十二 知られたくない熱
喧嘩の翌日 早朝
翌日、まだ日も昇っていない早朝、マリアは寝苦しさに目を覚ました。
どうして、私、ベッドの中にいるの?
誰か運んで……?
——ううん。ああ、そっか。昨日、すっごく寒くて、這いながら、自分でベッドに移動したんだ。
すっごく体がだるいし、熱い。
いつだか、ずっと小さい頃にお熱を出した時みたい。
お熱…?今、私熱を出してるの?
マリアは自分の腕で、自分の体を抱きしめた。
お熱が出たなら、お母様たちにもわかってもらえるかも。
でも、……言いたくない。
だって、何回も言ったのに、信じてくれなかったもの。
お母様たちは、リリアの方が大事なんだ、きっと。
そう、リリアだけが。
だから、リリアのことは、信じるし、許すんだ。
なら、私を一番大事にしてくれるのは?……そんな人、私だけだ。
私が一番私を大事にできる。
だったら、私は、私が大好きになれるような素敵な人にならなくちゃ。
でも、お母様のことも、リリアのことも、皆のことも許したくないの。今はまだ。
それってきっと悪いことよ。
だって、本当は、「ごめんね」って言った人のことは、許してあげないといけないの。
マリアは、熱でつらい体を何とか起こした。
ノックの音がする気がする。
マリアが、寝室の隣、自分専用の居間に向かうと、扉の向こうから声がした。
「お嬢様、起きていらっしゃいますか?」
あ、そうか。もういつもなら呼んでる時間なんだ。
マリアは、ちょっと悩んで、返事をした。
「起きてるわ」
「扉を開けてくださいませんか?マリア様。朝の支度をさせてください」
「要らない。放っておいて」
マリアが拒絶すると、侍女は息を呑んで、しばらく黙った。
「……承知いたしました。何かあれば、すぐに呼んでください。呼んでいただければ、すぐに参ります。
支度用の桶と水差しは、ここにおいておきますね」
彼女はそう言って、去っていった。
足音が遠ざかる。
「……行っちゃった」
マリアは小さく呟いて、耳を澄ませて、扉の向こうの気配を探した。
本当に誰もいないみたい。
……本当に行っちゃうんだ。
マリアは、眉を下げて、鼻を啜った。
マリアは重苦しい体をなんとか動かして、廊下からそっと飲み水用の水差しだけ取り、また寝室に戻った。
誰も来てはくれない。
扉も鍵をかけっぱなしで、今は誰とも会いたくない。
なら、自分で寝て、食べて、治さないと。
マリアはベッドに横になりながら、そっと涙を溢した。




