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最高の魔法使いとその虜~第二章~   作者: ゆいみら


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魔法使いの使者4

次の日、ユキは不機嫌に王宮の渡り廊下を歩いていた。


「物じゃないし…何よ。」


リュカに今朝言われるまで知らなかった。アールラニとの交換条件。


「なんで私が?見ず知らずの奴に…」


なぜ国の政治的なことに、いきなり利用されなければならないのか。

動揺していたユキは、ドンッと、横から飛び出して来た男とぶつかった。


「わっ」


お互い転んでしまった。普段なら難なく避けるはずの自分に、更に苛立つ。


「ご、ごめんね。えっと、ユキ…」


ヒカルが手を差し出し、彼女を引っ張る。


「けがはないみたいだね…じゃあ、僕はこれで…」

「……待って。」


彼の手を掴んで捕まえる。


「へ?」


ずいっと顔を近づける。


「…逃げようとしてるでしょう?ここから。」


焦ってヒカルが手を離そうともがく。


「な、なんで、そう思う?」

「手から、心で思っていることが、駄々漏れ。」

「…あー、そっか、魔法使いだもんね。」


がっくりとうなだれるヒカルを見ていたら、なんだか益々腹が立ってきた。


「そりゃあ、逃げたいよね。なんたってこの国が他国と戦争になるかもしれないって時に、もしもの為に呼び寄せた後継ぎ様なんだしね。いきなり平民から重責の掛かる王子だなんてね。でもね…」


少し声が震えているのに、ヒカルは気づいた。

ユキの黒い瞳がうるうると揺れた。


「ユ、ユキ…?」

「わ、私だって逃げずに頑張ってるんだ。自分だけ逃げたりして卑怯だよ。」


他国の知らない魔法使いとの縁談。もし断ったら?


「私なんか、戦争吹っ掛けるいい材料だよ。」


不安、なのだ。事が大きすぎて。

ヒカルが戸惑った。彼も王家の一員として、アールラニの条件は聞いているのだ。掴まれたままの手で、ユキの手をきゅっと握った。


「…同情してるの?」


弱いなあ、と思う。表情は平静を装えても、自分は本当は弱い。逆に涙脆いはずの母の方が案外強かったりするのだ。母だったら、どうするかなあ。


Γ……元気出しなよ。君の両親が黙ってないでしょ?」

Γあ、そうだった。」


ユキは、ヒカルの言葉で約束の時間を思い出した。


*******************


「サラ、辛くないかい?」


ローレンは、着替えを手伝うサラの表情をうかがう。


「え?」

「私が、ヒカルを連れ戻して、肩身の狭い思いをしていないかい?」


首を振って、サラは言った。


「…私に気を使って、ヒカルの母親はここを出ていってしまったんです。私が、彼女たちに肩身の狭い思いをさせてしまったのです。だから私、ヒカルが帰って来てくれて嬉しいんですよ。」

「サラ…」


まるで邪気の無いサラに、ローレンは思わず彼女の手を取ってひざまずいた。


「ごめんよ…君のこと、妹のようにしか愛せなくて…」


サラは、とても良い女性なのに。


「いいえ、私の方こそ…いつも兄のように感じてしまって…」


その関係が今も続いている。ローレンとサラは一度も寝所を共にしていない。


「見たところ、素直で優しそうな子でしたよ。私、急に大きな息子ができて楽しいんですよ。」


嬉しそうに、優しく微笑む彼女に、ローレンの胸が温かくなる。


「サラ……ん?」


視線を感じて、ローレンが後ろを振り向いた。


「ル…!」

「ふうん…罪悪感はあるんだな。」


壁にもたれて腕組みをしていたルシウスが呟いた。


「こ、こら、夫婦の語らいに入ってくんな!ここはプライベート空間だ!」

「どの口が言う。」


サラが会釈をして、黙って部屋を出ていった。彼女は冷ややかな物言いをするルシウスが、少々苦手なのだ。


「そのまま、ひざまずいてろ。」

「はあ?」


近づいて、怪訝な顔をするローレンを見下ろす。


「グラディア王。お前が泣きつくから、今までヒカルとその母親を守ってやっていたんだ。俺に恩を感じているか?」


「か、感謝してるよ。本当に…」


王様なのは、どっちだっけ?何、この図は!

ルシウスは、椅子を引いてきて足を組んで座った。

尊大に見下ろされて、ローレンは自分が臣下の気分を味わっていた。


「だったら、ユキの縁談は断れ。」

「……そうか。」


ため息をついて、ローレンは床にあぐらをかいた。


「俺とミヤコの娘だ。他人の娘の結婚を勝手に進めるなよ。」


話が見えてきた。ヒカルという弱みを盾に、娘を守るつもりのようだ。


「この国を火の海にしたいのかい?」


強力な火薬を使う武器が開発されている国だ。武器では差がつく。平和なこの国は戦い慣れていない。

ルシウスが鼻で笑った。


「どちらもさせない。この国は、世界で最多の魔法使いの存在する国だろう。」



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