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私はいま娘が密かに創作していた、ファンタジー小説の中にいる 1


 私はいま、娘が密かに創作していたファンタジー小説の中にいる。


 ***

 

 遡ること5か月前。

 検査入院を終え自宅へ戻ろうとしていたその矢先。隣県で一人暮らしをしている次男から連絡が入った。


「実家に漫画を置きに帰ったら、姉ちゃんが目を覚まさないんだ……いま救急車呼んでて……」

「ええっ……今、どんな様子なんだ!? 息はしてるのか!?  っ……うっ……うぁっ……」


 話をしている途中、なぜか私の意識が朦朧としはじめ、急激に目の前が暗くなっていった。


「え……父さん!? 父さん!?」


 ***


 気が付けば、見も知らぬ場所に立っていた。 

 

 森の中。パルテノン神殿のようなドーリア式の柱に囲まれた長方形の泉(湯気が出ているので温泉だろうか……)で、ジュディ・〇ングのような衣装を身に纏った美しい女性が、両腕を広げ空を見上げていた。


「なに、ここどこ?」


 とっさに出た私のつぶやきに、その美しい女性の顔が豹変した。


「あ”ぁ”!?」 


 全力で嫌悪感を露にしているかのようなその表情。


 別れた妻を思い出した。

 

 ***


 その女性は、フロライト王国の第一王女「エスタ・フロライト」と名乗った。

 そして私のことを「フィンレー」と呼び、眉間に皺を寄せた。

 

 フロライト王国、エスタ・フロライト……フィンレー


 フロライト王国!? まさか!?


 思い当たるものが一つだけあった。

 いや、これしかない。


 ここは娘が密かに書いていた、ファンタジー小説の世界かもしれない!?


 昨夜、手持無沙汰にかこつけて、恥ずかしながら娘が書いた小説を最後まで読み耽っていたのが原因だろうか。


 ここであえて断っておくが、私がこそこそ娘の行動を監視していたわけではない。


 娘が小説を書いていると知ったのは、以前使っていたPCが家族共用だったからだ。


 基本娘は、父である私に趣味の話や活動を自から公言しないタイプだ。

 食卓を囲んだ際などに、娘は兄弟たちとSNSや〇ミケ、作品作りについて話をしていたので、決して隠しているわけではない様子。とはいえ、聞いたら聞いたで「過干渉!」と嫌悪されそうな気もする。それゆえ、言い出せぬまま数年経過。現在に至る。

 

 ***


 それにしてもなぜ、ここに……


 確か、小説の中で『エスタ・フロライト』は元聖女という肩書で、40代の美魔女。

 目の前にいるエスタ・フロライトは、どう見ても20代ぐらいの若さなのだか……



「はぁーっ、このポンコツ。とうとうそっちまでおかしくなっちゃったのかしら。今日はもうやめにするわ。帰るわよ」


 エスタ・フロライトが、ジャブジャブと泉から上がり、私のところまでやってきて立ち止まった。


「……」

「ん」

「何してるの、さっさと拭いて!」

「え……」


 ピンク色染まった濡れた足先を、私のズボンにこすりつけた。

 下を見れば石段の上に、白いタオルとサンダルが置いてあった。

 タオルを手にしようと屈んだところ、自分の肩からさらりと何かが流れ落ちた。

 金髪。しかも長い。それに、手……手が、指が長い。腕も逞しい。

 足も長い、ひざ下長ーい! 


 自身の身に起こった奇跡に感動していると、


「さっさと……拭きなさいよ」


 エスタ・フロライトが恐ろしい形相で私を見上げていた。

 

「……はい」


 

 小さく柔らかい聖女エスタ・フロライトの足をタオルで包み、水気を拭きとりながら思った。


 逆にいいのだろうか? 


 とてつもない背徳感に苛まれた。

 

 ***

  

 つづく

 


 ______________________

 次回、来週水曜日更新予定

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