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私はいま娘が密かに創作していたファンタジー小説の中にいる 2

 私はいま、娘が密かに創作していたファンタジー小説の登場人物「勇者フィンレー」の中にいる。


 「勇者フィンレー」とは―――物語の序盤、主人公ルーシー(15歳・未来の勇者)の圧倒的力量を知らしめるために倒される、先代勇者。


 つまり、かませ犬である。


 それはさておき、私(佐藤 誠(仮名) 56歳)がここにいるということは、現実世界では、「わたしはもう死んでいる」―――ということなのだろうか?


 息子たちについてはあまり心配ないが、目覚めないという()が心配だ。

 意識を失う寸前、救急車を呼んだと聞いたが……無事だろうか? 


 *** ***


「今日の王国新聞の日付は『王歴1066年7月……』」


 娘が書いた小説の始まりが王歴1082年3月末からだから、今はその物語が始まる15~6年前。確か……『氷の魔女ヴィティによる侵略戦争』が起こる頃だ。


 私は、王都に戻る予定だったエスタ・フロライトを説得し、氷の魔女の侵略を阻止するためアクアラグーンに留まった。


 物語では『ノール帝国南部を侵略した氷の魔女は、次に、単独でフロライト王国に上陸。「アクアラグーン神殿の丘」を密かに占拠。王国内部の混乱に乗じ、侵略を開始する。』


 ここ、アクアラグーンさえ奪われなければ、悲劇は回避できる(のかもしれない)。


 だが、待てど暮らせど氷の魔女による侵略戦争は起こらず、そのうちに謎の熱病がノールとフロライトで発生。蔓延。加えてこの異常気象―――私がこの世界に来てしまったせいで、何かが変わってしまったのだろうか?


 その間、勇者フィンレー君は、聖女エスタ・フロライトにけちょんけちょんに貶される日々が続いていた。


 一瞬、別れた妻を思い出したが、どちらかと言えば、聖女エスタ・フロライトは、娘と年齢が近い。


 そういえば、娘が中学~高校生ぐらいの頃。私の服装やら生活習慣、やること成すこと、やたらきつくダメ出しされた時期があった。丁度、妻と離婚したばかりの頃だった。離婚について娘は「べつに平気」と口では言っていた。だが、慣れない家事分担に高校受験……体力的にも精神的にも、相当大変だったに違いない。



 今現在のエスタ・フロライトは、「最強勇者」になるはずだったテオドール君を失い、いまだにその痛手から吹っ切れていない様子。


 少々ナーバスな上司ができたと割り切り、どうにかこうにか接してはいるが、この精神攻撃があと15~6年も続くのかと考えただけで気が滅入る。


 15~6年後。娘の小説内で勇者フィンレーは『白髪白髭の初老の男性』となっていた。

 44歳でそうなるか? と内心笑ったが……今なら理解できる。

 こうじわじわと身体の中から生命を削られていく、()()()()


 これは、()()()()()()


 そして、たまに本物のフィンレー君の意識を感じ、それと同時に彼の記憶の一部を垣間見ることができた。が……切なすぎて、「戻って来てくれ」とは言えない状況だ。


 そのフィンレー君は、巷では『最弱勇者』と呼ばれているらしい。


 確かに、勇者候補だったテオドール君と比べたら劣るところもあるのかもしれないが、私から見たらフィンレー君は容姿の美しさもさることながら、明るく勤勉かつ超人級の身体能力を有している。何をしても絵になるし、全く疲れない。


 フィンレー君の主な仕事は、朝昼晩の一日三回『北の神殿』へ通うエスタ・フロライトの護衛業務。

 流石に、聖女エスタ・フロライトの足を拭くのは憚れるので、神殿の巫女見習いに同行を頼み、聖女の身の回りのお世話は彼女たちに任せた。


 これが意外な結果をもたらした。


 二人の間に第三者(巫女見習い)を入れたことにより、エスタ・フロライトからの精神攻撃が格段に減った。


 しかも、業務の時短にも成功。


 以前は、お祈り1回が約1時間(移動時間含む)+説教30分以上だったのが。説教時間が無くなったため、お祈り1回1時間(移動時間含む)に!


 そして、スキマ時間に別の仕事をはじめてみた。


 無償で王国騎士団宿泊所建設の手伝いや、宿場町の警備、魔獣討伐などをさせていただいた。やはり労働は楽しい。


 「ありがとうございます」「勇者様も大変なんですね」「頑張ってください」と声をかけられることも増え、傷ついた心が次第に癒されていくのを感じた。


 ***


 「弱いことが、そんなに恥ずかしいことなのか?」


 ある時。

 二人きりになった途端、エスタ・フロライトが、またフィンレー君を「最弱勇者のくせに……」と執拗に貶し始めたので、言い返したことがあった。


()()()()()()()()()()()()()を傷つけられたのよ!」


「人のことはさんざん傷つけておいて、自分は傷つくのが嫌とか言うのか?」

 

 バン!

 エスタ・フロライトは、言い返した私を睨みつけ、無言で机をバンバン叩き続けた。

 ……バン!バン!バン!バン!バン!バン!


 言いたいことは言えた。

 が、怖かった。

 

 フィンレー君。

 君は、これを10年耐えたんだよね。すごく偉いよ。


 君は本物の勇者だ!


 ***


 つづく 

お付き合いただきありがとうございます!

次回、明日更新予定です!

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