第十六章 第二の犯人
坂上は、少しずつ真実を語り始めた。
数ヶ月前から、彼は何者かに、過去の施設に関する秘密を握られていた。
「三十年前……あの施設で、何かがあったんです。僕は、その一部を知ってしまった。それを理由に、脅されました。"知っていることを黙っていろ。さもなければ、お前の過去の不正を公にする"と」
「脅していたのは、誰です」
坂上は、首を横に振った。
「わかりません。メールと、電話だけのやり取りでした。声も、機械で加工されていて……」
坂上は、震える手で、スマートフォンを取り出した。
「これが、そのメールです。全部、消さずに残していました」
磯川が、そのメールの内容を確認した。文面は簡潔で、事務的だった。だが、その端々に、何か強い意志のようなものが滲んでいた。
海は、そのメールのヘッダー情報を、専門的な視点から解析した。送信元のIPアドレスは、複数の匿名化サービスを経由しており、直接の特定は困難だった。だが、メールの送信時刻のパターンに、海はある規則性を見出した。
「戸田さん。このメール、送信時刻が、すべて深夜の一時から三時の間に集中しています。それに、文面の言い回しに、ある種の"癖"があります。句読点の打ち方、改行のタイミング――これは、長年、文章を書くことを仕事にしてきた人間の癖だと思います」
大輔は、その言葉を聞きながら、静かに確信していた。
――本当の黒幕は、まだ姿を見せていない。
坂上は、末端の駒に過ぎなかった。
海が、感情のない声で呟いた。
「これで、はっきりしました。この事件は、一人の思いつきじゃない。組織的で、計画的で――そして、三十年前から、静かに準備されていたものです」
磯川は、深いため息をついた。
「一体、誰が、何のために……」
大輔は、窓の外を見た。
再開発の看板が、駅前に大きく掲げられている。夕暮れの光を受けて、その看板の文字――「天城市、明るい未来へ」――が、金色に輝いていた。
「その"誰が"を知っている人間は、たぶん、この街の"表側"にいる。そして僕らはこれから、その人間の"善意"という名の仮面を、一枚ずつ剥がしていくことになる」




