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11話 報復するつもりでは!?

 私はまだまだ「夢の中」にいる。


 ***


 王暦1066年12月初旬の某日。

 イナリ城にて、城主マサムネ様より「雪を降らせてほしい」と要請を受けた私は、さっそく天守閣の屋根へ上がり雪を降らせた。


 魔力全開で雪を降らせてみたものの、この暑さで雪はあっという間に雨に変わった。更に、その雨のせいで湿度が爆上がり不快指数Maxな状況に……


 自分のポンコツ魔女ぶりにガッカリしていると、塩エスペンが追い打ちをかけた。 


「そりゃ今のヴィティ様じゃ、そうなるよなー」


 そうなるよなー そうなるよなー そうなるよなー(エコー)


 やっと、やっと誰かの役に立てると思ったのに。

 何の役にも立たない自分の不甲斐なさに唇を噛みしめた。


 その日の昼食時。


 二の丸御殿の大広間に戻り、城の料理人が目の前で作ってくれる『たこ焼き』を皆で頬張りながらマサムネ様と対策会議をしていると、とんでもない知らせが舞い込んだ。

 

『王暦1066年12月1日未明。

 炎の悪魔イフリート率いる連合軍(妖精族・悪魔族)の進軍により、フロライト城が陥落。城の地下通路から脱出しようとした国王及び多数の貴族たちが、通路の崩落に巻き込まれ死亡。連合軍は今後、天使界デウス、ロドス、イナリ領へ進軍すると予想される。』


「マジで!?」(エスペン)

「ここは戦場になるのか」(ゲオルグ)

「殿下、船に戻りましょう!」(コンラード)


 慌てる私たちの横で、不意に何かを察したマサムネ様が立ち上がり、広間の入口を睨みスッと刀の束に手を添え身構えた。


「そなたらは私の後ろに」


 バン!!!


 突如。大広間の襖が弾け飛び、黒い魔力を全身に纏った大きな影が目の前に降り立った。私たち三人も料理人さんも、一斉に身構えた。


 黒い魔力がブワッと畳に広がり、その姿が徐々に露わに―――

 見上げる程の大きな体躯。魔力の風圧で翻る裾がボロボロの黒いマント。浅黒いガチムチの上半身に、メタリックな装飾を施した黒革のダメージパンツ。ウェーブがかった黒髪から伸びる捻じれた二本の角。もしや、このお方は―――


「アスモデウス殿」


 私たちを庇い背を向けるマサムネ様からポツリと聞こえた。


 やっぱり、アスモデウス殿下だ。 

 ※王国北西・バンディ城城主。子煩悩で優しい高位の悪魔。私が書いた小説の主要人物。


 アスモデウス殿下は、低い声でマサムネ様に訊ねた。

 

「フロライトは陥落した! イナリ・マサムネ。貴様はどうする?」


 マサムネ様は、刀の束から手を放し表情を緩めた。


「どうもこうも、イナリは『謎の熱病』でそれどころではない。そもそも、我々はフロライト王のやり方に反対した。ゆえにイナリは見放され、この有様だ」

  

「んじゃ、マサムネはこっちの味方ってことでいいんだな」


 アスモデウス殿下の黒い魔力が、フッと消えた。


「もちろんだ。アスモデウス殿」


 マサムネ様は、アスモデウス殿下と抱擁し握手を交わした。


「はーーーーっ、良かった!!! (廊下の外の方に向って)だとよ! バルベリス、早く病人に薬を配れ! それと、薬の調合書をイナリの医局へ届けさせろ!」


 アスモデウス殿下は、「やれやれ」とつぶやき、その場にゴロンと寝転がった。


「もうやってるー」

 

 廊下の奥から返事が聞こえた。


 え!!!

 バルベリス殿下も来てるの!? うわー(喜)!!!

 (※バルべリス殿下とは、見た目は可愛いらしい子どもの姿をした悪魔。カワイイもの(動物、人も含む)全般と実験好き。)


 よし、こっそり見に行こう!

 

 幸い、アスモデウス殿下は私(氷の魔女)のことは、まだ気づいていないみたいだから―――


 そーっと大広間から抜け出そうとしていると、


「んで、ヴィティ。なんでお前がここに?」


「あーーーー(泣)」(私)


 *** 


 隠していたところでバレるのは時間の問題……というわけで、私たちは正直にアスモデウス殿下にざっくりと事情を話した。


(座敷に寝転がるアスモデウス殿下を前に、私たち四人は正座(左からコンラード、ゲオルグ、ヴィティ、エスペン)。マサムネ様は、アスモデウス殿下の左斜め横に胡坐。私はアスモデウスを『殿下』と呼んでいるが、正式には『殿』。『殿下』呼びは、アレキサンドライト王国時代になってからである。ちなみに、バルべリス殿下も同じ。)

 

 説明を聞いたアスモデウス殿下は「どおりで……」と納得してくれたが。そのあと、ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべ私をずっと見ている。


 怖いんですけど!

 何が怖いって―――『あのときの恨み、晴らさでおくべきか』みたいな感じで私に報復するつもりでは!? どうしよう。今すぐここから逃げたい。


 そんな私の心配をよそに、ゲオルグがアスモデウス殿下に『熱病の薬』について尋ねると。今度はアスモデウスが、事の経緯を詳しく説明しはじめた。

(以下、殿下の説明。要約してあります。)


 事件は、約3か月前―――


 突如、フロライト王が、

「約一か月前より流行り出した『謎の熱病』原因は、悪魔・妖精族の呪いによるものと特定。感染者は全員殺せ!」という王命を発布。


「呪いとか、アホか!?」と、兼ねてよりフロライト王に不満を抱いていた悪魔・妖精族たちは、反旗を掲げた。(ちなみに、この時期。イナリ領も反対し王国政府と一線を画す形に。)


 『謎の熱病』の原因究明のため、炎の悪魔イフリートの提案で、地獄の王ルシフェルを召喚。意外と博識なルシフェルにより『謎の熱病』の原因は、蚊が運ぶ病原菌と判明。蚊の駆除の要請と、西の砂漠に封印していた悪魔バルベリスを復活させ、薬の作成を依頼。薬の効果を確認後、各領地へ赴き、薬とその調合書を配布。

 フロライト城攻落後の今現在。悪魔・妖精軍幹部たちが、”『熱病』に対処できていない地域”へ赴き降伏を勧め、薬を配布して回っている。


 ―――という説明に、昨夜『蚊』に刺されたゲオルグたちは青ざめた。

 

「なあに、大丈夫だ。発症前に抗菌薬を飲めば、重症化は抑えられる」

「ならば安心だな」


 クスっと、ゲオルグがエスペンとコンラードに微笑みかけた。


 いや、待ってゲオルグ。”重症化を抑える”だよ!

 特に、ゲオルグ。ひ弱なお前が一番危ない! 


「ゲオルグ、早く医療局へ行って、抗菌薬を飲んで来たら?」


 すかさず私は促した。……にもかかわらずゲオルグは話を続ける、


「それと、アスモデウス殿。『気温を下げる』ということは、病気の原因となる「蚊の駆除」につながるだろうか?」


「そうだ。その手もあるな」


 再びアスモデウス殿下は私を見つめ、またニヤリと笑った。

 めっちゃ怖い。それにゲオルグ、早く薬を飲まないと……なのに、


「先ほど、ヴィティ様が雪を降らせてくださいましたが、この暑さですぐに溶けてしまいまして……」 


「気候そのものを変えるには、膨大な魔力が必要だからな。ふっ……ヴィティ、そんなに落ち込むな」


 そう言ってアスモデウス殿下は、大きな手で私の頭をぐりぐり撫でた。

 あれ? もしかして、私を慰めてるの? 

 アスモデウス殿下に撫でられ、怯えていた心が、”ほわっ”と少しだけ軽くなったような気がした。


「失礼します」


 突如ゲオルグが、私の頭をぐりぐり撫で続けるアスモデウス殿下の手をすっと払い、ぐしゃぐしゃになっているであろう私の髪を手慣れた感じでササッと直しはじめた。(ちなみに、今日のヴィティの髪型は、編み込みハーフアップ。)


「お、おお悪かった」


 アスモデウス殿下は申し訳なさそうに手をひっこめると、今度は意味深な笑みを浮かべゲオルグを見つめた。心なしか殿下の目が赤く発光している。もしかして、怒らせちゃった? 

 私の髪なんて後でいいのに、なぜ今、このタイミングで……ゲオルグぅ。横にいるはずのエスペンもコンラードもビビッて気配消しまくってるし……


 ピリついた空気の中。無言で私の髪を直したゲオルグは、何事もなかったかのようにまた話しを続けた。


「……それでは、アスモデウス殿。膨大な魔力が必要でしたら、魔鉱石を大量に用意すれば可能でしょうか? 大型貨物船一隻分でしたらすぐに用意できますが」


 表情を変えず淡々と話すゲオルグに、アスモデウス殿下も少し呆気に取られた様子で、


「あ……ああ。それもいいと思うが、恐らくもっと必要だ。そうだな……アクアラグーンあたりがいいな。いっちょ、妖精女王ティターニアに頼んでみるか」


 アスモデウスはおもむろに立ち上がると、「ほれっ」と私に右手を差し出した。


「あ、ありがとうございます」


 深く考えずその手を掴み立ち上がると、アスモデウス殿下の足元からブワンと青い魔方陣が広がり回転し始めた。


「ん!?」


 キュィィィーーーーーー


「「「ヴィティ様っ!」」」(ゲオルグ、コンラード、エスペン)


 ***


 いざアクアラグーンへ!

 んで、私はまだ「夢の中」にいる。


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