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マリアの願い【長編版】  作者: 井上笑子
第二章 心を閉ざした子ども

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十 優しい声

 天暦772年 冬

 マリア7歳


 その日、マリアは、自分の部屋の暖炉の前で、積み木をやっていた。

 そばにはマリアだけの侍女がいて、一緒に遊んでくれていた。

 パチパチと木が燃える音、時々の話し声だけの静かな部屋に、だんだん廊下から、騒がしい声たちが入ってくる。


「治癒師の先生はまだ?リリア様が急に咳き込みが酷くなったって」

「まだいらっしゃってない。お嬢様の容体は?」

「なんとも言えないわ……。奥様や専属侍女がついてるけど、ひどい咳なの」

 そんな皆の声が廊下から響く。

 お母様の叫びまで、聞こえた。

「誰か来て!リリアが吐いたわ!先生はまだ?」

「奥様!すぐに!先生はまだいらっしゃってません!」

「誰か早馬を出して!……大丈夫よ、リリア。お母様がついてるわ!」

 廊下が、すごく煩い。

 皆忙しそう。

 リリアの具合が悪いみたい。

 マリアは、急に寂しくなって、手で耳を塞いだ。

 侍女が、マリアを抱きしめてくれる。

 あったかい。

 でも、その侍女も厳しい顔で廊下の方を向いている。

 お腹が変。ぐるぐるする。痛い。

 

「……ねえ、」

「はい。どうしました?お嬢様」

「あのね……やっぱりなんでもない。あの、続きをしてもいい?」

「……そうですか。マリア様、大丈夫ですか?」

「……うん。平気!平気なんだよ、ほんとに」

「……わかりました。何かありましたら、いつでもお申し付けくださいね。さあ、次は何を作りますか?」

「うんとね、お城!」


 マリアはもう正直に言うのが怖かった。

 また困らせたらどうしよう

 今度こそ嫌われたらどうしよう。

 そう思ったら、もう口にはできなかった。

 だって、こないだお母様も言っていたもの。

「マリア、寂しいなら、そのまま素直に言いなさい。病気だなんて、嘘をついてはいけないわ」って。

 お母様は優しい声だった。

 嘘じゃないのに。

 私の言うことは信じてはくれないんだ。

 その時も見てもらった時にはもう消えてたから?

 リリアと違って、いつもは元気だから?

 痛いのは本当なのに。

 寂しいのも本当だけど……でも、言っても、そばにいてくれるの?

 そんなこと信じられない。


 お母様だって、嘘つきのくせに。

 マリアはちょっと唇を尖らせて、侍女と城を作り始めた。

 

 

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