21話 教会の塔から、煌めきが消えていく
(SIDE 勇者フィンレー)
教会の塔から、煌めきが消えていく神殿の丘を眺めていた。
唯々呆然と―――それは冬の女神により、『聖女エスタと俺(王国の勇者)の不適切な関係』が公にされてしまったことに起因する―――
「あの花冠女……よくも、やってくれたわね。はぁ―――っ」
諦め顔で溜息を吐いたエスタはがっくりとうなだれ、俺の胸に額を付けもたれ掛かった。
俺は王国の聖女エスタの名誉を汚してしまった。
本来ならば、王国の勇者である俺が命を懸けてでも守らなければならなかった聖女エスタの名誉を、高潔なイメージを、自らの手で―――それなのに、今。俺の胸にもたれ掛かる失意のエスタを抱きしめたい衝動に駆られている。だが、抱きしめてはいけない。これ以上、汚してはいけない。再びそのような過ちを起こそうものならこの腕を切り落とさなければ……と、暗くなった神殿の丘を見つめ、下げた両腕の拳に力を込めた。
「ふふっ……」
失意の底にいるはずのエスタが小さく笑った。いったい、何が可笑しいのだろうか?
視線を下ろすと、雪の煌めきを宿したように仄かに光る解かれた長い銀髪が、冷たい夜風にふわりと靡いた。切なすぎる美しさに、さらに罪悪感が募った。
「……すまない、俺が「いいの」
ぱっと俺を見上げ微笑むエスタの瞳は、溢れんばかりの輝きで満たされていた。
「よくない。俺はエスタを、王国の聖女の名誉を汚し……」
「ごめんなさい」
ささやくように小さな声で言ったエスタが瞼を閉じると、脆い飴細工のような銀色のまつ毛の先から、ぽろぽろと光の粒が零れ落ちた。
「……エスタ」
涙に慌てハンカチを取り出そうとした俺に、エスタが抱きついた。
背中に回されるエスタの腕の力や、柔らかな感触。全身の血が沸き立つように熱くなるのを感じた。そんな俺にエスタは、震える声で―――
「フィンレー、ごめんなさい。今まであなたに酷いことばかり言って、ごめんなさい。悪いのは私なのに、フィンレーは、いつだって私を守ってくれたのに、なのに私は……ごめんなさい。ごめんなさい。フィンレー、だから、もう一回、抱きしめて!」
「だめだ、気持ちが止まらなくなる」
「いいの」
「良くない」
「いいの!」
「エス……っ
エスタは腕を伸ばし、俺の顔を引き寄せ強引に―――――
*** *** ***
―――彼は、いったい何者だったのだろうか?
『サトゥ マコト』
彼は、精神的に追い詰められ死をも願い始めた俺の中に、突如現れた。
そして、根気強く俺を励まし、勇気をくれた。
恩人……とでも言いたいところだが、気になるというべきか気に障る点がいくつかあった。その中でも、これは少々聞き捨てならないと思った案件がある。
彼は言っていた。
―――私はいま、娘が密かに創作していたファンタジー小説の登場人物「勇者フィンレー」の中にいる。
「勇者フィンレー」とは、物語の序盤、主人公ルーシー(15歳・未来の勇者)の圧倒的力量を知らしめるために倒される、先代勇者。つまり、かませ犬である。―――
「圧倒的力量を知らしめるために倒される」!?
「かませ犬」だと!?
仕方のないこととはいえ、酷い言い様に笑いが込み上げた。
最弱と呼ばれてはいるが、一応王国の『勇者』である俺が、田舎から出てきたばかりの15歳の少女に倒されるとは……
彼曰く、「物語」が始まるのは約15年後。
ならば俺は15年後、最強の「かませ犬」として、その主人公と対峙し、華々しく最後を迎えようではないか!
待っていろ!
未来の勇者ルーシー!
次回、明日更新予定です。
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