七 転んだ日
天暦772年 秋
マリア7歳
「マリア、早く!」
「待ってよ、アレン!」
マリアは、先を行くアレンを追いかけて、芝生を走る。
ちょっと先で、アレンが待っていてくれている。
マリアがさっきあげた花冠を頭にのせている。
そんな小さいことが、なぜか最近とてもうれしい。
いつか、私たちは結婚するんだって。
早く大人になりたいなあ。
マリアは、ここ一番の笑顔で、アレンに駆けよる。
途中、何かに躓いたように、マリアは転んだ。
「……っ!」
マリアは、芝生から身を起こしながら、自分が躓いた場所を見た。
そこには石もくぼみもない。
なら、どうして?
一瞬、自分の足がうまく動かなかった。
不思議に思って、目を瞬くマリアを、アレンが覗き込んだ。
「マリア?どうした?大丈夫?」
「え、ええ!平気よ、アレン。それで、何を見つけたって?」
「それは後でいいよ。手当てしてもらいに行こう。膝、すりむいてる」
「えっ!あ、いたい……」
アレンに言われて、マリアは自分の膝を見た。
擦りむいて、血がにじんでいる。
見た途端に、痛みに気づいて、マリアは涙ぐんだ。
「ほら、行こう!」
アレンに手を引かれて、マリアは歩き出す。
母のところへ、アレンに連れて行ってもらう。
母の顔を見た瞬間、マリアは安心して、涙があふれてしまった。
困らせたいわけじゃないのに。
「あのね、お母様。最近体が変なの。さっきも、足が変でね、それで転んで。いた、痛いよう」
今までこんなにひどく泣いたことはないと思う。
小さい子みたいにワンワン泣くマリアを、母はまず抱きしめてくれた。
「そうなの、体が変なのね。怖かったわね」
「歩いては来られたみたいだけれど、今は足はどう?痛いの?」
「痛くはないの。あのね、さっき、自分のじゃないみたいになって」
「ええ。痛くはないのね。……力が抜けたのかしら?今は大丈夫なの?」
「うん。今は平気。それでね、最近ね、お腹がぐるぐるしたり、胸がどきどきするの。あのね、痛くはなくて」
「ええ。お腹や胸が変なのね?ちょっと見せてね」
母は、マリアの額に手を当てたり、顔をじっと見たり、お腹や背中を見たりした。
他にも、マリアの手や足を触って、マリアの様子をよく確認した。
「熱は、ないわね。今は本当に痛そうでもない。変に力が抜ける様子もないし、顔色も肌も変わりはない、となると……」
母は、困った顔をして、マリアの涙を優しくぬぐった。
「様子を見るしかないかしら……。マリア、また変な時があったら、その時すぐに教えてくれる?」
「うん……!」
「いい子ね。マリア、今日はもうアレン様には帰っていただきましょう。あまり良いことではないけれど。
そして、お母様と一緒にゆっくりしましょうね。本当によく頑張ったわ。怖かったわね、マリア」
「うん、ほんと?本当に今日は一緒にいてくれるの?」
「ええ。そうと決まったら、アレン様にご挨拶をしに行きましょうね。彼に謝らなくては」
いつの間にか、いなくなっていたアレンに会いに、母と手をつないで、マリアは客間に向かった。




