開幕話
とうとう、この時がきた。
長いようで、短かった旅の終わり。
全身が、淡い光に包まれる。
痛くも痒くもない。
懐かしい。
三年前、この時代へやってきた時のことを思い出す。
体が透け始めた。
もう、あまり時間はない。
みんなの顔を見た。
共に死線を越えた戦友。
笑い合い、時には共に涙を流したかけがえのない仲間。
誰も涙は流さない。
これは、今生の別れではないからだ。
だから俺も、笑顔を浮かべた。
「じゃあ、みんな。またな」
こうして俺は、未来へ帰った――。
◇◇◇◇◇
眩い光に包まれた直後、俺はまったく違う場所に立っていた。
湿っぽく、静まり返った暗闇。
間違いなく、過去へ渡った洞窟だった。
「無事、帰って来れたみたいだな……」
さすがは、世界を救った大魔導士の魔術。
体に異変もない。
でも、しばらく動けなかった。
体が未来に戻って来ても、心はまだ過去にあるのだ。
ふっと、小さく笑う。
今の俺の姿をみんなに見られたら、格好がつかない。
「……よし、行くか」
感傷に浸るのを止め、俺は出口へ向かう。
出口に向かいながら、過去へ渡る前の母さんとの会話を思い出す。
『母さん、俺ってどうやって戻るの?』
『大丈夫よ。魔術の効力が切れたら、自動的にここに戻ってくるわ』
『そっか。……ねぇ? 母さん?』
『何?』
『俺が過去を変えたら、この世界線にいる母さんたちはどうなるの?』
『ふふ、ありがとう。でも、私たちのことは気にしなくていいのよ』
『でも……』
洞窟内に、人がいた痕跡は見当たらない。
まだ世界の情勢は分からないが、歴史自体は間違いなく変わっている。
出口に立つと、俺は振り返った。
世界を救ったのは、あの世界線の母さんたちだ。
勇者じゃない。
「ありがとうございました」
ここまでしてもらったのだ。
あとは、この世界に生きる者たちが解決しなければいけない。
俺は、深々と頭を下げた。
『あなたは、ただ前を向いて突き進めばいいの』
母さんが、俺の背中を押してくれた気がした。
「はい!」
前を見据え、俺は走り出した。




