四 花を摘む二人
天暦772年 春
マリア7歳
「マリア、あっちにいい花があったよ!」
「ほんと!?今行くわ、アレン!」
マリアは、立ち上がって、ドレスについた芝を払った。
振り返った先には、幼馴染のアレンが、手を差し出している。
二人は手を重ねると、お庭のおじいさんが待つ花壇へ向かった。
「おや、お嬢様。本日も、花探しですかな?」
「そうなの、アレンがね、きれいなお花がここにあるって、連れてきてくれたのよ!」
庭の片隅、花壇の手入れをしていたお庭のおじいさんが、2人に向き直った。
マリアは、にこにこ笑顔で、アレンと繋いだ手を揺らす。
2人はよく、シャルメリア家の庭で、遊び回っていて、仲良しの友達だ。
親たちはやれお似合いの婚約者だなんだと言うけれど、2人には、よくわかっていなかった。
「今日も俺の勝ちなんだよ!」
「ちがうわ、アレン!競争じゃないって、いっつも言ってるじゃない!これはリリアのためのお花なのよ!」
「はいはい。君の妹のね」
アレンが自慢げに胸を逸らせば、マリアは膨れっ面をして妹の話をする。
アレンにとっては、つまらない話だ。
友達のマリアのことはよく知っていたけれど、その妹なんて会ったこともほとんどない。
花探しだって、アレンにとっては、マリアとの競争遊びに過ぎなかった。
「それじゃあ今日は、うーんと、このお花にする!
お庭のおじいさん、このお花をくださいな!」
にこにこ笑顔で、妹のために花を選ぶマリアの後ろで、アレンはつまらなさそうにそっぽを向いた。
この後、マリアは妹の部屋に行って、花を届けに行くんだろう。
いつものように。
俺と遊んでたのに。
俺の友達なのに。
アレンは友達を盗られたような気分になって、唇を噛む。
病気の女の子の部屋だから、アレンは入れない。
アレンはいつもちょっとだけ待たされる。
それがいつも面白くない。
「アレン!」
アレンが上の空になっていた時、マリアが目の前に寄ってきていた。
「うわ、びっくりした!なに?」
「これがアレンの見つけたお花でしょう?すごくきれいね!」
それは、アレンが見つけた花ではなかった。
否定しようとしたアレンにお構いなく、マリアは喋り続ける。
「リリア、きっと喜ぶわ!」
「今日は元気だといいなあ」
「昨日は少し熱があったの」
ちがう花だったけれど。
「アレンも一緒に選んでくれたって言うわね!」
目の前のマリアの楽しそうな顔に、アレンはちょっとだけ気持ちを持ち直した。
マリアが選んだ花は、俺が選んだ花じゃないけど、同じくらい綺麗だ。
「わかった。行ってこいよ。俺、待ってる。」
「ええ!行ってくるわ。すぐに戻るわね!」
「ほんとにすぐに帰ってこいよ。待ってるからな、マリア」
そして、その日も、アレンを置いて、マリアは、屋敷へと、楽し気に駆けていった。




