第六章 姫君たちの対決④
「……ほう」
同刻。スクリーンの映像を見ていた石神喜寿郎は双眸を細めた。
「御門の孫娘が来おったか」
「ええ。そのようですな」
同じ部屋にて待機する都築大樹が頷いた。
「当主さまのご希望通りの対戦カードが実現したようです」
そう言って、同席する仙石六郎もスクリーンを凝視する。
校舎上空を旋回していたドローンがとらえた映像だ。
そこには三人の少女がいる。
一人は石神沙夜。喜寿郎の孫娘であり、仙石の許嫁でもある。
一人は十字槍を携えて屋上にやって来た長い髪の少女。
六大家・御門家の次期当主。御門翔子である。
そしてもう一人は――。
「……どういうことじゃ?」
喜寿郎はその少女を見やり、眉をしかめた。
仙石と大樹も同様に表情を曇らせていた。揃って困惑しているような顔だ。
「雪のごとき白髪に、紫の瞳。あの風貌はどう見ても神宮寺家の《雪の髪》ではないか。神宮寺め。孫娘の話など聞いておらんぞ」
「《雪の髪》。確かにそう見えますな」
大樹が、あごに手をやって三人目の少女――鳳由良を見据えた。
「しかし、現在の神宮寺の直系には女児は一人もいないと聞いております。分家の者でしょうか。いや、あそこまでの見事な《雪の髪》。直系以外とは考えづらいですな」
「神宮寺にもまた何か企みがあるのでしょうか」
仙石が双眸を鋭く細める。
「どうだろうな。だが、あれは隠す気がないだろう」
大樹が問う。それに対し、喜寿郎が「ふむ」と呟き、
「あえて、あの風貌を偽装することで神宮寺家縁の者を演じているという可能性もあるが、それは神宮寺に睨まれるだけでメリットがない。恐らくは本物の異相ゆえに隠せなかったというところではないか」
「では、本物の直系ということでしょうか?」
大樹は当主を見つめた。
「言い方は悪いですが、現当主の妾の子をあの学園に入学させたと?」
「どうだかな。あるいは先代景文の娘やもしれんぞ」
腕を組んで喜寿郎はその可能性も告げる。それから仙石を見やり、
「六郎。あの娘については後で調べよ」
「……は」
頭を垂れて仙石は応じた。
喜寿郎は改めてスクリーンを見やり、
「いずれにせよ、これはさらに面白くなったな」
そう呟き、喜寿郎はくつくつと笑った。
「なにせ、あの場には六大家の内、三家の直系の娘が揃ったのやもしれんのだからな」
◆
「なんじゃ?」
一方、校舎の屋上にて、由良が翔子に視線を向けた。
「そなたが一番乗りなのか。悠樹も玉城もおらんようじゃな」
そう言うと、弓を消して立っていたフェンスの上に腰を降ろした。
「察するに別行動をしたか。悠樹たちは白藤と当たったようじゃな。悠樹たちが持っていないのか、それとも白藤が持っているのか分からんのう」
「なるほど。その口ぶりですと、私たちの襲撃は読まれていたようですね」
十字槍を片手に、翔子が由良の方に目をやって言う。
「そして石神さんは由良さんの護衛ですか?」
「うん。そう」沙夜が頷いた。
彼女もすでに臨戦態勢だ。獣殻を纏い、両手に手斧を携えている。
「ここで待っていたら悠樹が来るって聞いていた」
「ええ。確かに悠樹さんも来る予定なのですが……」
翔子は屋上の東階段の入り口の様子を見やる。
そこから人がやってくる気配はなかった。
「どうやら悠樹さんたちの方にも妨害が入ったようですね」
翔子は小さく嘆息した。
由良の言葉から推測すると、1組の誰かが妨害に入っているようだ。
人間が相手では式神ほど容易くはないだろう。
(しかし、厄介ですね)
翔子は改めて状況を確認する。
これはかなり厳しい状況に飛び込んでしまったようだ。
二対一の状況。しかも、その二人は揃って六大家の姫君たちである。
(恐らくは一対一でも手強い相手です)
翔子は自身の力量を過信しない。
由良の実力はよく知っている。まごう事なき超一流の鬼狩りだ。
沙夜の実力は直接まだ見た訳ではないが、彼女は勇猛で知られる石神家の直系だ。そしてあの悠樹が太鼓判を押すほどの実力者なのである。しかも由良は遠近戦、沙夜は接近戦のエキスパートだ。連携の相性は抜群だった。
(二人同時では、ほぼ勝算はないと見るべきですか)
ここはいったん退くべきか。
だが、このレクリエーションは点取り合戦なのだ。ここで翔子が撤退すれば、由良は再び式神の狩り放題に戻ってしまう。クラスとして敗北は確定するだろう。
(私個人が敗北しても時間稼ぎに徹するのがベストですね)
翔子はそう判断した。
すると、
「自分が敗北しても時間稼ぎがベストとか考えておらんか?」
フェンスの上でぶらぶらと足を揺らす由良に、ズバリ見抜かれて指摘された。
翔子は由良に視線を向けた。由良はふっと笑った。
「誇りよりも最善を選ぶ。それはそなたの美徳じゃな。好ましく思う。しかし、今はそこまで気負う必要もないと思うぞ。少なくとも妾にそなたと争う気はない」
そう告げて、由良は沙夜に目をやった。
「のう。そうじゃろう。石神よ」
「うん。そう」沙夜が頷いた。
「今日の私は鳳さんの護衛だから、鳳さんが戦ったら本末転倒」
「まあ、そういうことじゃな」由良はニカっと笑った。
「かといって、そなたらが戦う間に式神狩りを続けるなど無粋じゃ。というより、流石にこの戦いを脇に置くのは無理じゃろう」
そう言って、由良は足を組んで沙夜と翔子の二人を見やる。
「そなたらは二人とも妾が見込んだ娘たちじゃ。その全力を間近で計れるこの好機を逃すなど出来るはずもなかろう」
「……なるほど」翔子は由良を見つめて呟く。
「あなたは見物者――いえ、見届け人を買って出るということですね」
「うむ。その通りじゃ」由良は満足げに頷いた。
「一対一。正々堂々と戦うがよいぞ。その勝敗、妾が見届けてやろう」
「…………」
翔子は一瞬だけ考え込むが、
「……まあ、それは私にとっても好都合ですか」
そう呟くと、十字槍の穂先を沙夜に向けた。
「元より、私はあなたと仕合ってみたいと思っていましたから」
「それは私も同じ」
一方、沙夜は両手に手斧を携えて歩き出した。
「あなたには興味があった。御門家の《瑠璃光姫》」
「ええ。私もです。石神家の《砂塵姫》」
「ふむ。二人とも俄然やる気のようじゃな」
神宮寺家の《真白姫》が双眸を細める。
「では、始めるがよい。悠樹の正妻たる妾が見届けてやろう」
そう告げた。直後、数秒間だけ間が空く。
そして、
「「それ、異議あり」」
二人は全く同時に由良へと顔を向けてそう返した。
なお、翔子の方は少し遅れて「です」と続けるのであった。




