第二十二章 善意の都市計画
「あの頃も、私たちは、障がい者のために街を作ろうとしていたんです」
片桐は、穏やかな口調で語り続けた。
「あの道路計画は、当時の支援センターと、地域全体をバリアフリーで結ぶ、画期的な構想でした。でも、当時の社会には、まだそれを受け入れる土壌がなかった。予算も、理解も、圧倒的に足りなかった」
「だから、凍結した、と」
「そうです。理想が、現実に押し潰された。私は、今でもそれを、悔いています」
片桐の言葉には、嘘があるようには見えなかった。むしろ、そこには、長年抱えてきたであろう、本物の悔恨のようなものが滲んでいた。彼は、窓の外の再開発地区を見つめながら、続けた。
「私は、あの計画が凍結された後、この街で、少しずつ、自分にできることをやってきたつもりです。今の再開発計画も、その延長線上にあります。あの頃、実現できなかったバリアフリーの街を、形を変えて、今、実現しようとしている」
片桐は、デスクの引き出しから、一枚の古い写真を取り出した。そこには、若き日の片桐と、旧支援センターの子どもたちが、一緒に写っていた。
「この写真、三十年前のものです。私は、あの子たちのために、本当に、何かを変えたかった。今でも、この写真は、私にとって、原点なんです」
大輔は、その写真を見つめた。写真の中の片桐は、確かに、心からの笑顔を浮かべていた。
――この人は、悪人には見えない。むしろ、僕らと同じ側にいた人間に見える。
だが、大輔の中で、別の声が囁いていた。
――"善意だった"という言葉は、この街で、何人の死体を隠すための言い訳に使われてきた。
「片桐さん。あなたの言う"理想"は、今、十七人の死体の上に立っています。それでも、あなたはまだ、自分を"善意の人間"だと思えますか」
片桐は、初めて、わずかに表情を曇らせた。
だが、それが動揺なのか、悲しみなのか、大輔には判別できなかった。片桐は、しばらく沈黙した後、静かに言った。
「戸田さん。私は、あなたが何を疑っているのか、おおよそ見当がついています。でも、これだけは信じてほしい。私は、誰も、殺していません」
「では、誰が」
片桐は、答えなかった。ただ、窓の外を見つめる目に、これまでとは違う、何か深い翳りが差していた。
面会を終え、オフィスを出る間際、大輔は、もう一度、壁に飾られた完成予想図を見つめた。そこに描かれた「未来の街」は、確かに美しかった。だが、大輔には、その美しさの下に、まだ見えていない何かが、静かに横たわっているように感じられてならなかった。




