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マリアの願い【長編版】  作者: 井上笑子
第一章 選ばれなかった娘

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二 サロンにて②

「え?」

 何を言われたのかわからないと言うような顔をするアレンに、マリアは畳み掛ける。


「ですから、当家の娘と貴方の婚約は、リリアと貴方で本決まりになりそうですわ。よろしい?」

 ざわっと辺りが一層騒がしくなる。


 アレンは完全に動揺していて、すっかり目を白黒させている。

「君は、何を言ってるんだ……?」


 無理も無い。

 彼と妹は当事者にも関わらず、婚約が変更になったことを何も知らされていないのだから。

 両親たちの意向だった。

 彼と妹がどう選択するのか見たい、と。

 そして、二人は互いを選び、その上で互いに手を伸ばさないことを選んだ。

 きっとぎりぎり及第点をもらえるだろう。

 二人の回答次第では、罰もあり得た。

 こうやって公で勘違い者として扱われるのも罰であるけれど、それ以上の罰だってあるかもしれないのだ。



「どう言うことなんだ一体……。だって、その婚約は俺と君の……」

 混乱をあらわにするアレンに、それこそわからないと言う顔をして、マリアはさらに重ねる。

「何を勘違いされていらしたのかわかりませんけれど、その婚約は私と貴方のものではありません。

 当家の娘と貴方のものなのです。ここまでよろしい?

 そして、この度、貴方の婚約者が正式にリリアに決まりそうですわ。

 そこで当事者の意見も聞きたいと父母に言われていましたの。

 貴方としては、リリアはどう思います? これから先、辛いことがあっても、互いに支え合えますか?

 ……と、お聞きしたかったのだけれど、まさか貴方にお好きな方ができてしまったとは———しかも、その方しか愛せないなんて情熱的な恋だなんて。

 これは両親たちに知らせて、そちらの家と相談してもらいませんと……」


 呆然と話を聞いていたアレンは、急にハッと何かに気づいた顔をして、言った。

「まさか君、俺とリリアの仲を知って、手を回して……!」

「まあ! お相手はまさかリリアでしたの? なら問題ありませんわね。このまま話を進めるように報告しておきますわ。それで、お話はそれだけですの? そう言うことでしたら、私はこれで失礼いたしますわ。そろそろ迎えの馬車の時間ですの。では、ご機嫌よう」


 苦虫を噛み潰したような複雑そうなアレンの横をすり抜け、一言囁いてから、颯爽とサロンを出る。

「お幸せに」


 アレンはすれ違ったマリアを勢いよく振り返って、泣き笑いの表情で見送った。






 アレンは生まれる前から私の婚約者だった。

 私たちが生まれる前に仲のいい両親たちが約束して、そうなったらしい。

 実際は家の力関係とか、赤子の性別だとか考えてのことだったのだろうけれど、とにかくアレンの婚約者は、確かに私だった。

 私たちは共に育った。

 共に庭を駆け、病弱だったリリアに花を届けにいき、共に剣を振り回し……。

 私たちの間に燃え上がるような恋はなかったけれど、共に歩むような愛を育んでいけると思っていた。

 そうして、朗らかな笑いに溢れる幸せな家族になっていくのだと。

 それは私だけだったみたいだけれど。






 ———私は夢を諦めない。

 そのためなら、命だって捨てて見せる。

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