13話 これは幻術だろうか?
私はまだ「夢の中」にいる。
***
アクアラグーン樹海・妖精の森。
私はキラキラの美少年『妖精王の第一王子レグルス』に会えた喜びで放心していた。
「何だあれは!?」
横になっていたゲオルグが、いきなり飛び起き上空を指さした。
見上げると、色とりどりの何か小さな物体が浮遊し、空を埋め尽くしていた。
鳥? 紙飛行機? 小型のUFO?
そうこうしているうちに、強い光が下から照射されると、それらは一斉に四方八方散り散りに飛び去って行った。
「UFOかも……」
この世界には、悪魔も妖精も天使も人魚もいる。宇宙人ぐらい余裕でいそうだ。
「ゆふぉ?」
きょとんとした顔で、ゲオルグが私に聞き返した。
「UFOは、未確認飛行物体の略称で、その多くは宇宙から飛来しているといわれているんです」
「未確認なのに、どうして宇宙から来たと分かる?」
ド正論が返ってきた。
「……地上の科学技術じゃ説明がつかないからじゃないんですか?」
「説明がつかぬものは、宇宙から来ていると結論付けるほうが不自然に思うが」
「そう言われてみれば、ゲオルグ殿下のおっしゃる通りですけど」
「理解できぬものを恐れるのと同じだ。だから、さきほどの現象はだな……」
先ほどまでぐったりとしていたゲオルグが、生き生きと語りだした。
ゲオルグは、たまにこう”わりとどうでもいい事”で私やエスペンに正論をぶつけ、論破しようとしてくる。しかも、しつこい。知的な遊びを嗜むお貴族様の習性? と割り切ってはいるが、正直距離を置きたくなる。
それでも、今回は違う。
私が小学生の頃。家族旅行で行ったゴジラ岩のところで、弟とヤドカリを捕まえているとき。光る円盤が海から飛び出し、山のほうへ飛び去って行くのを見たことがあったのだ。もちろん、現実世界での実体験。
「UFOは絶対いるよ! 私、見たことあるもん。男鹿半島で!」
「おが? 半島? それはどちらの地域にありますか? そもそも未確認なのにどうして……
「私が見たの。見たから言ってるの!」
「本当ですか? では、仮にあなたがそれを見たとします。他に目撃者は? 社会的に信用が有る方の証言は……
ゲオルグとUFOで論争をしていると、白薔薇のアーチの小道からアスモデウス殿下が戻ってきた。
「許可はとった。今、妖精女王が魔レターを王国中に飛ばしている」
「じゃあ、さっきのは」
「妖精女王の魔レターだ」
「魔レター。あんな量をいっぺんに!?」
私の横でゲオルグが、クスクス……と肩を震わせた。
「ヴィティ、これから北の神殿に向かう、がその前に」
アスモデウス殿下がゲオルグたちを一瞥した。
「その服装じゃ、お前ら凍え死ぬぞ」
***
私たちは、レグルス王子が蔓で作った馬車で、樹海から北の神殿に近い「宿場町」へ向かうことになった。
それというのも、ゲオルグが移動用魔方陣をひどく嫌がり困っているところへ、レグルス王子たちが現れたのだった。(「氷の悪魔」がもの珍しく、みんなに見せようと戻って来たらしい。)
蔓の馬車がスルーッと動き出した。
馬車というよりは『ソリ』のような動きで、しかも御者はおらず自走している。
私たちは、馬車後方に取り付けられた、屋根のない長方形の大型キャビンに乗り込んだ。キャビンの中は、長椅子が向かい合わせに並んでいる。
「……んで、この子たちは?」
アスモデウス殿下が、レグルス王子に尋ねた。
ちなみに席順は、私の左隣に、ウエーブがかった深緑髪でそばかす顔の天使のようにかわいらしい男の子が座り。私の右隣には、レグルス王子。その横に、アスモデウス殿下。アスモデウス殿下の膝の上には、エメラルドグリーンの短髪の整った顔立ちの男の子がちょこんと座っている。そしてその向かい側に、顔色の悪い部下三名。
レグルス王子が、アスモデウス殿下の膝の上に座っている男の子の肩をポンとたたいた。
「こいつが、ボクの弟アークトゥルスと、
「違う、おれはイムだ!」
漢字で『仏』と黒糸で刺繍されたTシャツを着ている、整った顔立ちの男の子が、糸目を細めてニコッと笑った。
はぅっ……眩しい。
そういえば、『イム』という名前の由来は、そのTシャツだったということを、いまここで作者=私、思い出す。ここで伏線回収するとは……それにしても刺繍で『仏』って、これ作ったの誰だろう?
(※イム=本名アークトゥルス。15年後。小説内で主人公ルーシーと婚約する、双剣使いのイケメン騎士。のちに婚約破棄。)
「そっちがハント」
レグルスが首を傾け、私の左隣にいるそばかす顔の天使のようにかわいらしい男の子に微笑んだ。
(※ハント=15年後。小説内で主人公のドSな上官役。幻術使い。)
ハント君が、その青い瞳を輝かせ私を見上げた。
まだ、ドSが覚醒していないハント君の純粋なまなざしに吸い込まれそう……
「おねえさん、氷の悪魔なの? すずしいし、それに……なんてきれいなんだ」
うっ……
いま撃たれた。心臓を撃ち抜かれた。
恐るべし妖精族。
この子たち、まだ10歳ぐらいなのに、顔面キラキラ攻撃値がとんでもなく高い。
「そうだろう。おやじに見つかったら大変なことになるから、ボクたちで守ろうと思ってるんだ。いい? ヴィティ様?」
レグルスが言う「おやじ」とは、妖精王フィンヴァラ。
子孫繁栄が決まり文句のオールシーズン全裸のへんた…、暴君。小説内では15歳の主人公ルーシーを嫁にしようと誘拐未遂事件を起こす。
確かに、あいつはヤバい。
「いいわよ」
「それじゃあボクたちは、今日からヴィティ様を守る騎士だね」
「「騎士!?」」
騎士と聞いた、イム君とハント君の顔つきが変わった。
三人は一斉に立ち上がると、真剣な表情で私の前立ち胸に手を当てた。
「「「ヴィティ様。あなたの盾となり剣となることを、ここに誓います」」」(レグルス・イム・ハント)
ぐぅわああ―――悶死。
「ありがとう! もう思い残すことはないわ! うれしすぎて私死にそう(泣)!!!」
感涙する私の隣で、アスモデウス殿下がポツリと言った。
「ヴィティおまえ、男の趣味変わった?」
***数分後***
やはり、彼らは子どもだった。
「ヴィティ様。氷、いっぱい出せるんでしょ? 見たい!」(イム)
「はーい♡」
「雪は? 雪、見てみたい!」(ハント)
「はーい♡」
私「氷の魔女ヴィティ」は、涼を求める子どもたちの遊び相手となっていた。
(※現在のアクアラグーンの気温は約30°)
「雪! 冷たーい。そうだ、雪合戦っていうのしてみようぜ」(雪玉を作るイム)
「馬車の中だぞ、雪だるまにしよう」(雪を丸めだすレグルス)
「えいっ」(ハントに雪玉をぶつけるイム)
「わ、このっ。やったな」(ハントも参戦・両手投げ)
「ふっ」(雪玉をよけるイム)
パシッ
「(雪玉が当たるレグルス)……っ、このっ!」(雪玉を投げるレグルス)
「きゃー! うふふふ」(雪まみれで笑う私)
パシッ
「ぐわあああ(雪玉を食らってわざとらしく痛がるアスモデウス) 元気がいいな! ほれっ(雪玉を投げる)」
無論、子煩悩なアスモデウス殿下も一緒に遊び始め……
「ねぇ、おじさんたちも一緒に雪合戦しよ」(イム)
とうとう、ゲオルグたちにも絡みだした。
「君に、おじさんと呼ばれる筋合いは……
パシッ
ゲオルグにアスモデウス殿下が投げた雪玉がぶつかり、わなわなと震える。
「あれれ、薄着のおじさん(←浴衣ゲオルグ)震えてるよ」
ハント君が、ドSの片鱗をチラ見せ笑う。
「ぶっ……」
エスペンは、笑いをこらえながら雪玉を避けまくり。
「こっちのおじさんも」
ハント君が、一見怖そうに見えるコンラードの顔を覗き込んだ。
「俺か? (雪を両手で集めて)よっ……ほら」
コンラードが一握りで巨大な雪玉を作ると、子たちから歓声が上がる。
「強っ!」(ハント)
「うわ、でっかっ」(レグルス)
「それ、こっち投げて!」(イム)
「いくぞーーー!」
「「「わー」」」
「キャ―――」(巻き添えになるヴィティ)
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***楽しい時間はあっという間に終わり***
私たちは、宿場町が見える樹海東の湖の畔で馬車を降りた。
放って置くとどこまでも付いてきそうな勢いの子どもたちに、アスモデウス殿下は家に帰るよう促した。
「ヴィティ様!」
樹海に帰ろうとしていたレグルスが、こちらに駆け戻ってきた。
「どうしたの?」
「あの、これを……」
レグルスの髪から、ミモザとジャスミン、赤みががった紫色の花が咲き、その蔓がくるくると絡まり輪になった。
「ミモザ、ジャスミン……ハーデンベルギア」
呪文のようにつぶやいたレグルスは背伸びをし、それをそっと私の頭に乗せた。
「もし、おやじ……『妖精王』と名乗る男が来たら、これを見せてこう言って。『ボクと約束している』と、いい?」
ああ、これは幻術だろうか?
レグルスの麗しい容姿から発せられる、言葉が、声が、息遣いまでもが、私の胸にぐさぐさと突き刺さる。
「わかった。『レグルス王子と約束してる』って言うわ」
「いいの! はぁっ、良かった!」
レグルスは、瞳を輝かせパアッと微笑んだ。
もうなんなの。
レグルス王子ってまだ12歳ぐらいなのに、この美貌。輝き。色香。尊いっ。
崇め奉りたい!
「ありがと――――う!!!」
樹海へ戻っていくレグルス王子たちの、その愛しい後ろ姿が見えなくなるまで私は手を振り続けた。
***
あれ……そういえば私、何しにここへ来たんだっけ?
私はまだ「夢の中」にいる。
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自給自作の二次創展開小説、楽しんでいただければうれしい限りです
次回、来週水曜日ごろ更新予定です(*´ω`*)




