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3話 初めての相談

 アーデルハイドが森の奥に消え、日もすっかり落ち、キャンプが夜の闇に覆われたころ。キャンプの空気は最悪だった。


 勇者の見た未来はどんなものだったのか。そんなに絶望的なものだったのか。後方支援の神官や騎士団員はそんな暗い話でもちきり。

 勇者パーティーの聖女や賢者、大魔導士もその例外でなく、テントに籠って永遠と話し合っているようだった。

 外にいるのは最低限の見張りの人間だけ。


 「…これからどうなるのかな…」

 

 重い空気に耐えかねて、私はキャンプから少し離れた水場に腰を下ろし夜空を眺めていた。私たちの空気とは違って綺麗な星空が広がっている。


 勇者たちの目的、魔王ははるか昔に空から降ってきたと言われている。

 強大な闇の魔力を持ち、その支配領域は永遠の夜の闇につつまれるという。

 もし私たちの国も魔王に支配されたら――。


「星も見えなくなるのかな」

「見えなくなるだろうな」


 予想しない返事を返されぎょっとして声の方を向くと、冷たい剃刀色の視線とぶつかった。夜の闇とは反対の白金の鎧と、鎧と同じ色の髪が月明りをうけてぼんやりと光って見えた。


「――アーデルハイド様…!」


 一介の神官である私は貴族であり勇者であるアーデルハイドに対しては許可なく面を上げることはほぼない。

 だから私はこの時、あの孤児院での別れの日以来初めて正面からアーデルハイドと顔を合わせた。


 勇者アーデルハイド。魔王討伐パーティーのリーダーで人類の希望。そんな私からしたら雲の上の立場の男なのに、やはり共に孤児院で過ごしたアーデルハイドなのだと思わせる面影があった。


――本当にあのアーデルハイドなんだね…。


 思わずジッと見つめてしまったので、あわてて彼に対し礼の姿勢をとり様子をうかがうが、彼はぼうっと水場の池の水面に映る星の光を見ていてこちらの事など気にしていないようだった。


――やはり幼少期、それも孤児院時代一緒に過ごした程度の私の事なんて気が付かないのだろう。存在を覚えているかどうかも怪しいところである。


 礼をしつつちらりと表情を盗み見ると、キャンプを出て行った時と比べその表情から気分は落ち着いているように見えた。

 聖女様たちに帰りを知らせるべきか?と少し悩んだが、彼のどこかぼんやりした様子に子供時代の事を思い出した。



 孤児院にいたころ、彼は孤児院の裏の丘の頂上に生えている木の下で何をするでもなく空を見て過ごしているときがあった。

 ぼーっとしてるだけなのかと声をかけると、彼はいつも決まってこう答えた。


『考え事をしていたんだ』――-と。



「…まだお考えは整理できませんか?」

 

 私は気が付くとアーデルハイドにそう声をかけていた。

 私の問いにアーデルハイドが顔を上げこちらに視線を向けてきたのを気配で感じる。

 何も返事は返してこなかったが少し質問を重ねてみる。


「お考えは一人で整理できそうですか?相談相手が必要そうでしたら、聖女様たちにお声がけしてきましょうか?お一人がよろしいようでしたら、わたくしはキャンプにもどらせていただきますが…」

「聖女たちへの声がけは必要ない」


 即座にそれだけ返事をすると、何を思ったのかアーデルハイは私の手を取り自分の隣に半ば強引に座らせた。何事⁉と混乱している間にアーデルハイドはずっと話しかけてくる。


「その服装は神官か…名前は?」

「ニ、ニコルでございます」


「そうか、ではニコル。少し…俺の気持ちの整理に付き合ってくれ」


 返事を返す前にアーデルハイドがどんどん話始める。


「隠者に『想像しうる最良の未来をイメージしろ』と言われ、言われたとおりにしたんだ。彼女の手が目を覆って…次の瞬間には未来を見ていた…。まるで現実のように感じた。ただ、体が勝手に動いてどんどん魔王の支配域に足を進めるから、隠者の見せる未来なのだとわかった」

「魔王の支配域はそう広くないらしく、このキャンプを拠点にしながら三体の強力な魔獣を各個撃破する作戦のようだった」

「最初の強力な魔獣は…今まで出会った魔物とは別格だった」


 まるで順序立てるように私に話し続けるアーデルハイド。

 正直私に話す内容なのか?という感じである。

 聞いてる感じでは登場人物は聖女様、賢者様、大魔導士様、あとは敵の魔獣だけだし。


「どう別格だったのですか?」

「…体が重くなる感覚がした」



 絶対にパーティーの皆様に話した方がいいと思いつつ、適度に相槌や質問をして会話を促しつつ、どうにかこの場を離れて聖女様か賢者様を呼びに行かねばと思っていると…。


「アーデルハイド!ようやく話す気になってくれたんだな!早速テントで作戦会議をしよう!一緒に魔王を討伐だ!」


 喜色の隠せない声音でそう言いながら、茂みから現れたのは賢者ルカ様だった。

 その背後から聖女様と大魔導士様も続く。

 私はこれでお役御免かなと、そっと立ち上がりアーデルハイドから距離をとろうとした。


 が。


 何故か距離が離せない。というか腕が捕まれててこれ以上離れられない。


 私の腕をつかむ手をたどると、それはなんとアーデルハイドで。


「悪いが、俺はニコルに話を聞いてほしいと思っただけだ。お前たちに聞いてほしいわけじゃない。…魔王討伐の事はまではまだ考えられてない」


 賢者ルカの悲痛な叫びがキャンプに木霊した。




 その後勇者パーティーで話し合いが行われ、とんでもない事が決定されたと知らせが来た。


・強力な魔物を一体倒すたびに、勇者アーデルハイドは神官ニコル(私)とゆっくりお話ができる。

・神官ニコル(私)は勇者アーデルハイドが満足するまでお話を聞いてあげる事。

・魔王討伐の事は三体の魔物を倒してから考える。

 

「なんで⁉私ただ話聞いてただけなのに!話聞くだけならだれでもいいでしょ!何の意味があるの!? 」

「でも、すごいよニコル!勇者様のお力になれるんだから!」


 神官用のテントの中で混乱する私とは違い、この決定に神官仲間のローズは物凄く喜んでいた。勇者様のお力になれるなんて素敵!っといった様子である。


 なら変わってくれよ!という感じであるが、それが無理なのもわかっている。

 この状況は全く意味不明だが、下っ端神官の立場では受け入れるしかなかった。


既に完結まで書いてありますので、ここから毎日更新していこうと思います。

よろしくお願いいたします。

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