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マリアの願い【長編版】  作者: 井上笑子
第二章 心を閉ざした子ども

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九 仮病の噂

 天暦772年 晩秋

 マリア7歳

 

 「そうなの?マリアお嬢様がねえ」

 その日、庭で隠れんぼしていた時、下働きの女中がそう話すのを聞いた。

 マリアは肩を震わせて、植木に身を隠す。

 盗み聞きなんてダメなことなのに。

 でも、私の名前を言ってた。

 マリアは、謝りたい気持ちになりながらも、その場を離れられなかった。


 マリアに気づかない女中たちは噂を続ける。

「でも、仕方ないんじゃないかしら?お嬢様もお寂しいのでしょうから」

「奥様ももう少し構ってあげればいいのにね」

「それは……。奥様がリリアお嬢様が心配なのもわかるわよ。よくお熱が高いって聞いたわ」

「そういえば、リリアお嬢様って何かの病気なの?」

「さあねえ。何か特定のご病気とは聞かないけど……」

「でも、熱が高いのは確かなんでしょう?契約してる治癒師の先生がよくお見えになるって聞いたわよ」

 女中たちは、洗濯物をしながら、揃ってため息を吐く。

 みんな顔が曇っていた。

 

「それに比べて、マリアお嬢様はお元気だから……」

「でも、マリアお嬢様のご様子見てると、お可哀想よね」

「確かに」

「でも、だからって、病気だって嘘をつくのはよくないんじゃないの?」

 マリアは肩を跳ねた。

 嘘だって思われてるんだ。


「それは言い過ぎじゃない?嘘と決まったわけではないでしょう?それにお気持ちもわかるわよ」

「でも、奥様や侍女が確認するときには、何もないんでしょう?奥様にそばにいてほしいだけじゃないの?」

「たとえそうだとしても、本当に痛いのかもしれないわ。私、病気の一部は気持ちの持ちようとも聞いたことあるの」

「寂しいから、頭やお腹が痛むってこと?本当にあるの?そんなこと」

「あるらしいわ。街の治癒師のサムソンに聞いたもの」

「サムソンって、あの美丈夫の?あんた知り合いなの?」

「やだ、知り合いってほどじゃないわよ」

「ふうん。でも、気があるんでしょう?」

「やだ、ちょっと。……まあ、ちょっとは、気にしてくれればいいなとは思うけど」

 女中たちの高い笑い声が上がった。

 話がわからなくなったので、マリアはそっとその場を離れる。


 庭をとぼとぼと歩く。

 頭の中も心も、ぐるぐるして、気持ち悪かった。

 みんな、私が言ってること、嘘だって思ってるんだ。

 私、嘘ついてないのに。

 痛かったのも、変だったのも、本当だもん。

 ……気持ちで、病気になるって本当かな?

 リリアが羨ましい。

 お母様がいなくて寂しい。

 それで、本当に病気になるの?

 ……私、変なのかな。

 

「マリア!」

 アレンの声がして、マリアはハッと顔を上げる。

 すっかり、アレンとの隠れんぼを忘れていた。

「マリア、隠れてないじゃん。……どうしたの?」

「何でもない!今隠れるから、もうちょっとだけ待ってて」

「ふうん?まあ、いいよ。待ってるから、早く隠れてよ」

 マリアは、目を瞑るアレンを置いて、庭を駆け出した。

 

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