五 病弱な妹
天歴772年 夏
マリア7歳
その日も、リリアは熱を出した、らしい。
起きたら、いつものように、私の侍女が教えてくれた。
「マリア、今日は1人で遊んでいてくれる?」
「今日もでしょ?」
「そうね……ごめんなさいね、マリア。いつも構ってあげられなくて」
「仕方ないわ。だってリリアはご病気だもの。今日はアレンは来ないの?」
「ええ……。あの子もいつも来られるわけではないのよ」
「仕方ないわ。私、今日は部屋でお絵描きしているわ!」
朝食の席で、母が暗い顔をして謝るので、マリアはちょっとだけお姉さんの顔をして、胸を張った。
「いつもありがとう。ごめんなさい、マリア。お昼ご飯はまた一緒に食べましょうね」
「いいのよ。お母様も看病頑張って」
母の顔は、疲れが見えた。
看病疲れで美人さんが台無しって、みんなが噂してる。
お母様も、リリアも、屋敷のみんなも、大変なんだって。
だから、「マリアお嬢様が大人しくて助かります」っていつも皆言うんだ。
私も、部屋に戻って、お絵描きしなくちゃ。
「はあ、忙しい、忙しい」
そう大人の真似をしながら、マリアは自室に戻った。
マリアがお花を描いていると、専属侍女が廊下が騒がしいことに気づいた。
「まあ……何かあったのかしら?」
「え!?大変!」
マリアが重大事だと椅子から立ち上がると、侍女がするりと近寄ってきて、止めてくる。
「マリアお嬢様、ここで私と待っていましょうね。皆今は忙しいですから。大丈夫です。何かあれば、皆お嬢様のことも呼んでくれますよ」
「そう……そうかな?みんな呼んでくれるかな?」
マリアが不安になって聞き直すと、彼女は笑って、頷いてくれた。
「ふふ、ええ。きっと呼んでくれますよ」
「ふうん、そっか」
「さ、お絵描きの続きをしましょう。次は何を書きますか?」
侍女に促され、マリアはまたクレヨンを握った。
お昼ご飯の時間になって、食堂に行っても、母はいなかった。
「約束……きっとリリアが何かあったんだわ」
マリアが1人席に着くと、屋敷の料理人が食事を並べ始めてしまう。
「ねえ、お母様は?」
「あ、はい。奥様は、リリアお嬢様の診察に付き添っておられますよ」
「……そう」
マリアには、美味しそうなパンやスープが、急に色褪せて見えた。
「そっか」
「あの、マリアお嬢様、」
「大丈夫よ。仕方ないものね」
マリアは心配してくれる料理人に、にっこり笑い返して、スプーンを手に取る。
「美味しそうね!いただくわ」
「はい、お召し上がりください」
そう言って礼をとって、料理人は下がった。
夜、お母様から手紙が届いた。
手紙でもお母様は謝っていた。
お昼ご飯が一緒にできなかったこと。
忙しかったとはいえ、行けないことを伝え忘れていたこと。
今日悲しかったことは、どっちも謝ってくれた。
だから、許してあげるんだ。
「ごめんね」って言われたら、「いいよ」っていってあげる。そう教わったもの。
だから、寝る前に、急に寂しくなって、王都にいるお父様を何回も呼んでしまったのは、私だけの秘密。




