6話 二体目の魔獣討伐(聖女ジェシカ視点)
今回は聖女ジェシカの視点の話になります。
聖女ジェシカは隠者の森に来てからすべてが気に入らなかった。
口だけは達者で何も問題解決のできない賢者ルカ。魔導の事ばかり考えている奴だと思っていたが、魔王討伐の旅が滞っている今も魔導の事しか考えていない大魔導士ルル。
――そしてどんな未来を見たかは知らないが、魔王討伐の旅を滞らせ、私の好意に気が付いているはずなのにあんな下っ端神官を傍に置く勇者アーデルハイド。
現在勇者パーティーの四人は二体目の超強力魔獣の討伐に向かっている。
拠点キャンプを出る前にアーデルハイドから大まかな討伐工程の共有がなされてから、彼は一度もパーティーの誰とも会話らしい会話をしていなかった。
賢者ルカが何度か会話を試みていたが「ああ」だの「そうか」だの生返事しか返ってこない。
無難な事ばかり聞くからそうなるのだ。
「…アーデルハイド様。踏み込んだことを聞きますが、あなたはあの神官の今後の事はちゃんと考えていますか?彼女とあなたでは生きているステージが違います。この度限定とはいえ、あのような特別な役割を与えるなど…。彼女の今後におかしな影響がでるかもしれませんよ?」
聖女ジェシカはアーデルハイドに行動を改めて欲しかった。
彼にしっかりあの下っ端神官との関わり方を教えてあげたかった。
聖女ジェシカの言葉に、今まで生返事しか返さなかったアーデルハイドが言葉らしい言葉を返しはじめる。
「おかしな影響?いったいどんな影響がある」
「既に一部の後方支援部隊の者たちからは分不相応な評価を受け始めています。あなたのお心を支える大事な仕事を与えられた神官…などといった評価です」
「…別に間違った評価ではないだろ。討伐出立前にルカから彼女に伝えた言葉もそんな内容だったし、事実彼女には俺にのみ時間を使わせて支えてもらっている」
「ルカ様の言葉はただの方便でしょう!それに…あなたは話す相手を間違えています!彼女ではなく、私たちと話せばいいではないですか!」
共に魔物や強力魔獣を討伐しているのは自分勇者パーティーのメンバーだ。同じ民を導く立場であり、今後の魔王討伐後の人生においても、近い位置で歩んでいくのも。
だというのに…。
「ルカにも前に言っただろ。君たちだからこそ話したくないんだ。君たちの死ぬ可能性の未来の話を本人にしたくない」
「そんなお気遣いは必要ありません!アーデルハイド様のやさしさは嬉しいですが…私たちはそんなに弱くない。そうでしょルカ様、ルル様!」
聖女ジェシカの呼びかけに、ルカとルルもしっかりと頷いた。
「ええ、死ぬ覚悟ならこの度に出た時に既に固めてきました。賢者として、アーデルハイドからどんな未来を聞いても受け止めてみせます」
「私は魔導以外どうでもいいからね。自分の死はともかく、隠者の見せる未来がどんなものなのか魔導の観点から聞くのにためらいはないよ」
「アーデルハイド…これが私たちの総意です。彼女ではなく、私たちに頼ってください。…討伐の事以外でも、私はあなたを支えたいと思っています。」
我が意を得たりと聖女ジェシカはアーデルハイドに迫った。
あんな下っ端神官の助けなど、私たち勇者パーティーにふさわしくない。
後方支援部隊の一員らしく、拠点キャンプの維持だけ考えていればいいのだ。
勇者パーティー全員の総意で、彼の見た未来を受け止められると言ったのだ。
アーデルハイドも考えを改めてくれるはず。
だが…。
「…君たちは本当に、俺の気持ちには興味がないんだな」
それきり彼は魔獣討伐の話題以外、一切返事を返すことはなかった。
◇◆ ◇
魔王の治める地の東側に、死者の群れを引き連れた腐肉を好む蠅の王が住んでいた。
昆虫の見た目でありながら死の魔獣と魔王の治める地で呼ばれるこの魔獣の生息域には生きているものは何一つ存在していない。生き物の気配を感じると、正者を羨む死者と蠅の群れに取り込まれ、たちまち同じ死者に変えられてしまうのだ。
そんな死の土地に四人の人間が足を踏み入れた。
彼らはまるで自分たちの死の気配を知っているかのように、死者の群れをかいくぐり、蠅の王のすぐ傍までたどり着いた。
死の魔獣は、彼らを食らいつくそうと方々に散らばっていた配下の蠅すべてを終結させ、四人を群れで飲み込んだ。
それを予測していたのか、聖女と思われる人間の女が事前に練り上げていた聖なる光を空へと解き放った。
聖なる光を至近距離で浴びた蠅たちは、一匹残らず全て塵と化し、残った死者たちは統制を失くし互いに殺し合いを始めた。
――死の大地には、ついに死者すら存在しなくなったのだ。




