第四章 見えない線
大輔は、市役所の旧友を頼り、三十年前の都市計画図を閲覧した。市役所の資料保管室は、地下二階の奥まった一角にあり、蛍光灯の光がかすかに明滅していた。旧友の職員は、大輔の車椅子が入れるよう、あらかじめ通路の段ボール箱をどかしておいてくれていた。そんな些細な配慮に、大輔はいつも複雑な気持ちを抱く。ありがたい。だが同時に、それが「特別扱い」ではなく「当たり前」になるまでに、あとどれだけの時間がかかるのだろうか、と。
旧友の名は、木下といった。大輔が市役所を辞めた後も、数少ない連絡を取り続けている同期だった。木下は、大輔が資料を探しに来た理由を、深くは尋ねなかった。ただ、「必要なら、いつでも言ってくれ」とだけ言って、資料室の鍵を開けてくれた。
黄ばんだ紙に、現在は存在しない道路が描かれていた。
「天城中央連絡道路、予定線」
図面の端には、当時の担当部署の印と、細かい注釈が並んでいた。大輔は虫眼鏡を借り、一文字ずつ、丁寧に読み解いていった。注釈の中には、「福祉施設との連携を前提とした先進的設計」という文言も見られた。三十年前の担当者たちが、確かに、何か新しい未来を思い描いていたことの証拠だった。
現在の地図に重ねると、二つの事故現場は、この幻の道路の予定線上に、ほぼ正確に乗っていた。
計画は、三十年前のある時期に、理由の記載もなく突然凍結されている。凍結の直前に記録されているのは、「旧市立障がい者支援センター」の閉鎖だけだった。
大輔は、資料保管室の隅にある古いコピー機で、図面を複写した。トナーの匂いが、狭い部屋にこもる。複写を待つ間、大輔は、木下に、当時この計画に関わっていた職員が、まだ市役所に在籍しているかどうかを尋ねた。木下は、しばらく考えた後、一人の名前を挙げた。
「――片桐さん、かな。今は退職して、確か、民間の会社をやってるはずだ」
その名前を、大輔はノートに書き留めた。まだこの時点では、それが後にどれほど重要な名前になるか、大輔自身、想像もしていなかった。
大輔は、ノートに一本の線を引いた。
過去と現在をつなぐ、目に見えない線。
――この街は、僕らが通る道を、いつも"あと回し"で決めてきた。三十年前、この線は誰かの都合で消された。そして今、その同じ線の上で、僕らが死んでいる。
これが偶然だと言うなら、この街の"偶然"はいつも、僕らの側にだけ落ちてくる。
大輔は、資料室を出るとき、旧友にこう聞かれた。
「大輔、お前、これ、本気で何かあると思ってるのか」
大輔は、しばらく考えてから答えた。
「わからない。でも、"何もない"と決めつけるほうが、僕には怖い」
木下は、大輔の車椅子を、エレベーターまで見送りながら、静かに言った。
「昔からお前は、そうだったよな。誰も気にしない場所ばかり、見てた」
大輔は、その言葉に、小さく笑った。
「見てたんじゃない。見なきゃ、僕らは生きていけなかったんだ」




