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マリアの願い【長編版】  作者: 井上笑子
第二章 心を閉ざした子ども

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十三 扉越しのすれ違い

 喧嘩の翌日 朝

 

 マリアは、寝苦しさに目を覚ます。

 全身にじっとりと汗をかいていた。

 うとうとしていたら、ちょっと寝てしまったらしい。

 カーテンの隙間から明るい陽の光が差し込んでいる。

 

「タオル……。どこだったかしら?」

 マリアは、ベッドの中から寝室の中を見渡し、侍女の普段働きを思い出す。

 ふらふらと隣の居間の方へ向かう。

 タイミングよく、ノックの音がした。

 マリアは肩をびくりと震わせる。


「マリア、起きている?昨日はごめんなさい。……あの、一緒に朝食を食べましょう?」

 扉の向こうからお母様の声がして、マリアは耳を塞いだ。

 息を潜めて、身じろぎ一つにさえ気を遣った。

 今はまだ会いたくない。

 

「マリア?……寝ているのかしら?」

 母はマリアが寝ていると勘違いしたらしい。

 扉の向こうで物音がする。

 しばらくすると、母は扉の前に何かを置いて、去ったらしい。

 何を置いていったんだろう?

 悩んだ末に、マリアは、そっと扉を細く開けた。

 開けた扉の横に、軽食と、手紙が置かれていた。

 マリアは周囲に誰もいないことをひっそり確認すると、お皿と手紙を中に入れた。

 マリアは震える手で、手紙を開けた。

 手紙にはこう書いてあった。


 マリアへ

 きのうは本当にごめんなさい。

 ごはんをおいておくから、食べれるだけ食べなさいね。

 いつもかまってあげられなくて、ごめんなさい。

 リリアがおねつだからって、さびしい思いをさせてばかりで。

 成長おめでとうのパーティは、春になったらすぐにひらくわ。

 リリアもいっしょに、みんなでよろこびたいの。

 どうかゆるしてね。

 あなたにあいをこめて。

 マリアとリリアのお母様より


 マリアは、そのお手紙を読んで、顔をくしゃりと歪めた。

 涙が溢れてくる。

 そういうことじゃない。

 そういうことじゃないのよ、お母様。

 どうしてわかってくれないの?

 やっぱり私を一番愛しているのは、私だけなの?

 ……きっとそうだわ。

 マリアは流れる涙を拭って、手紙を丁寧に畳む。

 そして、ソファに座って、もそもそと食事を始めた。

 食べたくないけど、食べて、早く治さなくちゃ。

 ちょっとでも早く素敵な大人にならないと。

 でないと、私、皆のこと本当に嫌いになっちゃうわ。

 1人で食べるご飯は、やっぱり胸に風が吹くように寂しかった。

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