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『十三時十二分』 健常者は知らない  作者: キロヒカ.オツマ―


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第十二章 存在しない十二分

大輔は、駅とひまわり園の設備システムを詳細に調査した。市の建設局時代の伝手を頼り、退職後も個人的な関係が続いていた元同僚に協力を仰いだ。


カメラの故障ではない。ネットワークの遅延でもない。


明確に、外部から時刻同期の設定が書き換えられた形跡があった。


そして、その書き換えに使われた手法は――大輔自身が、かつて市の建設局にいた時代に、設備の脆弱性として指摘していたものと、酷似していた。


大輔は、その事実に気づいた瞬間、自分の背筋が冷たくなるのを感じた。あの指摘書は、確かに市の内部資料として保管されているはずだった。だが、その資料に、今、誰かがアクセスしたのだとしたら――アクセスできる人間は、限られている。


大輔は、あの指摘書を書いた当時のことを思い出していた。市の設備の脆弱性を指摘したのは、彼がまだ建設局に勤めていた最後の年だった。当時の上司は、「そんな些細な穴を突く人間は、まずいないだろう」と、大輔の指摘を、それほど深刻には受け止めなかった。改善策は先送りにされ、大輔自身も、それきりその件を忘れかけていた。


大輔は、その事実を磯川に報告するかどうか、一瞬迷った。


――言えば、僕が疑われる。


言わなければ、隠蔽したことになる。


大輔は、静かに答えを出した。


「磯川さん。この手口は、僕がかつて指摘した脆弱性と同じです」


磯川の表情が、わずかに変わった。


「それは、つまり――」


「はい。この手口を知っている人間は、限られています。そして、その一人が、僕です」


沈黙が、部屋に落ちた。


大輔は、静かに続けた。


「隠しても、いずれ調べればわかることです。だから、僕から言います。――僕を疑ってください。ただし、疑うなら、ちゃんと調べてください。"車椅子だから"とか"元建設局にいたから"とか、そういう雑な理由じゃなく」


磯川は、大輔の顔を、しばらく見つめていた。この男が、これだけ不利な情報を、自ら差し出してくる意味を、磯川は考えていた。犯人が、自らを容疑者として名乗り出ることは、常識的には考えにくい。だが、それこそが計算された行動である可能性も、ゼロではない。磯川は、刑事としての自分と、この数週間で少しずつ揺らぎ始めた自分自身の間で、静かに葛藤していた。


「戸田さん。正直に言えば、僕はもう、あなたを疑う気になれません。でも、これは、僕の個人的な感覚であって、捜査の手続きとは、別の話です」


「わかっています。手続きとして、必要なことはしてください」


その日の夜、磯川は、上司に大輔に関する報告書を提出した。だが、その報告書の文面には、これまでの磯川とは違う、一つの但し書きが添えられていた。


「本人は、自ら情報を開示している。逃亡や証拠隠滅の意図は見られない」

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