魔法使いの使者3
とある絶海の孤島の夜。
「ユキに、え、縁談!」
「ああ。」
本を読みながら、ルシウスが頷いた。
夕食後に、夫婦でソファーに並んで座りくつろいでいる。ルシウスは、読書。ミヤコは、レオに作ってもらう物を発案中。紙に何かを書いていたが、思い出したように聞き捨てならない話をされて、その手を止めて夫に顔を向ける。
「相手はアールラニの魔法使いだと…」
本に視線を向けたまま話す。
ぱっとミヤコが本を取り上げる。
「ちょっと!何のんびり本なんか読んで…ん、何?『おいしいデザートの作り方~中級編~』?」
「…………………」
「と、とにかく、ユキの縁談だよ!」
やれやれ、とルシウスが戸惑うミヤコを引き寄せて、その肩を両腕で抱く。
「ユキはもう大人だ。誰と結婚しようが、本人の自由にさせたらいい。それにこの縁談は、流れるだろ…」
口元に手をおいて、ミヤコは考えた。
「え、待って…ユキが結婚して、子どもとかできたら…私、おばあちゃん!!ええー、この姿でいいの?私、孫とか曾孫とかにおばあちゃんって言われるの?ええー、この外見でいいの?」
Γ俺もじじいは嫌だ、いやその前に絶対言わせないってそこじゃないだろ!」
両手でミヤコの頬を挟んで、こちらを向かす。
「真剣な話、お前感じるか?他国に魔法使いがいる気配を?」
「ううん。本当にいるの?」
「……もしかしたら…」
考えを巡らせて、黙りこむルーを、ミヤコはのぞきこんだ。
「ルー?」
「…なんでもない。取り合えず二日後に、そいつが使者としてやって来る。そのツラ拝見してやる。」
ミヤコが頷く。
「ユキとも、ちゃんと話をしないと…ねえ、ルー。」
「なんだ?」
「…戦争は嫌だな…そんなことには、ならないよね?」
不安げな顔をしている。
ミヤコが、そろそろとルーの胸に顔を寄せた。
「この国に何人魔法使いがいると思ってる?不安になることはない。」
妻の背中をそっと撫で、髪に口づけする。
本当は、国などいつ捨ててもいい。自分が最後に守るのは、ミヤコとユキだけでいい。国も世界もどうなろうと構わない。
言わないけどな。ミヤコが困るから。