第六章 姫君たちの対決①
戦闘の開始は機械的なアラームで伝えられた。
訓練服の右手首に組み込まれたデバイスからのアラームである。小さなモニターも組み込まれており、そこには両クラスの得点も表示されるようになっていた。
なお、ゲーム終了時もアラームで教えてくれる予定だ。
「さて。行こうぜ」
ようやくのスタートだ。
2組の生徒たちが森の中を駆け出した。男子生徒が二人、女子生徒が一人のチームだ。三人ともすでに獣殻は纏っており、万全の態勢でゲームに臨んでいる。
「レクリエーションでもやっぱ負けんのは嫌だしな」
男子生徒の一人がそう嘯いた。
三人は人を超えた速度で森の中を進む。と、
「お。いたぜ」
先頭を走る男子生徒がそう告げた。
足を止め、それに倣って残りの二人もその場で止まる。
木々の向こう。そこにいるのは二メートルほどの妖鬼だった。もちろん本物ではないが、宝角までリアルに再現した教師陣の式神だった。
「……おお、リアルだ。めっさ気合いが入ってんぞ。先生たち」
長剣を構えながら、生徒の一人が言う。
「マジで本物そっくりだ。息遣いまで伝わってきそうだぜ」
「あんたって本物にあったことがあるの?」
双短剣を構える女生徒が尋ねた。
「私はまだないんだけど?」
「ああ、俺もだな」
斧槍を持った男子生徒もそう告げた。
「家が許してくれなかったからな。もしかしてこっそり実戦したのか?」
「いや、こっそりじゃねえよ。俺の場合はちょいと違うかな」
長剣の男子生徒が気まずそうな表情を見せて言う。
「霊獣と契約したばかりの頃に、親父に連れられて一度だけ実戦に参加させてもらったんだ。相手は第一階位の群れだった」
一拍おいて、
「親父にしてみれば、俺が調子こいて暴走しないように経験させてくれたんだ。下手に禁止するよりもそっちの方がいいと思ったそうだ。最下級でも群れだ。マジで妖鬼の恐ろしさは身に染みたよ。まあ、たぶん今回、やたらと式神妖鬼にリアルさを追求してんのも学校が同じことを考えてるかもな」
ヒュンっと長剣を薙ぐ。
「疑似実戦ってとこだろう。だとしたらそこそこ強いのも考えられるぜ。レクリエーションだからって舐めない方がよさそうだ。気を付けろよ。お前ら」
「了解」「まあ、三対一だ。堅実に行こうぜ」
仲間たちがそう答えた時、
『がああああああッ!』
式神である妖鬼が咆哮を上げて突進してきた。
三人は迎え撃つためにそれぞれの武具を向けた――瞬間、
――ズドッ!
いきなり妖鬼は真横に倒れてしまった。
三人は「「「へ?」」」と目を丸くする。そして警戒しながら倒れた妖鬼を見やると、こめかみに白い矢が突き刺さっていた。
「え? ヘッドショット?」
女生徒が目を瞬かせた。続けて周囲に目をやるが、ここは森の中だ。木々が障害になって狙撃は難しい場所だった。
「え? どこから撃ったの? 誰がやったの?」
「誰か近くに潜んでんじゃねえか?」
斧槍を持った男子生徒が眉をしかめながら言う。
それに対し、もう一人の男子生徒が長剣を肩に担ぎ、
「なら味方だな。1組はまだ裏山に到着もしてねえだろうから。けど」
そこで少し不機嫌な表情を見せた。
「これじゃあ獲物の横取りだろ。味方としてはマナー違反だぞ」
そう呟いた時だった。
――ピコンっと。
右腕のデバイスが鳴った。三人とも自身のデバイスに目をやった。
そして、
「「「へ?」」」
三人とも目を丸くした。
◆
一方、校舎近くの繁みの中。
悠樹と翔子、玉城も自身のデバイスに目を向けていた。
「……うわあ」
悠樹が顔を引きつらせて呻いた。
「まだ開始五分なのに1組と十点差も付けられているよ」
続けて校舎の屋上を見やる。
丁度そこから白い矢が撃ちだされるところだった。
数秒ほど間を空けて、デバイスが1組の加点を告げてくる。
しかも一気に五点も加点された。特に説明は受けていなかったが、恐らく式神には格が設定されているようだ。上級式神は高得点らしい。
先ほどの一撃で上級式神が一体仕留められたということだ。
「……おいおい」流石に玉城が渋面を浮かべた。
「白い姫さん、張り切り過ぎだろう。式神は全部で数十体って話だったよな?」
「はい。この勢いでは三十分もしない内に決着がついてしまいそうです」
翔子は眉をひそめている。
その時、ようやく2組に加点が入った。
しかし、わずか一点だ。開始五分で十五倍も差がついたことになる。きっと、敵味方を問わずに――たぶん見学している他のクラスも――困惑していることだろう。
そうこうしている内にもさらに二射放たれ、数秒後には1組に二点加点された。
「とにかくまずいよ」
悠樹は二人を見やる。
「想像以上に由良がやる気満々だった。早く止めないと」
「おう。そうだな」玉城が頷く。
「もう校舎付近には1組連中の姿もねえ。二手に分かれて屋上へ行こうぜ」
そう告げて、翔子の方を見やる。
「姫さん。作戦通り俺は悠樹と一緒に行くぜ。東階段からだ。もし1組の連中がいたら俺が引き受けて悠樹を先に向かわせるぜ」
「はい。では私は南階段から向かいます。お二人ともご武運を」
「おう」「うん。御門さんも気を付けて」
玉城と悠樹は首肯した。
翔子は一礼をして、南階段のある校舎へと向かった。
残された悠樹たちは互いに視線を合わせて、
「それじゃあザックさん」
「おう。俺らも行くか」
強く頷き合うのだった。




