表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煙火招来記~見習い煙火師リオンと三柱の精霊〜  作者: 吉良カンタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/5

第四話 夜空の戦場

三日目の夕刻、丘の向こうから、地響きが聞こえた。

 リオンは、貯蔵庫から出て、村の中央広場に立った。一日と一晩で作った、新しい玉と、貯蔵庫に残っていた玉、すべてを、布袋に詰めていた。

 三寸玉、十二発――うち四発は師匠の遺した玉、八発はリオンが新たに作った玉。紫の玉、一発。

 計、十三発。

 五百人を、相手にする。



 シレーヌが、空中から、降りてきた。


「リオン、敵、見えたわよ」

「数は」

「五百、と聞いてたけど、もうちょっと多いかも。六百、七百」

「……」

「軍勢の真ん中に、何かいる。たぶん、魔王軍の将軍クラス」

「鎧の色は」

「紫」


 リオンの手が、止まった。紫は、魔王軍の四天王のうちの誰か、を意味する色。


「……四天王が、来てる、ってことですか」

「そうみたいね」


 シレーヌの声は、いつもより、低かった。



 軍勢が、丘を越えてきた。

 黒い装束の歩兵、五百。騎兵、百。そして、その真ん中に、紫の鎧の、巨大な男。身長、三メートル。両手に、二振りの大剣。背中に、闇色の翼。

 魔王軍四天王、紫翼のジェラルド。

 リオンは、知らなかった。けれど、シレーヌが教えてくれた。


「リオン」


 イグニスが、隣に降り立った。


「俺たち三柱で、四天王と、軍勢、両方を相手にすんのは、無理だ」

「分かってます」

「……どうする」

「先に、軍勢を片付けます。十二発で」

「十二発で五百は、計算合わねえぞ」

「合わせます」


 リオンは、最初の三寸玉を、筒に込めた。火縄、点火、打ち上げ。

 ぱっ。

 紅の牡丹。イグニスが、紅蓮の剣を、振った。一閃で、二十人。

 ぱっ。

 青の菊。シレーヌが、青い水で、五十人を凍らせた。

 ぱっ。

 金の柳。フラゴルが、金の雷で、三十人を弾き飛ばした。



 一発につき、平均して、三十人を倒した。

 十二発、終了時点で、軍勢は、二百人ほどに減っていた。

 けれど、玉は、もう、一発しか残っていない。紫の玉、一発。

 そして、四天王ジェラルドは、まだ、無傷だった。


「リオン!」


 ジェラルドが、地面を蹴った。三メートルの巨体が、空を飛んだ。背中の闇色の翼が、広げられた。

 ジェラルドが、リオンの真上から、二振りの大剣を、振り下ろした。


「シレーヌさん!」

「無理よリオン、間に合わない!」


 シレーヌの青い水が、ジェラルドの足を絡めようとした。けれど、ジェラルドの翼が、水を吹き飛ばした。イグニスが、剣を構えた。けれど、ジェラルドの大剣が、イグニスの剣を、二つに折った。フラゴルが、雷を放った。けれど、ジェラルドの翼が、雷を反射した。

 三柱の精霊が、ジェラルドの一撃で、地面に叩き伏せられた。


「――リオン」


イグニスの声が、震えていた。


「逃げろ」

「逃げません」

「お前一人なら、逃げられる」

「逃げません」


 リオンは、紫の玉に、手を伸ばした。



「やめろ、ガキ」


 イグニスが、叫んだ。


「死ぬぞ、それを打ったら」

「分かってます」

「やめろっつってんだよ‼︎」


 イグニスが、地面から、立ち上がった。折れた剣を、捨てて、素手で、ジェラルドに向かおうとした。


「イグニスさん」


 リオンは、紫の玉を、握りしめた。


「ありがとうございました」

「ガキ‼︎」

「俺、煙火師なので。打つことしか、できないので」


ジェラルドの大剣が、リオンに、振り下ろされた。



「――待ちなさい、リオン‼︎」


 シレーヌが、空中で、両腕を広げた。青い水が、ジェラルドの大剣を、受け止めた。


「シレーヌさん」

「リオン、よく聞いて」


 シレーヌの体が、震えていた。


「私たち三柱、力を、一つにできる」

「え?」

「同時契約者は、滅多にいない。だから、滅多にやらない技だけど――三柱の力を一点に集めれば、四天王くらい、なんとかなる」

「でも、それは」

「私たち三柱の魂を、一発の玉に、込めるの」

「……」

「私たちは、消える。けれど、リオンは、生きる。紫の玉は、打たなくていい」


 リオンの手が、紫の玉から、離れた。


「みなさん、消えるって」

「すぐ戻ってこれるわ。次に呼ばれるまで、五十年くらい眠るだけ」


 シレーヌが、笑った。


「五十年か、リオン。次にあんたが私を呼ぶ頃には、あんたはおじいちゃんね」

「シレーヌさん」

「玉を、作りなさい。三柱の精霊の魂を、込められる玉。配合帳の、どこかに書いてあるはず」


 リオンは、配合帳を、必死にめくった。

――三柱の魂を込める玉。――三連同心さんれんどうしん。――三発の玉を、一つの筒に重ねて込め、同時に打ち上げる。空中で三色が同心円を描き、その中心に、契約精霊の力が集約される。


「ありました!」

「すぐ作って、リオン」

「……でも、玉は、もう、ない」

「あるじゃない。三寸玉が、ジェラルドに当たらなかった分、残ってる」


 リオンは、足元を見た。そう、軍勢に当てた十二発のうち、ジェラルドに防がれた最後の三発が、不発のまま、地面に転がっていた。

 リオンは、それを拾った。三発を、一つの筒に、重ねて込めた。


「シレーヌさん、イグニスさん、フラゴルさん」

「なに」

「ありがとうございました」

「お礼は、五十年後に」


 シレーヌが、ウインクをした。イグニスが、ちょっと笑った。フラゴルが、初めて、深く頷いた。


「リオン」


フラゴルが、初めて、長く話した。


「お前は、いい煙火師になる。師匠が、自慢できる弟子だ」


 三柱の精霊が、青、紅、金の光になって、筒の中の三発の玉に、吸い込まれていった。



 リオンは、火縄を、点けた。三発の玉が、同時に、空へ昇っていった。

 ひゅうううう――。

 ジェラルドが、空を見上げた。シレーヌの青い水を、振り払って、二振りの大剣を、空に向けた。

 けれど、もう、遅かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ