第五章 特別授業①
沙夜が編入してきて一週間が経った。
流石にそれだけ経てば、クラスメイトたちも編入生に少しは慣れてきた。それは編入生たちの方もだ。そこでこのタイミングで教師陣は特別授業を行うことにした。
授業というよりも一種のレクリエーションである。
元々は入学から一か月後に行う予定だったのだが、いきなりの戦死者や、その事後処理、さらには編入生たちの対応のため、開催が大幅に遅れてしまっていたのだ。
「週明けに行う特別授業は一言でいえば『狩り』だ」
1年2組の教室。
教壇にて、2組の担任である新堂教諭が告げる。
「うちのクラスは1組と行う。クラス対抗戦のレクリエーションと思ってくれ」
そう前置きしてから、
「場所は校舎内及び裏山だ。そこに鬼に見立てた式神を数十体放つ。一時間の制限の中で式神を狩った数が多いクラスが勝利ということだ」
「先生」生徒の一人が手を上げた。
「他のクラスとは戦わないんですか?」
「戦う予定だ。勝ち抜き戦を予定している」
新堂教諭は答える。
「四日間かけて行うことになる。脱落したクラスは見物ということになるが、さぼるなよ。誰かの戦いを見ることも良い経験になるからな」
「クラス対抗ということは、チームで協力するというのもOKなんですか?」
別の生徒がそう尋ねると、新堂教諭は「ああ」と頷き、
「個人戦ではないからな。むしろ協力するのは必須だと思ってくれ」
そう告げた。
「個人の力量も大切だが、団結も重要だからな。だからこその特別授業だ」
そこで新堂教諭は苦笑を零した。
「相手の妨害や、そのための生徒同士の戦闘も許可している。とは言え、程度は考えてくれ。今回は成績とも無関係だからな。そこまで気張る必要はないから楽しんでくれ。逆にレクリエーションだからこそムキになってもいいが、怪我だけは気を付けろよ」
この時間は自習だ。作戦会議にでも使ってくれ。
新堂教諭はそう告げると、パイプ椅子に座った。自習時間に入ったようだ。
生徒たちは各々に立ち上がると、仲の良いメンバーで集まり始めた。
翔子もまた悠樹の元に向かった。
ちなみに悠樹のところには、すでに別の人物があった。
「ははっ、中々面白そうなイベントじゃねえか」
椅子に座る悠樹の肩を叩き、そう告げる人物は角刈りの巨漢だった。
2組の生徒であり、年齢を偽装したおっさん高校生、玉城坐空である。
「だが、初戦の相手が1組というのは結構エグイか」
「そうなのですか?」合流した翔子が玉城の言葉に小首を傾げた。
「確かに石神さんもいますから、個々の実力は高いイメージもあります。ですが今回競い合うのは狩りの個数ですし、運の要素も相当に強いと思いますが……」
「ん? あ、そっか」玉城は翔子の方を見やり、苦笑を浮かべた。
悠樹もまた同じような表情を見せている。
「御門の姫さんは、まだ白い姫さんの真骨頂を知らねえのか」
「うん。由良はまだあれを人前で見せてないし」
と、悠樹が言う。
「どういうことでしょうか?」
翔子が悠樹を見つめてそう尋ねると、悠樹は「う~ん」と唸り、
「由良って『鷹の目』を持っているんだ。ほら。上空から俯瞰して見るような空間把握能力。しかも視力も抜群な上に、由良の矢ってホーミングが出来るんだよ」
「え? それは……」翔子は片手で口元を押さえた。
「例えば校舎の屋上から標的を見つけたら、そこから射抜けるということですか?」
「うん。逃げても追いかけてくる矢を無尽蔵に撃てるんだ」
悠樹は苦笑を浮かべながら体験談を語る。
「森の中なんて最悪だよ。訓練の時、よくやられるんだけど、由良の姿は見えないのに矢だけが追ってくるんだ。直線だけじゃなく曲がったりもするんだ」
「それは由良さんが一度でも視認したらマーキングされてしまうということですか?」
「うん。そうみたい」
翔子の質問に悠樹が頷いて答える。
「由良自身、討った矢のコントロールは意識してないって。まあ、意識したマニュアル操作も出来るそうだけど、基本的には自動ホーミングなんだって」
「……それはまさに……」
そう呟きかけて、翔子は口元に片手を当てる。
まさしく弓の大家。神宮寺家の真骨頂だった。
かの一族は、遠距離戦においては無類の強さを誇る。
かつて第八階位の妖鬼・ザガを相手に見せた圧倒的な物量の《黄金魄》といい、改めて由良が神宮寺家の直系であるのだと確信する話だ。
「いやはや、マジで反則だよな」
その時、玉城が両腕を組んで口角を上げた。
「遠距離戦じゃあ、まず白い姫さんには勝てねえ。俺らに勝ち目があるとしたら、姫さんに標的を狩り尽くされる前に姫さん自身を妨害することだな」
「うん。ザックさんの言う通りだね」悠樹も言う。
「由良がフリーになったら絶対にダメだと思う。いくらレクリエーションだからって一方的に負けたら流石に皆へこむだろうし」
と、がやがやとそれぞれ作戦会議――もしくは談話するクラスメイトを見やる。
今のところは楽しそうな感じだが、いざ対抗戦が始まればギョッとするに違いない。そしてほぼ何も出来ずに、由良一人に負けてしまう未来が見える。
彼らとて鬼狩りとしてのプライドがある。ただのレクリエーションであっても模擬戦闘で大敗すれば、精神的には相当に効くだろう。
同じ教室で過ごし、それなりに親しくなったクラスメイトたちだ。
出来ることなら、無駄に落ち込む姿は見たくなかった。
「由良って、勝負事には遊びであっても本気になるタイプだし、きっと手加減なんてしてくれないだろうから……」
「白い姫さんはまだ自分の手の内を見せてないんだろ?」玉城が悠樹に問う。
「むしろこの機会に自分の力を見せつけるかもしれねえな。あの美貌に、圧倒的な実力。三年後の神槍争奪戦において、この機会に先制する気かもな」
と、やや髭が伸び始めているあごに手をやりつつ、玉城は推測する。
その可能性は大いにあり得た。ギリギリまで実力を隠しておくという選択肢もあるが、由良は放っておいても目立ってしまう人物だ。隠しきるにも限界があるだろう。
「まあ、結局それは由良自身に聞いてみないと分からないけど」
悠樹は苦笑を零した。
それから改めて教室内のクラスメイトたちを見やり、
「皆が由良のことをまだ知らないのは事実だ。話しても簡単には信じられないだろうし、そもそも僕から由良の手の内を話すのもなんだかだし……」
こういっては何だが、結局のところはただのレクリエーションだ。そんなことで相棒の隠している実力を暴露するのは流石にあり得なかった。
「とりあえず、ザックさん。御門さん」
悠樹は傍に立つ二人を見やる。
「レクリエーションでも模擬戦だ。簡単に負けるのもどうかと思う。だから、まずは由良を僕ら三人でどうにかしよう」
と、提案するのであった。




