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マリアの願い【長編版】  作者: 井上笑子
第二章 心を閉ざした子ども

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8/16

六 リリアが元気な日

 天歴772年 初秋

 マリア7歳

 

 その日は珍しく、リリアに熱がなかった。

 

 朝食の席に、リリアもいて、マリアは目を丸くして笑った。

「リリア!今日は起きてて大丈夫なの?」

「うん!……あ、おはようございます。お姉さま」

「おはようございます、リリア。なんだか久しぶりにリリアにあいさつした気がするわ!」

「そうかも。たしか……8日ぶりですね。本当に久しぶり。ふふ」

「うふ、ふふふ」

 笑いあう姉妹に、母や使用人たちも微笑む。

 リリアが元気な日は、みんないっぱい笑うのだ。

 

 リリアの席の前には、パンがゆだけ置かれてる。

 私の前には、丸パンに、コーンスープ、サラダ、卵にベーコン。

 リリアがかわいそうだけど、私のをあげちゃいけないんだって。

 おなかがびっくりしちゃうらしい。

 リリアもちょっとしょんぼりしてるのに。


「お姉さま、今日は一緒に遊んでもいい?」

 ふいにリリアからそう聞かれて、マリアは母を仰ぎ見た。

 母はちょっと考えて、頷く。

「お茶会か、お絵描きか。大人しく遊ぶのならいいわ。マリア、遊んであげてくれる?」

「もちろん、いいわ!でも、今日はアレンが来るから、聞いてからでいいかしら?」

 母の許しを受けて、マリアがうなずけば、リリアは顔を輝かせた。

「本当ですか!?お姉さま。アレン様がお許しくださったら、リリアも一緒にいいの?」

「ええ。アレンがいいって言ったらね。きっと許してくれるわ」

 

 

 午後、アレンがやってきて、玄関ホールで、リリアを見て、目を丸くする。

「今日はリリア嬢も一緒に?」

 アレンは大人ぶって、母に聞いた。

「ええ。お許しくださる?」

「……はい。そうすると、今日は屋敷内で遊ぶのか?マリア」

「ええ。今日はまずお茶会をするのよ!いいかしら?」

 マリアが不安になって、アレンを見上げると、アレンは一瞬唇を噛んだ。

「……もちろん、いいさ。でも、今日は一緒に鍛錬をする約束だったろ?それも忘れるなよ」

「ええ!もちろんよ」

 

 アレンの了承をもらい、皆で庭先のテーブルセットに向かう。

 そこでは、すでに、お屋敷のみんながお茶の用意をしていた。

 マリア、リリア、母、アレンの順で、円を描いて、席に着く。

 お茶の用意をしてもらいながら、母が最初に話し始めた。

「今日は、急に混ぜてもらってごめんなさいね、アレン様。マリアと何か約束を?」

「まあ、はい。剣の鍛錬を一緒にするって約束をしていて」

「まあ!マリアと?」

 アレンの言葉に、母が鋭く私を見た。

 

 アレンったら、それも内緒だって言ったのに。

 後で、絶対お母様から叱られてしまうわ。

「それより、リリアの話をしましょうよ。リリアが今日は元気なんだから」

「ふぇ?」

 急に話を振られたリリアが、変な声を出す。

「リリア、あなた話したいことないの?いつもしてることとか?今日したいこととか?」

「えーと、あ!アレン様にお礼が言いたいです」

「俺に?」

「ええ!いつもお花をありがとうございます。お姉さまが、いつもアレン様が選んでくれたって」

 頬を染めて恥じらうリリアに、アレンは、眉をしかめた。

「確かにいつもマリアと花を探すけど、それはマリアが君にって」

「え?そうなんですか?」

「そうよ!私がリリアにあげたかったから」

「まあ!じゃあ、二人ともありがとうございます。リリアは、お花があると部屋が明るいから、好きです」

「そうなの?やっぱりね!よかったわ」

 お喋りする私たちを、母や侍女たちは、優しい目で眺めていた。


「それでね、お姉さま!……けほっ!けほけほ、」

「リリア!大丈夫?」

 夢中になりすぎたのか、リリアがふいにせき込んだ。

「リリアには、外は寒かったかしら?屋敷に戻りましょうか?」

「おかあさま、リリアは平気です。まだここに居たい」

「いいえ、熱がまた上がっているわ。戻りましょう。マリアはどうする?」

 母は、リリアの額に手をやって熱を測ると、リリアのひざ掛けを取って、立たせる。

 マリアも、席を立とうとすると、アレンに袖を引かれた。

「マリア、約束」

「……お母様、私はアレンと遊んでいるわ。リリア、またあとでね」

 立ち上がったアレンに手を引かれ、マリアは庭の中へ駆け出した。

 「いいなあ」そんな声が聞こえた気がした。

 

 

 アレンは、マリアを庭の端に連れてくると、木剣を取りに厩舎に向かった。

 待たされるマリアは、テーブルセットのあったところを振り返る。

 そこにはもう誰もいなかったが、瞼の裏には先ほどの名残がまだ残っている。

「リリアは、いいな……」

 お母様やみんなに構われて。

 マリアは自分がそうつぶやいたことに驚いて、首を大きく振った。

 

 アレンの呼び声が聞こえる。

 行かなくちゃ。

 マリアは振り返って、アレンの元へと走り出した。

 

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