
「うわっ、ヴィティいたのか」
「その赤ちゃん、どうしたんですか!?」
殿下の腕の中を覗き込むと、私と目が合った赤ちゃんが「ふぇ?」と泣き止んだ。
え!? かっ……
「かっわいい~」
「なんだ、俺の顔が怖かっただけか~」
赤ちゃんは赤い瞳を潤ませ「あ、ああう」と声を上げた。
黒い髪に、真っ白な肌。ウルウルつやつやの口元に、うっすらピンク色に染まるフワプルのほっぺ。はわわ~という効果音付きで、お姉さんの庇護欲が漏れ出そうになる。あれ、でもこの黒髪。
「この子、もしかして……」
ホムラちゃんかも。
(※ホムラちゃんとは、主人公ルーシーの親友。15年後、アスモデウス殿下の養女となる。)
「どうした?」
「え……な、なんでもない。そ、それで、この赤ちゃん、どうしたんですか?」
「飛んでたら声が聞こえて、来たらそこに……」
巨木のうろを指さした。
そこには、ピンク色の小ぎれいな鞄が一つ置かれていた。中を確かめると、赤ちゃん用品(女の子用)がぎっしり詰まっている。すぐに木の周囲を見渡したが、雪の上にはアスモデウス殿下と私の足跡しか見当たらない。
恐らくこの子は、雪が降る前からずっとここに置かれていた。
魔獣が徘徊する山に。これから寒くなると報じられていたのに。
まるで、わざとこの子を―――違う。あの鞄の中身からは、赤ちゃんのへの愛しか感じられなかった。きっと、やむを得ない事情があったに違いない。事情。―――ふと、思い当たる節があった。
これが物語の強制力だとしたら。
―――私が書いた小説内でホムラちゃんは、『戦争孤児となり、アスモデウス殿下に育てられる』という設定だ。ホムラのご両親については未設定のまま。そのせいで、物語から強制的に退場させられる事態になり、ホムラをここに置いておかざるを得ない状況になってしまった……ということではないのだろうか。その設定が、当事者のホムラにとって悲劇でしかないのは明らかなのに。―――
「ごめん……寒かったでしょう、私のせいで」
「ヴィティ、そう心配するな。この子はひとまず、うちの城に連れて帰る」
アスモデウス殿下が、赤ちゃんを見つめ優しく微笑んだ。
未来が分かっているとはいえ、殿下の父性溢れる温かい笑顔に、私は心からホッとしたのだった。
「ふふっ、よかったでちゅね~」
赤ちゃんに笑いかけると、赤ちゃんはパアッと瞳を輝かせ「った……ちゅねー、ねー」と声をあげた。
「もしかして、私の言葉、マネしてるの? わ、この子天才かも!」
親馬鹿というか原作馬鹿というのだろうか。赤ちゃんホムラにはしゃいでいると、アスモデウス殿下が小さい声でボソッと言った。
「な……なあ、ヴィティ。なんつーか、その、いまから俺の城に……バンディ城に、一緒に来ねぇか?」
「え、いいの! 行く行く!」
私の即答に少しぎょっとした様子のアスモデウス殿下は、「お、おう」と白い歯を見せニカっと笑った。
そんな折、麓の方向から声が聞こえた。
「あー、こんなところにー」
「探しましたよ、ヴィティ―様」
「お腹減ったでしょう……クスクス」
ゲオルグたちだった。
宿に戻ってこない私を心配し、ここまで歩いて探しに来てくれたようで、正直、驚いた。
「(大声)ゲオルグ! コンラード! エスペン! 私の雪のショーどうだったー?」
ゲオルグたちに手を振り、大声で尋ねた。
「素晴らしかったですよ」
「クス……甘美で儚い夢のようでした」
「なーんかやらかすんじゃないかって、ヒヤヒヤしたー(棒読みエスペン)」
相変わらずの【優しいコンラード、艶っぽいゲオルグ、塩エスペン】に頬が緩む。
「あ、そうだ! (大声)アスモデウス殿下が、『バンディ城に行ってもいい』って言ってるから、これから皆で行きましょう!!!」
「「「「え!?」」」」
(↑アスモデウス殿下、ゲオルグ、コンラード、エスペン)
***
いざバンディ城へ!
私はまだ「夢の中」にいる!
※バンディ城とは、王国北西の海沿いに位置する、アスモデウス殿下の居城。
次回、来週水曜日ごろ更新予定です。
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