4話 一体目の魔獣
「これより一体目の超強力魔獣の討伐に向かう!後方支援部隊はこのキャンプの維持に努めよ!」
賢者ルカ様の号令がキャンプに響いた。
前日のお通夜状態だったキャンプとは大違いで、みな前向きな熱気に包まれている。
あの後勇者パーティーのキャンプに連れていかれたアーデルハイドは、強力な魔獣の事や魔獣の最低限の討伐過程を皆様に話していたらしい。
「私と話してる場合じゃないと思うんだけどな…」
「勇者様にとってはニコルと話すのはとっても大事な事なんだよ!なんかロマンチック!羨ましいな…」
「いや、ロマンチックさなんて皆無なんだよ?ただ相槌うってただけだし」
昨日からローズは何が楽しいのかとても明るい。
こっちはただただ気疲れが凄い。後方支援部隊のみんなには遠巻きにされるし、勇者パーティーの皆様にはアーデルハイドのやる気をそぐなよというふんわりした圧を受けるし。
特に夜中にテントにやってきた聖女様は強烈だった。
お三方で神官のテントに訪れて今後の決定事項を伝えられた後、改めてお一人で私を訪ねていらっしゃって聖母のような笑みを浮かべながら私の手を握りしめて言ったのだ。
「今の彼には多くの支えが必要です。一神官の立場で恐れ多いと感じているでしょうが、今は世界の危機。みな身分差による無礼は目をつぶるでしょう。本来ならわたくしがあなたの役割を果たすべきでしたが…わが身の至らなさに不甲斐ない思いです。…今は彼を預けます。…頼みましたよ。」
きれいな言葉でごまかされているが、明らかに嫉妬されていた。
討伐に向かう勇者パーティーの四人を皆で見送りながら、これからの事に思いを巡らす。
勇者様方には魔王討伐まで頑張っていただくのはもちろんだし、それを全力で支えるのは私たち後方支援部隊の使命だ。だが、それ以外にも気を配らないとまずいかもしれない。
そもそも聖女様は気にしすぎなのだ。自分でもおっしゃっていたが、私はただの神官。
勇者とどうこうなる人間じゃないし、本当にただ話を聞いているだけで聖女様の立場を脅かすようなことあるはずがない。
聖女様と今度お話する機会があれば、そのことをちゃんと伝える必要がある。
そんな事を考えている間に、勇者パーティー四人の背は森の木々の間に見えなくなった。
◇◆ ◇
魔王の治める地の西側に、強風をまとった上半身が人間女性下半身が猛禽類の翼をもつ魔獣が住んでいた。
嵐の魔獣と魔王の治める地で呼ばれるこの魔獣の生息域は常に嵐が巻き起こり、同族であるはずの魔物たちも近づけぬ危険地帯だった。魔獣の発生させる風に触れたが最後、その体は粉みじんになるという。
そんな嵐の土地に四人の人間が足を踏み入れた。
彼らは、まるで風の通り道を知っているかのように風刃の隙間をかいくぐり、嵐の魔獣の足元に滑り込んだ。
驚いた嵐の魔獣は、彼らを吹き飛ばそうと大きく羽をはためかせ、大きく息を吸い込む。
それを予測していたのか、魔導士と思われる人間の女が魔獣へと引き寄せられる空気の流れに暗く輝く粉を撒いた。
死の灰と呼ばれるこの粉は、引火した瞬間に大きな爆発を起こす。
嵐の魔獣を取り巻く風に粉が満ちた瞬間、魔導士は火の魔法を放った。
――その日、嵐の魔獣が魔王の治める地は大爆音の後、大きな炎の海に飲まれた。
――嵐の魔獣は骨も残さず燃え尽きたのだった。




