14話 この王国どうなってんの?
私はまだ「夢の中」にいる。
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レグルス王子たちを見送った私たちは、湖の畔の草原から宿場町に向かって歩きはじめた。
草ピンクや黄色などの小さな花が風に揺れ、その少し先に、石造りの建物や商店や民家が見えた。
ゲオルグは、私がレグルスから貰った花冠をまじまじと見つめ、クス……と笑った。
「つまり、それは『マーキング』というものでしょうか?」
なんですと!?
「ちょっと、レグルス王子を動物か何かみたいに言わないでよ。せっかくいい気分だったのに……」
アスモデウス殿下が、ハハッと笑いながら首を横に振った。
「いや、ヴィティ。あながちそうでもねぇぞ。この王国の今の妖精王は、気に入った女を見つけたら、そっこー幻術かけて連れ去り結婚しちまう。イケオライカレ野郎だ。妖精族の南の聖地サンマリノにある『ハーレム』は有名だぞ」
「うわマジで……そんな奴を野放しにしてるなんて、この王国どうなってんの?」
エスペンが顔をしかめた。
「妖精王はこの国の『豊穣の神』。逆らったら飢饉や災害……とんでもねぇことになるらしい。ちーっと、やりすぎだと俺は思うが……ま、それが原因で、夫婦喧嘩が絶えねぇみてぇだし」
「クス……」
夫婦喧嘩が絶えないと聞いて、ちょっと嬉しそうに笑うゲオルグ。他人の不幸を好むタイプか。
「数年前も夫婦喧嘩で……そうだ(何かを思い出す)」
急にアスモデウス殿下の顔色が変わった。
「おいお前ら、レグルス王子を絶対に怒らせるんじゃねぇぞ!」
「あのレグルス王子を? なぜです?」
コンラードが聞き返すと。
「2年ぐらい前、夫婦喧嘩を止めに入ったレグルス王子が、ぶち切れて暴走し、聖地サンマリノを半壊させる事件が起こった。ああ、それで今、アクアラグーンにいるんだった…… いいか。あの王子は見た目は可愛いらしいが、街一つ簡単に壊滅させるほどの魔力持ちだ。絶対に怒らせるんじゃねえぞ!」
「本当なのか? あの王子は初対面の俺たちを気遣い、馬車を用意し、柔らかい草でサンダルまで編んでくださった。素直でお優しく、それでいて謙虚で落ち着いていて、なんとできた王子だと……きっと、ご両親のことで、さぞかし苦労なさったのだろう」
コンラードが言葉を詰まらせた。
「だよな。妖精女王も言っていた。甘え下手で、なにもかも自分で背負っちまうみてぇなところもあるんだとさ」
「くっ……いい子が過ぎる!」
コンラードはもう泣きそうだ。
私もガチ共感!
「そうでしょ、そうでしょ! レグルス王子、めーっちゃいい子でしょ!」
「なんでヴィティ様が自慢げなの?」
塩エスペンが怪訝な表情で私に尋ねた。
―――エスペン、貴様には分かるまい。
レグルス王子は、私の妄想や願望をいろいろ込めて創作した『最強イケメン美少女キャラ』(※実は女の子にもなれる両性キャラ)。
それが褒められて作者もめっちゃ嬉しい!―――とは絶対に言えないので、
「ふふーん♪」
様々な事情を含ませ自慢げに笑い返すと、私と目が合ったエスペンは、何ともいえない微妙な表情でフイッと視線をそらした。
ふ、きっとこれから「マジでヴィティ様、頭大丈夫?」とかなんとか、キツい塩コメを言い放つに違いない。
心の中で身構えていると。
ふぅ……と額の汗を手の甲でぬぐったエスペンは、横目でチラと私を見やり、口元をフッと緩ませた。くるぞ!
「ま、でも……それ、すごく似合ってる」
ん?
ダッ……
突然、エスペンが駆け出した。
「え、ちょっとエスペン?」
予想外のエスペンの捨て台詞に困惑していると、コンラードが、
「そのとおりですよ。ヴィティ様の真っ白な髪に黄色いミモザ。とてもお似合です」
「悔しいがセンスもいい。あの王子、まだ幼いのに末恐ろしいな。クス……今のうちに友好協定を結んでおこうか」
ゲオルグが瞳を赤く発光させて笑うと、
「やめとけ。王子はまだ子どもだ、政治的なもんに巻き込むな!」
アスモデウス殿下がピシャリと釘を刺した。
***
私が書いた小説内でレグルス王子は―――
ここアクアラグーン樹海で、ラスボス『氷の魔女』によって、氷に閉じ込められた妖精女王や仲間たちを荊棘の繭で守り。氷の軍勢を、たったひとりで迎え撃った「妖精族・最強王子」。
だが、その後。
家族を亡くした仲間たちの行き場のない怒りをぶつけられ傷つき、アクアラグーン樹海に引きこもる。その間、樹海に肝試しに来た者たちを怖がらせて遊んだり、アンフェール城の騎士になった弟や仲間たちの様子を、樹海からこっそり覗き見たりしていた。そして、弟アークトゥルスと婚約した主人公勇者ルーシーに興味を抱き、彼女に会いに行くことでレグルス王子の運命が動き出すのである。
―――『氷の魔女』が侵略しなかった世界で、レグルス王子はこれからどう成長していくのか。私は楽しみで仕方ない。
***
小さな花々が風にそよぐ草原のなだらかな坂を上ると、色鮮やかな花々に囲まれた石造りの建物の前に辿り着いた。
その壁に取り付けられた小さな赤い看板には、白い文字で『ホテル・ホーリーウッド』と記されていた。
***
私はまだ「夢の中」にいる。
次回、明日更新予定です!
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