15話 女神ですって!?
雪かきでへとへとです
私はまだ「夢の中」にいる。
***
アスモデウス殿下おすすめの宿、『ホテル・ホーリーウッド』にゲオルグたちを置いた後。私とアスモデウス殿下は、移動用魔方陣で『北の神殿』へ向かった。
(※ちなみに小説内で『ホテル・ホーリーウッド』は、主人公ルーシーが騎士見習合宿で滞在した女性用の宿。)
キュイィィィィ―――――ン
白いドーリア式の柱で囲まれた『北の神殿※』の真ん前に到着すると。
(※主人公ルーシーが修業した場所。)
ジーワ!ジーワ!ジーワ!ジーワ!ジーワ!ジーワ!!!
そこは、けたたましいセミの鳴き声に包まれていた。
小説の中で、ここは『聖地』。
もうちょっと厳かな雰囲気だったはず。
「うっ……こりゃ困ったな」
セミのこと? と、隣にいるアスモデウス殿下を見上げると、殿下は険しい表情で神殿の『泉』の方向を睨みつけていた。
「聖女、エスタ……こんなところに」
エスタ様!?
(※エスタ様とは、エスタ・フロライト。主人公勇者ルーシーの魔力操作を指導する元聖女。現在29歳。)
仄かに白く発光する『泉』の中央には、白いドレスを纏い、白い髪を一つにまとめた細身の美しい女性が祈りを捧げていた。
あれ……
私はここでひとつ重要なことに気が付いた。
エスタ様って、私とキャラ丸被りじゃない?
髪、肌、服、全部真っ白!!!
「聖女エスタ、フロライト城は陥落した。いますぐこの場所を明け渡せ」
アスモデウス殿下の声に、エスタ様は顔を上げ低い声で、「戯言を……」とつぶやき、金色に輝く瞳で私たちをキッと睨みつけた。
エスタ様の瞳、金色!
よし、私と被ってない。(←ヴィティ様は、赤味がかった紫色の瞳)
それにエスタ様、どちらかというと丸顔。
これも被ってない。(←ヴィティ様は、シュッとした逆三角形)
そうこうしてるうちに泉から上がったエスタ様は、神殿の柱に立てかけていた弓矢を手にし、こちらに向けてサッと構えると。徐々にその矢先が、金色に輝き始めた。
ん、これは非常にまずいのでは!?
「聖なる光に焼かれるがよい!」
クリアボイス!!! (←ヴィティは、細くかすれた声)
そのビジュで、透き通ったかわいい声。ずるい!
「ヴィティ、ぼさっとすんな」
「うわっ」
アスモデウス殿下が、私をマントの中に引き入れ覆い隠した。
(※この世界で悪魔族は、『聖なる光の矢』を食らったら、数十年動けなくなる(設定)。下手したら消滅もありうる。)
あれ、マントに穴空いてる。
え、よく見たらこのマント……いや、よく見なくてもこのマント、ボロッボロじゃん!
その穴から、徐々に輝きを増していく光の矢が見えた。
このボロマントで防げるの、大丈夫なの、もうこれ危機的状況では!?
その時。
「やめ―――! やめやめっ! ……ハアハア……エスタ! ゼエ……ハア……その者たちは敵じゃないわ! それに今すぐ避難しないと! ハア……ハア」
エスタ様に似た感じの4~50代ぐらいの白いローブを着た女性が、息を切らしヨロヨロと神殿に駆け込んできた。
「避難? ローザ叔母様、どういうこと?」
ローザさん!?
(※ローザ・フロライト。エスタの叔母。予言の聖女と呼ばれている。)
「ハアハア……『北の神殿に冬の女神降臨。直ちに寒さに備えよ』と、ティターニア様から」
「冬の女神ですって!?」
すごい剣幕で怒鳴ったエスタ様は弓矢を放り投げ、ローザさんから手紙を受け取り読みはじめた。
いま『冬の女神降臨』って聞こえたけど、氷の魔女以外にそんな冬キャラ居た?
「(小声)あの、『冬の女神』って、いったい誰のことなんですか?」
アスモデウス殿下に尋ねると、殿下は「え?」と驚き、私も「え?」ってなって、それから殿下は言いづらそうに、
「(小声)ちと、盛ってはいるが。お前のことじゃねぇのか?」
「(小声)わ……私!?」(ºнº;)!?
そこ盛る!?
ティターニアさん。アスモデウス殿下から、私のポンコツ事情うんぬん聞いてたよね。もしかしてこれ、嫌がらせ!? え、なに怖い!!!
グシャ
エスタ様は手紙を握りつぶし、それを泉に投げ捨てた。
「私じゃダメってこと!? ティターニアまで……どこまで私を馬鹿にするのよ!!! そのアホっぽい花冠女に何ができるというの!!!」
めっちゃ怒ってるし! ディスられた!!!
―――確か小説内で、この時代のエスタ様は―――
『悪役聖女』
彼女が19歳の時。婚約(のような約束を)していた、テオドール(主人公ルーシーの養父)が妖精族の美女リラ(ルーシーの養母)に恋をし、嫉妬に狂う。リラとそのお腹の子の殺害を企てるも失敗。その後二人は、姿をくらます。
エスタ様は、最強勇者になるはずだったテオドールを失い。聖女としての信頼も無くし。後継の勇者は『最弱勇者』と呼ばれ、勇者制度を支援していた天使界からも見限られる。
それから10年後(エスタ様29歳)。王国内では内乱が勃発。氷の魔女の侵攻。フロライト王死去。王城陥落……この時代のエスタ様は、絶望に苛まれ、それでも『王国の聖女』として生きようと必死にもがいていた時代だった。―――
そして現在。
氷の魔女による侵攻はなくなったものの、深刻な暑さと熱病の蔓延。
エスタ様は、ここ(北の神殿)で王国の聖女としての責務を果たすため『熱病の収束を祈っていた』のだとしたら……そして、ティターニア様はそれを知ったうえで、私をここへ寄こしたとしたら……
うわ、やられた。
そういえば、ティターニア様は長きにわたりフロライト王家と揉めていた、という設定を思い出した。
ティターニア様が配布した手紙は、エスタ様を『役立たずな聖女』と暗に宣告しているようなもの。プライドの高いエスタ様ならすぐに気が付き、激高するに決まってる。そして、その矛先が私に向かうことも……
悔しい。まんまと嵌められた。
そして、緊迫した状況に息を飲む。
気が付けばセミの声は止み、森は静寂に包まれていた。
「落ち着け、聖女エスタ。話を聞いてくれ」
アスモデウス殿下が、穏やかな声でエスタ様に説明を始めた。
「そう熱くなるな……まずここの結界を解け。これからこいつ……ヴィティが、この王国の気温を一時的に下げる。ティターニアにも了承をとった。気温が下がれば熱病を広げる虫も死ぬ。暑さで弱り切った者たちも徐々に回復する。無駄な争いも収束するだろう。頼む。協力してくれ」
「はぁ」
エスタ様は、表情を歪ませ不敵な笑みを浮かべた。
「いやよ! 誰が協力なんてするもんですか!? 」
***
悪役聖女も降臨。
私はまだ「夢の中」にいる。
次回、来週水曜日更新予定
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