十四 必要のない経験
喧嘩の翌日 午前中
タオルは、マリアの部屋の家事室にあった。
マリアには、家事室が何をする部屋かは、わからない。
マリアの侍女は教えてくれたけれど、ちょっとまだ難しかったのだ。
けど、侍女が、この部屋でお茶を淹れたり、タオルを用意しているのは知っていた。
初めて入った家事室は、マリアの居間や寝室に比べると、ずっと狭くて、ごちゃごちゃしていた。
「タオル、どこかしら……?」
体はすっかり汗まみれで、気持ち悪い。
タオルは、パッと見回した限り見つからない。
マリアは、手近な棚から片っ端に調べ始めた。
低い棚から調べて、高い棚は椅子を持ってきて開ける。
そうやって、ようやく家事室の配置を知ったマリアは、タオルを数枚取って、寝室に戻った。
そして、寝室から水差しを持ってきて、家事室の水瓶から、水を汲み取る。
体が重くて、半ば足を引きずるようにして、マリアは動いた。
元気なら大した距離ではないのに、今は何十倍も長く感じる。
気持ちばかりが焦って前のめりになり、転んだりもした。
それでも、マリアはもう泣かなかった。
素敵な女性は、一度決めたら、泣かずに、それを貫き通すのだ。
約束は守る。それが素敵な女性の秘訣だって、前に教えてもらったもの。
水差しを持って、慎重に寝室に戻ったマリアは、それをベッド横の小さな棚に置いて、自分はベッドに座って、ドレスを脱ぐ。
昨日お母様と喧嘩してからずっとドレスのままだった。
マリアは、四苦八苦しながら、ドレスを脱いで、タオルで体を拭いた。
その間も、ずっと荒い呼吸音が、部屋に響く。
マリアは下着姿のまま寝室の一面にあるウォークインクローゼットに向かった。
この部屋も入ったのは初めてだった。
かけられている沢山のドレス。
「私、こんなに持っていたの……?」
見覚えのあるものも、ないものもある。
「あれは、どこかしら……?」
探していたネグリジェは、クローゼットの隅にあった。
マリアは、ネグリジェに袖を通し、ベッドに戻った。
洗濯物は、クローゼットの隅にあった大きな蔦籠に入れた。
熱が治ったら、洗濯を頼まなくちゃ。
……早く治さないと。
マリアは、ベッドに潜って、目を瞑った。




