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マリアの願い【長編版】  作者: 井上笑子
第二章 心を閉ざした子ども

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7/16

五 病弱な妹

 天歴772年 夏

 マリア7歳


 その日も、リリアは熱を出した、らしい。

 起きたら、いつものように、私の侍女が教えてくれた。

 

 「マリア、今日は1人で遊んでいてくれる?」

 「今日もでしょ?」

 「そうね……ごめんなさいね、マリア。いつも構ってあげられなくて」

 「仕方ないわ。だってリリアはご病気だもの。今日はアレンは来ないの?」

 「ええ……。あの子もいつも来られるわけではないのよ」

 「仕方ないわ。私、今日は部屋でお絵描きしているわ!」

 朝食の席で、母が暗い顔をして謝るので、マリアはちょっとだけお姉さんの顔をして、胸を張った。

 「いつもありがとう。ごめんなさい、マリア。お昼ご飯はまた一緒に食べましょうね」

 「いいのよ。お母様も看病頑張って」

 

 母の顔は、疲れが見えた。

 看病疲れで美人さんが台無しって、みんなが噂してる。

 お母様も、リリアも、屋敷のみんなも、大変なんだって。

 だから、「マリアお嬢様が大人しくて助かります」っていつも皆言うんだ。

 

 私も、部屋に戻って、お絵描きしなくちゃ。

 「はあ、忙しい、忙しい」

 そう大人の真似をしながら、マリアは自室に戻った。


 

 マリアがお花を描いていると、専属侍女が廊下が騒がしいことに気づいた。

「まあ……何かあったのかしら?」

「え!?大変!」

 マリアが重大事だと椅子から立ち上がると、侍女がするりと近寄ってきて、止めてくる。

「マリアお嬢様、ここで私と待っていましょうね。皆今は忙しいですから。大丈夫です。何かあれば、皆お嬢様のことも呼んでくれますよ」

「そう……そうかな?みんな呼んでくれるかな?」

 マリアが不安になって聞き直すと、彼女は笑って、頷いてくれた。

「ふふ、ええ。きっと呼んでくれますよ」

「ふうん、そっか」

「さ、お絵描きの続きをしましょう。次は何を書きますか?」

 侍女に促され、マリアはまたクレヨンを握った。


 

 お昼ご飯の時間になって、食堂に行っても、母はいなかった。

「約束……きっとリリアが何かあったんだわ」

 マリアが1人席に着くと、屋敷の料理人が食事を並べ始めてしまう。

「ねえ、お母様は?」

「あ、はい。奥様は、リリアお嬢様の診察に付き添っておられますよ」

「……そう」

 マリアには、美味しそうなパンやスープが、急に色褪せて見えた。

「そっか」

「あの、マリアお嬢様、」

「大丈夫よ。仕方ないものね」

 マリアは心配してくれる料理人に、にっこり笑い返して、スプーンを手に取る。

「美味しそうね!いただくわ」

「はい、お召し上がりください」

 そう言って礼をとって、料理人は下がった。



 夜、お母様から手紙が届いた。

 手紙でもお母様は謝っていた。

 お昼ご飯が一緒にできなかったこと。

 忙しかったとはいえ、行けないことを伝え忘れていたこと。

 今日悲しかったことは、どっちも謝ってくれた。

 だから、許してあげるんだ。

「ごめんね」って言われたら、「いいよ」っていってあげる。そう教わったもの。


 だから、寝る前に、急に寂しくなって、王都にいるお父様を何回も呼んでしまったのは、私だけの秘密。


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