私はいま娘が密かに創作していたファンタジー小説の中にいる 3
私はいま、娘が密かに創作していたファンタジー小説の登場人物「勇者フィンレー」の中にいる。
私はこの数か月の間。「氷の魔女ヴィティ」がフロライト王国を侵略するため、ここアクアラグーンの「北の神殿」を占拠しにやって来るのを、ずーっと待っていた。
『氷の魔女』いまだ現れず。
*** ***
この世界に来てから、数か月後のある日―――
「悪魔・妖精族排除命令だと!?」
突然出された王命に、私の仕事先の一つ”騎士団宿泊所の建設現場”では混乱が生じていた。
すでに熱病の影響で作業員も半減しているというのに、今度は悪魔・妖精族の排除命令。馬鹿げている。王都では、種族を理由に職場や学校から解雇、または排除させられる者まででてきており、そこかしこで不穏な争いが起こり始めていた。
王国内がそのような情勢でもアクアラグーンは、どうにか平穏を保っていた。
アクアラグーンは、『王国の聖地』と称されているが、もともとは妖精族や悪魔族が古くから暮らしていた土地。騎士団員にも悪魔や妖精族出身も多い。そして何より、ここアクアラグーンは妖精女王が住まう樹海が隣接している。何か事が起こり、妖精族と王国軍の間で紛争が怒ったらどうしよう。その混乱を狙って『氷の魔女』が攻めてきたらどうしよう。考えただけで恐ろしい。
とにかく王国の勇者である私は、事が大きくなる前に争いを止め、『氷も魔女』による北の丘の占拠等々を阻止しなければならない。
「フィンレー君、私にできるだろうか……」
私の中にいるフィンレー君に尋ねるも、彼は全く返答してはくれなかった。
***
その数日後。夕刻。
エスタ・フロライトが神殿で祈りを捧げている間、少し遅れてやって来る巫女見習いたちを、丘のふもとまで迎えに行こうとしていた時だった。神殿の方向に青い移動用魔方陣の光が見えたので、”緊急事態”と急ぎ駆けつけると。
二本のねじれた角を生やした大柄の悪魔と、黄色いポンポン花の花冠を頭に乗せた、白くふわっとした感じの美しい女性が神殿の前でエスタ・フロライトと話をしていた。エスタ・フロライトのご親戚だろうか? どこか冷ややかな雰囲気がエスタ・フロライトに似ていた。
大柄の悪魔の太い声が耳に届いた。
「聖女エスタ、フロライト城は陥落した。いますぐこの場所を明け渡せ」
え!? 陥落? いつの間に?
王都でいったい、何があった?
私の混乱をよそに、エスタ・フロライトがなんの躊躇もなく、すっと弓を構えた。
マズイ!
「聖なる光に焼かれるがよい!」
うおおおおおおぃ、いきなり攻撃って!?
エスタ・フロライトぉぉぉ!!!
飛び出そうとした私の耳に、
「ヴィティ、ぼさっとすんな」
大柄の悪魔が、ふわっとした感じの女性の肩を抱きよせ、自身のマントで覆い隠した。
ヴィティって……
『氷の魔女ヴィティ!?』
頭の中が真っ白になった。
もうダメだ……
力が抜け、その場に立ち尽くした。
もう終わりだ。死を覚悟した。
もう死んでるけど……
直後! 妖精女王からの通達を持って現れたローザ様によって、その場は一旦収まった。幸いなことに、その『氷の魔女』は機嫌もよく終始朗らかで、我々と応戦する気は全く無い様子。
ここは、一命を取り留めたかに思えた。
が、しかし!!!
「いやよ! 《《誰が協力なんてするもんですか》》!?
(なんてこと言うんだ――――っ、エスタ・フロライトぉぉぉ―――――!!! 父・心の声)
……うるさい! 冬になんかさせない! これは神による最後の審判よ。アポカリプスよ。悪魔も妖精も天使も……私を馬鹿にした者たちなんて皆苦しんで死ねばいい! ……そう、終わらせるの。この世界も、私も、全部、この地上から消えて無くなればいいのよ!!!」
更に逆上したエスタ・フロライトは再び弓を手にし、氷の魔女に矢先を向けた。
「まずはその『魔女』から始末してあげる」
(うわああああああああ)
私はエスタ・フロライトを止めようと、無我夢中で神殿へ駆け込み弓矢の軌道をずらし、エスタ・フロライトの細い腕を押さえた。
あとは、その口を塞いで……
―――『氷の魔女』は、ルーシーの母親ルイーズが言った暴言に怒りノール帝国とフロライト王国を侵略した―――――とにかく、悪態をつくエスタ・フロライトの口を塞がないと―――――口を、
口を、
悪態を吐き、泣きわめくエスタ・フロライトを見つめた瞬間、
ゴッ!
突如、横っ面を殴られたような感覚の後、私は薄暗い場所に叩き落された。
壁には、エスタ・フロライトと勇者フィンレー君の濃厚なキスシーンが、プロジェクターのようなもので鮮明に映し出されていた。
「口を塞ぐって、そういう意味じゃなかったんだけどな。はぁーっ(安堵のため息)まあいいか、フィンレー君……そうだよね。君はずっと……」
本物のフィンレー君が戻ってきてくれた事に安心したのか、急に眠気が襲ってきた。
「良かった……」
そのまま私は目を閉じた。
少し頬が痛い。
*** *** ***
―――――「ん」
目覚めたらそこは、病室だった。
「父さん?」
私の顔を覗き込む次男と目が合った。
「あ……え?」
「大丈夫?」
「大丈夫だと……思う。って今、何月何日?」
「X月XX日……看護師さん呼んでくる。あと、母さんもうすぐ着くってさ」
病室を出て行く次男。
「か、かっ母さん!? どどどどど、どうしよう!?」
慌てふためきあたりを見渡すと、隣のベッドに娘がいた。
「ア……」
幸い娘は顔色も良く、気持ちよさそうに眠っており、寝息の合間に、むにゃむにゃと何かしゃべっている。そういえば……幼い頃の娘は、ほかの兄弟と比べて寝言が多かった。
「まったく、子どもの頃と変わらないな……」
ホッとして笑ったその時、
「△$♪×¥●……わちゃし、最強の氷の魔女にぇすから…………ふふっ」
え―――――――っ!?
***
まさか!?
お父さん編・ひとまず終了!
次回、本編にもどりんこします!
来週水曜日更新予定。




