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17話 とりあえず、やってみる


 私はまだ「夢の中」にいる。


 *** 

 

 私とアスモデウス殿下は、結界が解かれた『北の神殿』内へ立ち入った。


 夕暮れの森に響く物悲しい蜩の声に、これから彼らに与えるであろう残酷な仕打ちに、胸が痛んだ。


 神殿の青白く発光する泉にそっと手を入れた。


「熱っ……」

 

 先ほどまで、聖女エスタ様はここで祈りを捧げていた。


 恐らく彼女はこの王国の未来を憂い、この暑さの中、熱い泉に入り、少しでも奇跡が起こるように、皆が助かるようにと、懸命に祈っていたに違いない。

 どうすることもできないと、分かっていても。


 ……それにしても『若いフィンレー』、めっちゃイケメンだったなぁ。


「ふふっ、いきなりキスって……マジびっくり」


 思わず口から吐いて出ると、アスモデウス殿下が不思議そうに私を見つめていた。


「え、なに?」

「いや……つーか、本当に何も覚えてねぇんだな」

「ん?」


 アスモデウス殿下が意味深な目でこちらを見ているが、今はそれどころではない。

 ティターニア様が、『冬の女神降臨』と盛りに盛った魔レターを、嫌がらせのごとく()()()()に配布してくれたおかげで、かさ増しされたプレッシャーに押しつぶされそうだ。


 『魔力を感じて……イメージして……それを吐き出す』

 エスペンと軍艦の上でやった練習を思い出し、目を閉じ泉に手をかざした。


 手をかざしただけでも熱い。

 もしかして、これが魔力? 魔力ってこんなに熱いの? 

 じゃあ、今まで魔鉱石などから感じていた魔力って、本当に微量だったってこと?

 

 膨大な魔力を放出する聖地アクアラグーン。

 私が書いた小説内で、氷の魔女ヴィティは、ここを拠点にし王国全土を侵略した。

 


「んで、できそうか?」


 アスモデウス殿下が目を細め、にかっと笑った。


「まあ、なるようにしかならないと思うけど。とりあえず、やってみる」



 雪、粉雪、吹雪、霧雪、……いや、もっと『寒さ』自体をイメージしないと。


 寒さ―――

 乾燥した空気。肌を刺す冷たい風。雪に覆われた真っ白な世界―――を頭に思い描く。


 グ~キュルキュル~

 ここであろうことか、お腹が鳴った。

「あ、ふふっ」

 こんな状況なのにお腹が空くんだと呆れた。


 ホテル・ホーリーウッドで何か食べてくればよかったなあ。あそこのカツサンド、美味しくてボリューミーな設定にしてたし、シカ肉の自家製ベーコンも……


 いやいや、集中!集中!集中!


 そうこうしているうちに、冷たい風を頬に感じた。

 パキッ……パキパキッ……

 周囲には氷が形成される音が聞こえ、


「それっ!」


 星がチカチカ光り出した夜空へ、溜めた冷気を一気に放った。


 パキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキ


 冷気によって空中に生まれた氷晶から結晶が形成され、雪が降り始めた。


 よし、いい感じ!

 更にイメージを展開する―――


 天まで伸びる尖塔に、コリント式の柱で支えられた三重の塔。花で装飾された壁面に、飛び交う天使の彫刻。生クリームみたいに滑らかな雪でデコレーションした土台部分には、森の動物たちが遊びまわり、粉砂糖みたいな雪をまぶして、メルヘンって感じで――――


「いけ―――っ!!!」


 キパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキパキ


 雪は生き物のごとく足元からモコモコとせりあがり、真っ白でふわっふわな雪の城を形成していった。


 ビュオオオオ―――パキパキパキパキパキパキパキパキ、ゴオオオオ――――


 冷気を纏い渦を巻く風と雪と氷の粒。

 

 魔力が全身を廻り、自分の体が冷気と一体になったようですごく気持ちがいい。

 ああ、いまなら空を飛べるかも。

 吹き出る魔力は尽きることなく、高く、もっと高く……高く、雪の城は天へと伸びていった。


 ビュオオオオ―――ゴオオオオ――――パキパキパキパキパキパキパキパキ、ゴオオオオ――――……


 渦巻く風と雪と氷の粒。

 

 「もっと、もっと高く!」


 ビュオオオオ―――ゴオオオオ――――パキパキパキパキパキパキパキパ


 風を纏った雪は渦を巻き、粉雪の私を天上へと誘った。



 ***



 私はまだ「夢の中」に……




 次回、明日更新予定です!

 応援ありがとうございます!

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