第六章 姫君たちの対決③
おもむろに。
悠樹と玉城はそれぞれの武具を構えた。
戦闘は避けられないと感じたからだ。
「(悠樹)」
玉城が悠樹に小声で悠樹の名を呼んだ。
「(隙をみて先に進め。あの嬢ちゃんは俺が何とかする)」
「(うん)」
当初の予定通り、悠樹は頷いた。
一方、緋雨は重心をさらに低くして武具を顕現させる。右手に直刀の小太刀。左手には逆手に構えた苦無だ。
「中々に凄いチョイスだな」
玉城がふっと笑みを零した。
「刀に苦無か。まるで忍者じゃねえか。なんつうか潔いな」
「はは、そうだね」
油断は見せずに悠樹も笑みを見せた。
「忍者には結構憧れてる人は多いよ。けど、刀はともかく、苦無は趣味が丸出しみたいで顕現するのを躊躇ってる人が多いって聞くから」
「……いや」
緋雨は少し困った顔をした。それから左手の苦無に視線を落とし、
「もしかして趣味だと思われてるのか? 私は一応忍びの出自だぞ」
一拍の間。
「「………………え」」
悠樹と玉城の目が見開かれる。
対し、緋雨はさらに困ったような表情を見せた。
「いや、普通にいるだろ? 忍びなら。陰陽師や忍び、侍の出自もいる。今の鬼狩りにはそういった武芸の系統が合流して統合されたものだ。有名どころなら六大家の石神家や御門家も祖は武家だったと聞くぞ」
「え、確かにそうだけど……」
悠樹は困惑しつつ、緋雨を左手で指差した。
「え? ええ? じゃあ白藤さん、君って本物の?」
そう尋ねる悠樹の指先は少し震えている。
緋雨は「むう」と少し不満そうに頬を膨らませて、
「こういうのは嫌なんだぞ。なにせ秘匿こそが真髄の稼業だしな。だが、あえて言うのなら私は本物だ。本物の忍びの血統で、幼い頃から修行も受けている」
「「――マジで!?」」
悠樹と玉城は同時に声を上げた。
そうして二人して緋雨をまじまじと凝視する。
その視線に対し、緋雨は「う」と呻いて胸元を両腕で隠しつつ身を捩じった。
あまり異性に凝視されるのは彼女であっても嫌だった。まだ悠樹の方はともかく、玉城の方は外見も中身もおっさんなので尚更である。
「あ、あまり凝視するな」
緋雨がそう言うと、二人は「ご、ごめん」「セ、セクハラは勘弁しろよな!」と言って視線を外した。ただ、その後、互いに顔を見合わせて、
「ザ、ザックさん! 本物だよ! 本物の忍者さんだよ!」
「お、おう! 俺も初めて会ったぞ!」
興奮気味にそう語っていた。
その瞳は少年のよう――まあ、悠樹は正真正銘少年なのだが――に輝いている。
一方、緋雨は「うう」と少し引き気味だ。
「忍法! 忍法は使えるの!」
「おう! そうだぜ!」
悠樹と玉城は再び緋雨に視線を向けた。
生まれて初めて本物の忍者に出会い、二人ともかなり興奮しているようだ。
緋雨は「むう」と呻きつつ、
「忍法か。まあ、使えないことはない。なら一つ見せてやるか」
苦無を消し、すうっと人差し指を立てた。
悠樹と玉城は「「おおっ!」」と緋雨に注目する。と、
――ふっと。
緋雨が微笑んだ。
直後、悠樹たちの背後から腕の影のようなモノが伸びてくる。それは玉城のみに絡みつき、彼を一気に引き倒して、階段の下へと引きずり込んでいった。
「うひょおおお!?」
どこか嬉しそうな玉城の叫び声が聞こえて、遠ざかっていく。
悠樹は目を見開いて、その光景を見つめていた。
「……忍法、影腕だ」
緋雨が言う。悠樹はハッとして緋雨に視線を戻した。
「あの男は邪魔だったからな。しばらく離脱してもらうことにした」
「すっ……」
悠樹は興奮を隠せずに声を上げた。
「凄いっ! 本物の忍法だ!」
「……いや。少しはあの男を心配してやったらどうだ?」
呆れるように、緋雨が言う。
が、すぐに表情を真剣なモノに改めて、
「だが、これで邪魔者はいなくなったな」
左手に苦無を顕現し直して、緋雨は前傾に低く身構えた。
「では、お前の実力を見せてもらおうか。四遠悠樹」
◆
――ズンッ!
十字槍が敵の喉を貫く。
同時に、妖鬼の姿の式神が崩れ落ちた。そのまま燃え尽きていく。
これが最後の一体だった。他に二体はすでに倒して姿もない。
翔子は、ひゅんと十字槍を軽く薙いで息を吐いた。
苦戦することはなかったが、誰かに戦闘の邪魔をされることもなかった。やはり1組の生徒は全員裏山の方に向かったようだ。
腕のデバイスを確認してみると、2組に七点加点されている。あまりに違いは感じられなかったが、先ほど倒した三体の内、一体は上級式神だったようだ。
一気に七点加点は大きかった。
「幸運ですね。ですが、まだ点数差は大きいですね」
翔子は眉をひそめる。
1組には今も加点されているが、2組の方は翔子の七点で止まっている。そろそろ1組のメンバーも裏山に到着して点取り競争が始まってもおかしくない頃合いなのだが、由良が大幅に数減らししているせいで、両クラス共に遭遇率が悪いのかもしれない。
ともあれ、由良を止めなければ逆転は難しいということだ。
「いずれにせよ、急ぐべきですね」
翔子は再び駆け出した。階段を一気に駆け上がる。
屋上のドアに到着するまでは数秒だった。
「……さて」
息を切らせてはいないが、翔子は一度呼吸を整えた。
(屋上には縁がありますね)
そんなことを思う。
そう言えば、悠樹と友人になったのも屋上でのことだった。
そして今日は――。
「………」
翔子は双眸を細めて、屋上のドアを開けた。
視界が広がる。そこには空と森の景色があった。
屋上を囲うフェンスの上には一人の少女が立っている。由良だった。矢を番えて今も次の獲物を狙っているようだ。
そうして、
「……ん、残念」
屋上にはもう一人少女がいた。彼女も見知った少女だ。
ただ、彼女――石神沙夜は翔子を見やると、少しだけ不満そうにこう告げた。
「悠樹君じゃなかった」




