第五章 特別授業④
同時刻、森の中。
悠樹たち2組のメンバーは散開していた。
森の中からスタートする方が圧倒的にメリットはある。
2組の生徒たちは誰もがそう考えていた。散開する時は、むしろ誰が一番多く式神を狩れるかなどと楽し気に語っている者たちも多かった。
まあ、悠樹と翔子、玉城だけは何とも言えない顔をしていたが。
三人で校舎に向かって森の中を進んでいく中、
「……運がないなあ」
とても率直な感想を、悠樹が口に出した。
初戦が由良のいる1組であること。その上、地の利まで外れを引いてしまった。
運がないと思うのも仕方がないことだ。
「ガハハッ! まあ、しゃあねえだろ」
玉城はそんな悠樹の背中を豪快に笑いながら叩き、
「そうへこむなよ。こいつは俺らの運が悪いっていうよりも、むしろ白い姫さんの引きが強いってことじゃねえか?」
「そうですね。由良さんはとても勝負運が強そうですから」
と、翔子も同意する。
「……確かに由良はここぞという時の引きは凄いよ」
まだ少しへこみながらも、悠樹は言う。
「ロシアンルーレットをしたら、きっと最後まで当たらないと思うぐらいだよ。けど、レクリエーションぐらいは少し容赦があってもいいんじゃないかな?」
「まあ、運なんてもの自分で操れるもんじゃねえしな」
ボリボリと玉城は頭を掻いた。
「運勝負を嘆いても仕方がねえ。とりあえず作戦通りに行くか」
「うん」悠樹は頷く。
「開始前に出来るだけ校舎に近づくこと。スタートと同時に校舎に向かうよ。ただ、校舎が見えたら少しだけ姿を隠す」
「校舎からスタートする1組の生徒たちが森に向かうのを確認するのですね」
翔子の言葉に、悠樹は「うん」と首肯した。
「流石に1組の生徒たちが大勢残っている中で姿を見せたら迎撃されるからね。数が減ってから校舎に入って屋上に向かうよ」
「まあ、そんな時間は掛かんねえだろうな」
玉城が腕を組んで推測する。
「1組にしてみりゃあ不利なスタートだ。まずは裏山に行くのは当然だな」
「そうだね」悠樹は振り向いて頷き、
「五分もしない内に校舎はほぼ無人になると思う。けど」
そこで渋面を浮かべた。
「沙夜ちゃ……石神さんは校舎内に残ってるような気がする」
「いや? なんでだ?」玉城が首を傾げた。
「石神の姫さんは接近戦組だろ? 探査や遠距離戦が得意な奴なら残ってるかもしんねえが、接近戦組は速攻で裏山に向かうだろ?」
「うん。そうなんだけど、意外と由良と石神さんって馬が合うみたいなんだ」
悠樹は頬を掻いた。
「クラス内だと結構一緒にいるって。もしかしたら由良の護衛を買って出てるかも」
「おいおい、そいつは厄介だな」
流石に玉城も渋面を浮かべる。
「砂塵姫と一戦しなきゃならねえってことかよ」
「うん。可能性としては」
悠樹がそう返すと、「石神さんがいるのですか……」と翔子が呟いた。
進む足も止めて、考え込むように唇に指先を当てている。
「御門の姫さん?」「御門さん?」
悠樹と玉城が彼女を見やると、翔子は顔を上げて、
「悠樹さん。玉城さん。もし校舎内に石神さんがいらっしゃるのなら、彼女は私に任せて頂けないでしょうか?」
「え?」「おいおい」
悠樹と玉城は驚いた顔をした。
「私はまだ彼女の実力を知りません」
一方、翔子は言う。
「ですので、彼女とは一度手合わせをしてみたいのです」
「ほう。瑠璃光姫と砂塵姫のタイマンかよ」
興味深そうに、玉城はあごに手をやった。
「ほぼ世代最強の決定戦だな。大注目を浴びる対戦カードだぞ。こんなレクリエーションですべきじゃねえ気もするんだが」
「このようなレクリエーションだからこそ、気を張らずに戦えそうですから」
翔子は微笑んでそう返した。
「どちらが負けたとしても両家が口出すこともないでしょう」
「ああ、なるほどな。確かにそうか」
玉城はニヤリと笑った。
「うん。そうだね」悠樹は翔子を見て頷いた。
「今回はそういった気軽さはあるかもね。けど、石神さんは強いよ。それに」
悠樹は少し遠い目をした。在りし日の頃を思い出しているのだ。
悠樹は、ふふっと笑みを零しつつ、
「石神さんは相当な負けず嫌いだし。互いに熱くなり過ぎないように気を付けて。二人とも怪我だけはダメだからね」
それから玉城の方を見やり、
「もし他に由良の護衛者っぽい人がいたら、ザックさんに任せてもいい?」
「おう。構わねえぜ」玉城は胸を叩いて即答した。
「白い姫さんの相手は悠樹がするしかねえだろ。マジで姫さんの乱射はエグイからな。ぶっちゃけ防ぎきる自信がねえよ」
「……ははは」再び悠樹は遠い目をした。
「僕も全部は無理だよ。けど、屋上にまで辿り着けたらどうにかなるかな。限られた空間ならまだ勝ち目はあるよ」
と、冷静に分析する。
「とりあえず方針は決まったな」
玉城がスマホを取り出して見やる。
「じきに開始時間だ」玉城は双眸を細めた。
「そろそろ獣殻を纏おうぜ。もう少し校舎に近づいておきてえしな」
「うん。そうだね」「はい」
遥か年長者の言葉に、悠樹と翔子は頷いた。
そうして五分後。
1組と2組による第一戦の幕が開けるのであった。




