第二十章 一本の線
大輔は、十七件の事故現場を、すべて地図上にプロットした。夜遅く、大輔の自宅の一室で、パソコンの画面に、赤い点が一つずつ増えていく。
点を線で結んでいくと、驚くべきことに、すべてが一本の線上に、正確に並んだ。
その線は、現在の「天城市再開発区域」の境界線と、完全に重なっていた。
「これは……」
磯川が言葉を失った。
大輔は、静かに、しかし怒りを押し殺した声で言った。
「三十年前、この線は"道路計画"だった。今、この線は"再開発区域"だ。呼び名は変わっても、線そのものは変わっていない。そして、この線の上で、三十年間、僕らのような人間だけが死に続けている」
海が、感情のない声で付け加えた。
「偶然の確率を計算しました。十七件の事故が、すべてこの精度で一本の線上に並ぶ確率は、天文学的に低いです。統計的に言えば、これは"偶然"というカテゴリーには、もはや分類できません」
あかねは、震える声で言った。
「これは、都市計画そのものが、殺人の道具として使われてきたということですか」
大輔は、地図を見つめながら、静かに頷いた。
「この街の"未来予想図"は、いつも、誰かの死体の上に引かれてきた」
花は、その場にいながら、大輔たちが説明する地図の様子を、頭の中で組み立てていた。線、点、区域――視覚情報として直接見ることはできなくても、彼女には、この街の"構造"そのものが、まるで別の感覚で立体的に浮かび上がってくるようだった。
「大輔さん。この線の上に、まだ何かが、隠れている気がします」
「何か、というのは」
「わかりません。ただ、この線が"終わっていない"感じがするんです。三十年前から、まだ続いている」
その予感は、後に、大輔たちが直面することになる真実を、静かに予告していた。
磯川は、その夜、上司への報告を、改めて練り直すことにした。これまでの「単発の事故の集積」という扱いから、「組織的な構造の可能性がある広域事案」として、捜査本部の設置を求める方向に、方針を切り替えることを決意した。だが、その決断が、署内でどう受け止められるかは、まだわからなかった。




